聖女さまの話


 高賀リコが聖女たる所以、以前から信仰の拠り所にされてたのは何故?という話。


 リコは多分記憶が正しければベテルギウスでは4回? とか死んでる。ここはちょっと眠くて数が怪しいのでそのうち訂正するかもしれないけれど。


 そもそも聖女様って何?
 適当に調べたんだけど「神聖な事績を成し遂げた女性」「気高い女性」。

 一般的に、それぞれの社会において宗教的に敬虔であり、神の恩寵を受けて奇跡を成し遂げたとされたり、社会(特に弱者)に対して大きく貢献した、高潔な女性を指して呼ぶ言葉である。宗教とは無関係に、「慈愛に満ちた女性」を指して形容し、賞賛したりする例も見られる。キリスト教では、女性の聖人を指す呼称。(Wikipedia「聖女」より引用)

 らしいです。
 じゃあリコは聖女様なのかと言うと、これはかなり微妙な気がする。宗教とは無関係〜の辺りですけど、リコは決して「慈愛に満ちた女性」ではなくないですか?
 きょうだいたち、家族、大切な人、竜胆くん。リコにとって大切なもの、慈しんで愛すべき人たちはその四つの括りに入る人達だけ。人間関係の判定がガバガバなので色んな人を枠組みの中にぶち込みますけど、誰にだって平等に慈愛を振り撒くのかというとそうではない気がします。
 人を切り捨てられるし、命の取捨選択が出来るし、それをする時に基本的に迷わない。そういう人間なのでは。

 上記と関連してるのかしてないのか、急にトロッコ問題の話を始めるんですけど、リコは「赤の他人5人」と「きょうだい1人」なら一切迷うことなくきょうだいを取って「赤の他人5人」はトロッコで轢き殺します。罪悪感は感じると思うんですけど、でもきょうだいを選ぶことがリコにとっては当然なんですよ。世の理というとスケールが大きくなりすぎてしまうんですけど、まあリコにとってはそれが常識で必然で当たり前。
 では「竜胆くん」と「きょうだい」だったらどちらを取るのかというと、これは多分というか確実に「きょうだい」ですよね。竜胆くん自身も何度も言っているように、リコはそのふたつを天秤に乗せた時に竜胆くんを選べません。でも竜胆くんがいないと生きていけないと自覚しているし、竜胆くんを一人で死なせたりしないので、自分も後を追って死ぬ。竜胆くんもそれを理解している。


 聖女様ではなくない?

 何もかも奪われれば慈愛を振り撒く化け物にはなれるかもしれませんが、それは結局化け物です。その証拠にゆりかごのリコは化け物にしかなれなかった。聖女様と呼び慕われて一身に崇拝を受け入れて、信仰を受け止める浅い皿はバキバキに砕けて、化け物として死んでいったわけじゃないですか。最後の最後に高賀リコとしてタケミチに過去とそれに連なる未来を託したわけだけど、罪がなくなることなんてないから三人ぼっちでずっと炎の中で寄り添いあってるんですよ。聖女様か?


 だけど悲しいことに、ほとんどずっと誰かのために、誰かを庇うようにして死んでるんですよね。

 10月25日の集会終わりに刺殺されたルートだと咄嗟にクマを庇ったわけですし、福音ではイザナを庇っていますし、グレゴリオでは例えもう無駄だったとしてもエマちゃんを庇おうとしています。
 ゆりかごは自殺したようなものなので除外しますが、以前何かで言った通りリコの遺骨は死後祀られ続けます。地獄?


 他者を切り捨てて見殺しにして懐に入れた人間を救うことに躊躇いはないけれど、その懐に入れた人間を救うためなら自分が死ねる。これを慈愛とするならば、彼女は間違いなく慈愛の精神を持ち合わせ、気高いまでに自己犠牲的であることになる。
 愛が呪いで呪いが愛なら、リコは誰かを愛していなければ生きていけない人です。誰かを愛し、愛されていなければダメ。ちょっと弱いよこの子……。でも人間ってまあそういうものだよね。なんだかんだ言って一度与えられた愛を忘れられない。離れられない。手放せない。
 人間らしい素敵な子じゃん……。


 でも実際そういう人っていませんか? なんかなんとなく、信仰の拠り所みたくなっちゃう人。周りに人が集まるという子、厄介なものばっかり集めるというか、誰かに依存されやすいというか。え〜〜ん難しい眠い

 リコは分かりやすいんです。「この人だ」って分かる。選ばれた人だって簡単に分かる。選ばれて、恵まれて、与えられてる。最初からそう。それは天性のもので、生きる上で獲得して言ったものじゃない。だから手放せない。自分じゃ捨て方も分からない。
 ではどうするかというと、手放せないならば後から属性を足しまくればいいってわけ。「姉」「妹」「恋人」「親友」だとかまあその他諸々。自我の確立に必要なのがそれら。それらがなければ結局信仰の拠り所にしかなれない。他者がいないと自分を成立させられない。
 きょうだいたちにめちゃくちゃ執着していますけど、多分竜胆くんが少年院にぶち込まれていなければそっちにもっと執着していたはずです。だけど竜胆くんとの2年の別離を経験したことにより余計に執着しているからもうわけがわからないね。


 正直リコ自身も自分の信仰を受け止める器が浅いこととか、でも多分この先一生信仰を寄せられ続けることとか、下手したら稀咲だってマシな口でこの先もっと面倒な信仰を向けられるかもしれないこととか分かってるわけですよ。信仰は愛で、愛は呪いで、時に殺意にもなり得るから。
 稀咲はリコを殺そうとはしませんでした。生きてなきゃ意味ないもん。生きて自分の聖女様になってくれなきゃ!と思っていたので。導き手、救ってくれる人、正しさ、それから許し。求めていたのはそれ。リコがきょうだいたちや竜胆くんに与えているもの。それってつまり結局聖女様だってことじゃん……


 ベテルギウスを完結させてから多分言ってたことなんですけど、今のリコは牙を折られて見掛けの強さを手放さざるを得なかった、内に獣性を秘めているだけの普通に可愛くて綺麗なお姉さんです。なのに芯の部分はずっと真っ直ぐで、思う力は増してる。愛ばかりが増えていってる。
 だから危ないわけですよ。知らず知らずのうちに宗教団体「ゆりかご」で崇拝されていた聖女様、竜胆様に近付いてる。手放してなんてないのにだよ。怖いよね。

 リコがこの先竜胆くんやきょうだいたちと生きていくために向き合わなければならないことは、「どちらを選ぶのか」と「己に寄せられる信仰」のふたつです。前者はまあ色々と選択。後者はまあ色々と信仰。


 withのリコはそれを乗り越えてます。乗り越えた上で選んで、信仰とも向き合い、だからどうしようもないぐらいに俗っぽくて酒が大好きでやらかしてばっかりの普通の大学生になってる。帰る家は竜胆くんと暮らしているマンションで、起業した兄の秘書をやっていて、友人とは頻繁に飲みに行って遊びにも行く。きょうだいたちと物理的に離れていても大丈夫になれたリコ。


 信仰の方は答えっぽいものはもう出てます。属性を足しまくればいい。本当にそれだけ。風船みたいな女を誰かが地面に括り付けるみたいにしてればいいし、浮かび上がれないぐらいに重しをつけちゃえばいい。その重しは誰なの? 何なの? どこにあるの? という話です。



 とはいえこのままだとリコは信仰心に殺されます。悲しいね。
 僕の聖女様は死を持って完成するのだ〜^^の精神で信仰を寄せる信徒がいないなんて言ってないよね?