罪罰コンビwithタケミチ


「おっ」
「あっ」
「えっ」
「タケミチじゃん。どうしたの? ヒナちゃんと喧嘩して家出?」
「いや、なんか小腹が空いたんで適当にコンビニで買おっかなって……お二人は何を…………」
「見て分かんねえ? 酒飲んでんの」
「コンビニの前で……?」
「コンビニの前で。や、私は帰ろうって言ったんだけどさ、半間がどうしてもここで飲んでくって聞かなくて」
「ハア? 高賀だってなんだかんだ言いつつ賛成したくせに。酷ェ女。リンドークンに今からお前のネガキャンすっから」
「はいはい勝手にやってろ。お前の言葉と私の言葉だったら竜胆くんは絶対に私のこと信じてくれるんだよ。ねー、タケミチもそう思うよね?」
「まあ確かに、竜胆くんならリコちゃんの言うことなんでも信じそうですね」
「だよね! 半間は竜胆くんからの信頼ゴミカスだから。ほとんど何も無い。ほぼ無。あ、タケミチこっち来な。柿ピー分けたげる」
「わ〜い! ……いやこれ柿ピーっつーかピーですよ。ピーナッツしかないじゃないですか。リコちゃんまだピーナッツだけ残す癖治ってないんですか?」
「なんかピーナッツ勝手に余るんだってば。残してるわけじゃなくてね」
「高賀が花垣に色目使ってる、っと」
「え⁉︎ オレ⁉︎」
「は⁉︎ おいふざけんなアホ馬鹿」
「まあ待て待て。まだ送ってねえぞ? でも送っちゃおっかなあ?」
「チッ……要求はなんだ」
「あー……あ、ハムスターの名前考えてくんね?」
「は?」
「ハムスターってアレ? 彼女のことそう呼んでる感じ?」
「花垣失礼すぎじゃね? 普通にちっせえハムスター。なんだっけな、ジャンガリアンハムスター? とかいうやつ」
「え、いや、半間アンタハムスターとか飼うの? 生き物だよ? 命だよ? 分かってる?」
「分かってる分かってる。オレ基本暇だし、なんつーの、アニマルセラピーとかいうアレ。面倒見んのは得意だから」
「嘘つけ。お前面倒見られる側だろうが。タケミチもこの無責任なアホになんか言ってやって」
「そもそもどこでハムスターを手に入れたのかが気になるんだけど」
「や、フツーに隣んちのペットのハムスターが子ども産んだの分けてもらった」
「なにもフツーじゃないよ。お隣さんもよく罪罰男に赤ちゃんハムスター分ける気になったな……」
「……そういや千冬のバイト先のペットショップにめちゃくちゃ背の高いイケメンが来て、ハムスターのゲージとか餌とか買ってったって聞いたな…………」
「それ多分オレだわ。どうせ飼うんなら広いゲージで飼ってやりてーじゃん。わりと可愛いから写真見てみ」
「うわちっちゃ! これ半間くんの手の上⁉︎ いや、ちっちゃ!」
「えーっ可愛い、超可愛いじゃん! 酒が進む可愛さ! ってかめちゃくちゃアンタに懐いてない⁉︎」
「そら可愛がってやってからな〜、愛が伝わってんだろ。でよ、コイツの名前考えたいわけ。なんか案ねえ?」
「えー、えー……鮭とば、柿ピー、チーズ、食パン……」
「高賀流石にそれはねえわ」
「リコちゃん……」
「はあ〜? 最高のネーミングセンスだろうが。ってか、ダメ出しだけじゃなくて二人もなんか考えてよ。柿ピーとか可愛くない? ワンちゃんもイヌピーって呼ばれてるらしいしいいじゃん。イヌピーと柿ピーってなんかお揃いみたいだし」
「イヌピーくんが飼ってるならまだしも半間くんが飼ってるのに……? ジャンガリアンハムスターだったっけ? ジャガーにしましょうよ。そんな車のメーカーありませんでしたっけ」
「あー、あるある。っつーか、ジャガーって顔じゃなくね? アレだろ、なんかもっとこう……」
「えー、柿ピーよりマシだと思ったんスけど……」
「タケミチ諦めよ。こいつ納得するまで否定しかしないから。ほら、次半間のターンだよ。私たちが納得するようないい名前出してみな」
「いや否定しかしねえわけじゃねーし。あー名前名前……えーっと…………あ、キサキ」
「は?」
「え?」
「良くね? キサキよりテッタの方が呼びやすいか。でもコイツ雌なんだよな〜どうすっかな」
「……?」
「いや……え?」
「キサキだったら雌でもいけっか」
「いや流石にさあ、それはさあ」
「ですよね! リコちゃんも流石にそれはないって思いますよね⁉︎ なんかこう、なんか、ヤバくないですかそれは」
「やっぱ柿ピーのが良くない? それかあの、羽虫とか」
「ええええ⁉︎ リコちゃん⁉︎」
「羽虫の方がなくね? それにこういうのはちゃんと名前使った方が分かりやすいんだって。アイツさ、自分が羽虫って呼ばれてたこと知らねえから、名前で呼んでやった方が喜ぶだろ」
「あー、まあ確かに……?」
「いやいやいやいや、待って! 待って二人とも!」
「うっせ〜。何? 花垣も酒飲みてえの?」
「えー、ダメだよタケミチ。アンタまだ二十歳になってないでしょ。流石に社長秘書が揃って未成年に飲酒進めるとかウチがヤバいから」
「違くて! ハムスターの名前! キサキとか羽虫とかやめませんか⁉︎ あの世でキサキが泣いてますよ!」
「喜びで?」
「なわけねえだろ! アイツ結構変な奴でしたけど、ハムスターに自分の名前付けられて喜ぶような奴ではないです! 半間くんが一番よく分かってますよね⁉︎」
「あー、確かにキレそう」
「え〜、キサキ良くね? じゃあ花垣がなんか考えてみろよ。オレら納得させられなきゃ強制的にキサキな」
「柿ピーは? なしってこと? 酷すぎ」
「柿ピーはない」
「それはないです」
「は? ホント酷いわ。竜胆くんコイツらいじめてくる……えーん、慰めて……」
「慰めてやってもいいけど、こんな時間まで何やってんだよ」
「え?」
「は?」
「うわ」
「なん、え、竜胆くん? なんで?」
「半間からリコが花垣に色目使ってるって連絡来たから来た。おい花垣、お前良い気になんなよ」
「なってないです! 色目使われてない!」
「半間アンタ連絡しないっつってたじゃんか」
「なんか押しちゃったみたいだわ、ウケる」
「ウケないですよ!」
「まあいいや、リンドークンもハムスターの名前考えてくんね?」
「は? なに、お前、女のことペット扱いするタイプの人間?」
「揃いも揃って失礼すぎんだろ。普通にハムスターだから。写真見てみ」
「あ、私も見たい」
「じゃあオレも見ます」
「リコこっちおいで。花垣お前リコに近寄んなよ。で、ハムスター? どうせ女のことで……いやマジでハムスターじゃん」
「わーっ、やっぱ可愛い! ね、柿ピーのこと社長室で飼わない? さすがのデブもハムスターを食料だと思ったりしないからさ」
「柿ピー? 食料?」
「はあ? キサキはオレのペットだから。ウチで飼うんだよ」
「は? キサキ?」
「竜胆くん、この二人のこと止めてください」
「いや、そもそも何の話してんだよ。ハムスター? つまみ? 人間?」
「ハムスター! この二人がさっきからハムスターの名前は柿ピーかキサキのどっちかにするって言って譲らないんですよ! 半間くんはともかくリコちゃんは竜胆くんにしか止められません!」
「はー、なるほど……リコ、柿ピーは流石にないだろ」
「え⁉︎ 竜胆くんまで私のセンスを貶す感じ⁉︎」
「獅音の方がもっとマシな名前付ける」
「やっぱり柿ピーはないよね。柿ピーって言い出したの誰? しおんちゃん?」
「変わり身早すぎじゃね? じゃ、キサキで決定か〜」
「リオはハムスターは食べないけど、マンジロークンならその名前のハムスターは食べようとするかもな」
「……」
「あー、マンジローか……確かに」
「流石のマイキーくんもハムスター食べたりはしないと思いますけど……その名前だと、まあ、四六時中ゲージの前に立ってストレス与えるぐらいのことは…………」
「…………」
「お前わりと最近ボコられて骨折られてんだから分かんだろ」
「……よし、名前考えろお前ら」
「流石ッスね竜胆くん!」
「お前に褒められても嬉しくねえ」
「おっ、私の出番か? 凄いねえ、偉いよ竜胆くん。私たちのこと止めてくれてありがとねえ。お礼にちゅーしようね。どこがいい?」
「口」
「ん。はい、ちゅー」
「……あの、リコちゃんと竜胆くんってめちゃくちゃ酔ってます?」
「高賀は酔ってっけど、リンドークン素面じゃね。まあいいや、花垣、お前が考えろよ」
「えー……キスしてる二人の横で……?」
「別にテメェの彼女の名前つけてもいいんだぜ。なんだっけ、ヒナちゃん?」
「分かった分かりました考えます、考えますからそれだけは……」
「七秒で考えろ。はい、なァな、ろォく」
「七秒⁉︎ いや、え、ジャンガリアンハムスター……ジャンガリアン……ジャ……」
「ほら頑張れタケミチ〜! ピーナッツあげるからね!」
「リコはもう酒飲むのダメ。家帰って眠くなったから寝るとか言われても困るから、ほら貸せ。オレが飲む」
「い〜ち、はい、ゼロ! 考えられたよなァ? 聞かせてみ〜」
「……じゃがいも」
「は?」
「いやだから、じゃがいも……」
「は?」
「あはははは! え、めちゃくちゃいいじゃん! じゃがいもね、なんかほら、可愛いよ。あはは、ウケる! はー、ほんとウケる……ほらピーナッツ食べな、じゃがいも」
「いやオレじゃがいもじゃないんですけど。タケミチです」
「じゃがいもどこから出てきたんだよ」
「あー、まあ柿ピーとキサキよかじゃがいもの方がいいんじゃね。ジャンガリアンハムスターなんだろ? 芋入ってないけどじゃがは入ってんじゃん」
「そういう問題じゃなくね? じゃがいも、じゃがいもかー……」
「半間ァ、明日ぐらいにじゃがいも見に行くから部屋片付けといて〜。大寿くんも連れてくから、あんま汚いとさ、怒るじゃん」
「いやオレがそっちにじゃがいも連れてきゃいいだけだろ。部屋片付けんのめんどくせーし、どうせ三階か四階かの違いじゃん」
「今オレたちん家マンジロークン泊まってっけど、また骨折られたいならウチ来いよ」
「……片付けるか〜」
「はい、話まとまったし解散解散。帰んぞリコ」
「りょーかーい! じゃあねタケミチ〜、ヒナちゃんと仲良くやれよお! 半間はまた明日ね〜、酒用意しといて〜」
「おー、ウチ来る前に連絡寄越せよ〜」
「うい〜。ね、家でまた飲んでいい?」
「駄ァ目。マンジロークン明日の昼まで帰ってこないんだから、さっきの続きしよ」
「えー、もーっ! 仕方ないんだからあ!」
「アイツら最後までイチャイチャしてんなァ……ハア、オレも彼女ほしー。花垣ィ、女紹介してくんね?」
「いや、半間くんについてける子周りにいないッスよ」
「なァんか含みのある言い方しやがって。ま、じゃがいも待ってっし帰っかな〜」
「じゃがいもでいいんだ……ハア、オレも帰ろ。ヒナに会いたい……」