バカップルwith大寿くんB


「オレになんか言うことねえの?」
「うーん……おはよう!」
「うん、おはよ。もう昼だしそれじゃねえな」
「ええ……こんにちは?」
「まあ時間的にはそうだよな。こんにちは。でもそれも違う」
「……あ、おやすみの挨拶できなかったからそれ?」
「違う」
「…………ちょっと待って、考える時間欲しい」
「考えるようなことじゃないだろ。おい大寿、お前が教えてやれよ」
「テメェが突っ込んできたせいでオレの左手の小指の骨が折れた。二度と酒を飲まないかオレに訴えられるか選べ」
「それを教えてやってほしいわけじゃねえんだよなあ……」
「……これって私が勝つ可能性ある裁判かな……ココくんなら知り合いに凄い弁護士いないかな…………」
「まさかお前、酒を選ぶのか?」
「いや逆に酒を選ばないはずなくない? 酒か訴訟か。誰に聞いたって酒って答えるよ」
「灰谷、コイツはもう手遅れだ。テメェが責任持って廃棄するか、オレが訴えるか、そうだな……実家に送り返すかの三択だ。選べ」
「オレが責任持って一生そばにいる。実家に帰したらもう二度と帰って来てくれなさそうだろ」
「いや普通に帰るよ。私信用無さすぎじゃん。実家は実家だからね? 今の私の家は竜胆くんと暮らしてるマンションだよ」
「……それならいいけど」
「なんも良くねえだろ。テメェは何流されてんだ」
「竜胆くんのいる場所が私の帰るところだから、心配しないで。酒飲んで酔い潰れても、目が覚めて気付いたら北海道に居ても、こんな風に骨が折れてても絶対帰っ……⁉︎ え⁉︎ これ何⁉︎ わ、私の黄金の左腕が!」
「逆に疑問なんだがなんでそんな派手に吊るされててここまで気付かないんだ」
「こういう所も可愛いだろ。まあ大寿には分かんないか。いや、分かろうとしなくていいからな。オレだけ分かってればいいことだから」
「死んでも分かりたくねえから安心しろ」
「折れてる! 折れてるよコレ! なんで⁉︎ って言うかここ病院⁉︎ 見覚えのある天井だあ……」
「この馬鹿も今更騒ぎやがって……。ここがテメェらの家だったとして、オレがテメェの寝室にいることがおかしい事だと普通なら一番最初に気付くだろ」
「酔い潰れてみんなで帰ってきたのかなって……まあ大寿くんは昨日あんまり飲んでなかったけどさあ……」
「そこは覚えてんのか。なあリコ、他に昨日の夜に何があったか覚えてる? それ覚えてるんならその骨折の理由も、オレに言うことも分かると思うんだけど」
「ええ……昨日は大寿くんと半間と飲んでたでしょ? それで日付変わったぐらいに店から出て、そろそろ帰ろうかってことになって……なんかそういえば最近自転車乗ってないみたいな話をしたような気が……」
「うん、それで?」
「それで……そうだ。たまたま千冬とタケミチに会ったんだよ。二人とも自転車乗ってて、乗りたいなら乗ればって言って千冬が自転車貸してくれて、じゃあ遠慮なくって半間が乗った。多分。ここまであってる?」
「あってるよ」
「いや、コイツに都合のいいように事実が捻じ曲げられてるだろうが。そろそろ甘やかすのはやめろ。そんなんだから馬鹿のまま成長出来ねえんだ」
「でも大体はあってるだろ? それにリコは相当酔っ払ってたのにちゃんと周り見れてて偉いよ。ちょっと前のリコなら店出たあたりから絶対なんにも覚えてなかったもんな。成長してる。大寿が分かってないだけだ」
「えへへ〜。褒めてもなんにも出ないよ? あ、竜胆くんのこと好きって気持ちなら出てくるけど」
「それは出さなくてもいいよ。もう十分伝わってるし。でも、もし出すんなら二人だけの時にして。大寿にだってお前がオレだけに見せてくれる可愛いとこは見て欲しくない。それにオレもリコがくれるのと同じだけ、お前のことが好きだって気持ちを返すから」
「もういっぱいもらってるから、これ以上もらったら溢れちゃうよ。でも嬉しい。竜胆くんがくれる気持ちだけでお腹いっぱいになっちゃいそうだね」
「なってくれよ。オレがあげるものだけで満たされてて」
「うん。竜胆くんのことも私の気持ちで満たしてあげるからね。手始めにちゅーする?」
「だな。しよう」
「するな、気狂い共が」
「……流石に大親友とはちゅーは出来ないかな……」
「テメェ何勘違いしてやがるこのドブ女。オレの方からお断りだ。ハァ……本当にテメェと話してるとこっちまで気が狂いそうになる。いいか。テメェらは松野からチャリを借りたんじゃねえ。無理矢理奪ったんだ。それでぶっ壊した」
「記憶にないです」
「だろうな。起きてからの言動でそれは分かってる。仕方ねえから説明してやるが、半間が運転してたチャリがテメェに突っ込んで、テメェがオレに突っ込んできて、で、コレだ。ぶっ壊れたチャリの金はテメェと半間で返せよ」
「……つまり、何、私が大寿くんの小指折ったってこと?」
「そうなる」
「えー、それはごめん! いや本当に全ッ然覚えてないんだけど、確かに言われてみたらそうだったような気がしてくるの……お詫びに今度のレポート手伝うね」
「その左腕でか?」
「利き手じゃないから余裕。って言うかこれ、私たち揃って骨折したってことか。えっ、なんか左腕がめちゃくちゃ痛くなってきたんだけど。呪い?」
「骨折してるからだろ」
「まあそれはそう」
「なあ、そろそろいい? 話終わったか?」
「うん。大寿くん許してくれるって」
「そんなこと一言も言ってねえが」
「許してくれないの?」
「……次はないと思え」
「はあい。ね、許してくれるって。あとね、竜胆くんに言わなきゃいけないことも分かったよ。心配かけてごめんね? なるべく早く帰るって約束したのに私が骨折したなんて聞いたらびっくりしちゃったよね」
「本当だよ。無茶するなってのは最近聞いててくれたのに、まさか酒飲んでこんな馬鹿やらかすなんて思ってなかったんだけど。しばらくオレのいないとこで酒飲むのやめて」
「う、うーん……それはなあ…………」
「なんで? オレと飲む方が良くね?」
「や、大寿くんと半間と飲むのも楽しいからさ。まあいっか、竜胆くんがそばにいればいいんだもんね。大寿くん、今度はウチで飲もう」
「は?」
「……まあそれなら良いか。大寿、言っとくけどお前泊まるんならソファーで寝ろよ」
「は?」
「あれ、マンジローとか泊まりに来る時に使ってる布団あるじゃん。アレはダメなの?」
「ああそっか、リコ知らないのか。あのな、暫くマンジロークンがウチに泊まるっつってるから布団は貸せない」
「テメェらの家で飲むとも言ってねえし、泊まるとも言ってねえが」
「へえ。また家出?」
「いや、リコのことが心配だからって」
「なんで?」
「こうして骨折してるからだろ。リコは覚えてないんだろうけど、救急車乗せられて最初にマンジロークンの連絡先、救急隊員に伝えてんだよ。同乗した花垣もテンパって普通にそうですっつったせいでマンジロークンに真っ先に連絡が行ってんの」
「……なんか嫌な予感してきたぞ…………大寿くん、その予感間違ってるって言って!」
「散々人のこと無視して話進めやがって、都合が悪くなるとコレか……あ? なんだ? 嫌な予感? ……まあ間違ってねえだろ。オレがここにいてアイツが居ねえ時点で、テメェも分かるんじゃねえのか」
「分かりたくないの!」
「意味の無い現実逃避はやめろ」
「えーん、大親友が手厳しいよ……まあ私は骨折してるし記憶ないから、多分そのまま寝ちゃったんだよね。大寿くんも処置してもらって一旦帰ってまた竜胆くんとここに来てくれたんだとして……四人ぐらい足りないね……?」
「因みにオレがお前が病院に運ばれたって聞いてここに来た時にはもうマンジロークンはいたな」
「……因みに、タケミチと千冬は……?」
「アイツらもいたけど帰した。松野のチャリに関してはオレが金握らせといたし怪我もしてなかったからひとまず気にしなくていいよ」
「うう、千冬にお詫びしなきゃ……竜胆くんも迷惑かけてごめんね…………それであと一人は、その……というかウチの弟はどこに……」
「聞きたい?」
「聞きたくない! でもさあ、ほら、弟だし……あとその、今回の件は酔いすぎた私が悪かったから許してあげてほしいっていうか……」
「うん。マンジロークンもリコならそう言うだろうからって左腕しか折ってない」
「ぎゃーっ! 折ってるんじゃん! ちょっと大寿くんマンジローのこと止めてよ!」
「俺に言うな、灰谷に言え」
「いや竜胆くんも折る側の人だからね⁉︎ わー! ごめん半間! ごめんね! ってかアイツ今どこいんの⁉︎」
「不幸な事故で左腕の骨が折れちまったから今多分診察受けてる。本当にたまたま、偶然の事故でこんなことになるなんてな」
「ごめんね半間ー!」