Turn.11
近くて遠い距離
翌日、ようやく私達のチームは外城さんのチームと交代になった。
私の属するチームはジンクさんの部屋の隣の二つを頂いている。私とうまのすけさんと他三名の五人でその二部屋を分けなければいけない。部屋には三つずつベッドがあり、今はどちらの部屋に誰が行くかの割り振り中だ。
「さて、部屋の振り分けだが……苗字、すまんが部屋が取れなくてな。今更だが、野郎と同じ部屋でも大丈夫か?」
「大丈夫です、問題ありません」
まあ確かに間違いを起こせるような命知らずはここに居ないなハハハと笑っているうまのすけさんの首をすばやく右に曲げると、ゆっくりと床に倒れていった。
他3名の仲間はそれを見て危機を察知したのか、私と目を合わせようとしなくなった。
「……あ、部屋の振り分けどうしましょうか?」
これから部屋の振り分けをするはずだったのに、うっかりうまのすけさんを落としてしまった。私は申し訳無さそうに眉を下げながら仲間へ顔を向ける。
「お、俺、隣の部屋にします!」
「俺も!」
「俺もっす!」
三人揃って隣の部屋が良いと言い出した……となると、私とうまのすけさんの二人でこの部屋になってしまう。それはちょっと嫌だな。けれど三人とも断固として聞いてくれそうにない。
……仕方がない。妥協に妥協を重ね、私がうまのすけさんと同室になろう。決まるやいなや部屋から出ようとする背中に声を掛ける。
「あ、部屋に行く前に……」
「はいぃ!?」
「なんでしょうか!」
出来ればそんなに怖がらないで欲しい。私がうまのすけさんに暴力的になるのは、彼が失礼な言動を繰り返すからであって、誰かれ構わず無差別に攻撃をするわけではない。
そんな失礼な言動を繰り返すうまのすけさんを指差して、三人に助けを求めた。
「うまのすけさんをベッドに乗せるのを手伝ってくれませんか?」
***
「……ん? 俺、どうしたんだっけ……?」
「あ、おはようございます」
私が室内のシャワーを浴びてタオルで頭を拭いていると、ようやくうまのすけさんが目を覚ました。ベッドから体を起こして首を押さえている。
「おう。……あ? なんか首痛いんだが……」
「寝違えたんじゃないですかね?」
「そうか……」
「うまのすけさんもシャワーを浴びてきたらどうですか?」
「!?」
私はうまのすけさんの動揺を見逃さなかった。勘違いさせてはいけないのできちんとフォローを入れる。
「しっかり休んで交代までに体力を蓄えないと」
「あ、ああ。そうだな、そうだよな!」
自分に言い聞かせるように何度も頷くうまのすけさん。ああ、この人は意外に純情なんだなぁ。変に意識されるとこちらがやり辛い……いや、私のこれも自意識過剰だろう。気にしないようにしよう。
「つうか、何で俺がお前と同じ部屋なんだ?」
シャワーを浴びたうまのすけさんはタオルで頭を拭きながらこちらへ歩いてきた。ズボンは履いているが上半身は裸だ。その姿に驚いて、座っていた椅子が小さく揺れた。
「ほ、他の方達が隣が良いと仰ったので。ベッドは各部屋3つしかありませんし……というか服を着てください!」
「へえ……お前でも恥ずかしいんだな」
うまのすけさんは意地悪な笑みを浮かべながら私に近づいてくる。私は今まで仕事一本で生きてきたから、男性に免疫なんて全くない。目の前に半裸の男性が居るのだ、そりゃあ心臓も落ち着いていられない。
「なあ」
「ひっ」
うまのすけさんは私が座っている椅子の左右の手すりに手をかけて、逃げられないようにした。何だかいつもの彼と違って、少し怖い。
「いつもの仕返し……いや、お仕置きだな。まぁ、俺は優しい男だから、安心しろよ」
「……ッ!」
私の知っているうまのすけさんと違う。動揺して体が石のように固まり、心臓の鼓動が早くなる。未知の恐怖に怯えていると、だんだん目の前のうまのすけさんの姿が滲んできた。
(何だ? いつもならこの辺りでビンタかパンチが……)
「って、お前泣いてんのか?」
「……な……です、か……」
「え? なんだって?」
私の途切れ途切れの声が聞こえなかったのか、うまのすけさんは耳を近付ける。
「泣くもんですかー!」
「ぐほおおぉああ!」
すかさず私はうまのすけさんのみぞおちに右ストレートをクリーンヒットさせた。仁王立ちしながら、お腹を押さえて痛みにあえぐうまのすけさんを見下ろす。
「本当にあなたという人は……」
「くそっ……嘘泣きかよ……」
「甘いですね、うまのすけさん。さて、私はこのままあなたを縛って安全に寝ようと思います」
「おいよせやめろー!」
ーーこうして私は、1回目の休憩を平穏に過ごす事が出来たのだった。途中まで本気で怖がっていたとか、胸がドキドキしていたとか、少しだけ期待しちゃったとか、そんな事は断じてない。
翌日。
隣室に逃げた三人に「昨日はどうでした?」と聞かれたので「次から一人にしてください。うまのすけさんはそちらの風呂場にでも寝かせてください」と返すと苦笑していた。他人事だと思って……。
顔の火照りを隠す為にさっさと仕事モードに切り替える。昨夜の事は忘れなければ。
私は涙など、簡単に流してはいけないのだから。
(20120120)
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Smotherd mate