Turn.10
あんな顔であんな声で
本日の仕事は外国の方のボディガード。
羽咲空港にて依頼主を待つこと二十分。私達の前に姿を現したのは美術品集めが好きなジンク・ホワイトさんというお方。期間は、高菱屋で集めた美術品を展示する間の一週間。
挨拶を交わして早速ジンクさんの傍につく。ジンクさんは私を見るやいなや傍へやって来た。
「名前? 名前ではないか!」
「やはりジンクさんでしたか! 依頼主の話を聞いて、そうだろうなと思ってました」
外城さんやうまのすけさん達はポカーンとしている。それもそのはずだ。私がいきなり依頼主のボルジニア人と仲良く話をしているのだから。
外城さんに「知り合いか?」と聞かれ、頷きながら答える。
「はい。以前ボルジニアへ出張した時にジンクさんのボディガードをした事があったんです」
「その時はしっかり名前達に守ってもらえたからな。今回もよろしく頼むぞ」
「お任せください」
そして私達は空港を後にした。
私達のチームは二つに分かれ、14時間交代で一週間という計算で動く。
私の属するチームにはうまのすけさんと他三名。私はジンクさんの左側に、うまのすけさんは右側に、他三名は後ろという配置で歩いていく。
今日の予定は荷物を受け取り、高菱屋の倉庫へ送るだけ。
安全確認の為にうまのすけさんが居る右側に目をやる。
「っ!」
ちょうどうまのすけさんと目が合ってしまった。少し動揺したが、すぐに目を逸らす。
……何でこんなに意識しているんだろう。それもうまのすけさん相手に。……おかしいな。
荷物の搬入を終え、ホテルにチェックインする頃には夕方になっていた。ジンクさんはルームサービスで夕食を済ませて寝るという。
その頃私は、うまのすけさんとドアの前で見張りをしていた。
「………」
「………」
沈黙が続き、空気が重い。
うまのすけさんはズカズカと私の繊細な部分に入ってきては勝手にくつろいで、出て行こうとしない。そんなイメージを勝手に頭の中で構築しているとうまのすけさんに話し掛けられた。
「お前、ボルジニアにも行ってたんだな」
「はい。言葉も少しならわかります」
「すげえな」
「そんなことありませんよ」
「なんだよ、謙遜すんなよ」
「本音です」
褒め言葉を素直に受け入れず、つっけんどんに返すと、うまのすけさんは不思議そうな顔をした。
「何でお前はそんなに自分に自信が無えんだよ」
「……別に自慢するような事でもないかなって」
「そうか?」とうまのすけさんは首を傾げた。そしてうまのすけさんはしばらく考えた後、私の腕を握った。
「何ですか?」
「細いな、こんなんで務まるのか?」
「いきなり何なんですか……」
いきなり失礼な。暇なのかな、この人。仕方ない、どうせ今は周りに誰も居ないしちょっと構ってあげよう。
「うまのすけさん、手を」
「ん?」
うまのすけさんは私の言う通りに手を差し出したので、握手をするようにして握った。
「なっ!?」
「……」
ごつごつとして男らしい手だ。全体的に大きくて指も長い。うまのすけさんは何か言いたそうに口をパクパクさせていたので、すかさずうまのすけさんの親指を自分の親指で押しつぶす。
「レディッファイッ! 12345……!」
「あってめ! ズリいぞ!」
「89……あっ!」
あと一秒というところで、うまのすけさんの親指は私の親指から逃れた。そしてにじにじと親指をくねらせて向かってくる。
「なかなか、やりますね……!」
「へっ、伊達にチェスをしてねえよ!」
「チェスは関係ありませんよね」
「良いんだよ!」
「はいはい……」
「隙あり!」
「あっ!」
呆れているとうまのすけさんの親指が私の親指を捕らえた。逃れようとしても逃れられない。もう、こういう時ばかり力が強いんだから!
「1234……」
「だ、だめ…! あっ…!」
「5、6……」
「やだっ、離し……ッ!」
どれだけ力を込めてもうまのすけさんの親指が離れない。
手に汗を握りながらも必死に逃げようと動かすが徒労に終わる。
「おねがっ、……ああっ!」
「な、なな……は、ち……」
「ま、負けちゃう……ん?」
うまのすけさんの数える声がゆっくりになっていくので、どうしたんだろうと顔を覗きこんだ。
「うまのすけさん?」
「!!」
名前を呼ぶと、うまのすけさんは私の手を急に離して数歩下がった。その慌てぶりがあまりにも大げさで、逆にこちらが驚く。離された手をうまのすけさんに差し出す。
「どうしたんですか? しないんですか?」
「で、出来るかアホ! もういい! 馬鹿な事やってねえで仕事に切り替えるぞ!」
「はあ……」
そして私達は再びドアの前に立って見張りを再開したのだった。
(うまのすけさんはよくわからないなぁ)
(あんな顔であんな声で……こいつは俺で遊んでんのか? それとも本気なのか?)
(20120120)
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Smotherd mate