Turn.12
狙われし宝石 前編
その話を聞いたのは、交代の時間の時だった。
現在高菱屋ではジンクさんの持ってきた美術品を一般公開している。それと同時に高菱屋に犯行予告が届いたらしい。
あの大怪盗、怪人☆仮面マスクから。
「「「ええええー!?」」」
「はあ?」
驚く私達と正反対に間抜けな声を出すうまのすけさん。トノサマンといい仮面マスクといい、この人は世間の流行に疎いのだろうか。
「何だ、そのなんちゃらマスクとは……」
「知らないんですかうまのすけさん! 怪人☆仮面マスクは今、世間を騒がす有名な怪盗ですよ! 犯行予告を出して、狙ったお宝は必ず奪うんです。私はブロマイドも持ってます」
「アホかお前は……」
「何ですって!」
「お、おい」
「あっ……」
私はうまのすけさんにずいっと詰め寄る。が、思ったより顔が近くなってしまい言葉が止まってしまった。お互い無言で見つめ合うだけで何も言えない。
フッと頭に昨日の事が蘇る――うまのすけさんが半裸で私に迫ってきた時の事を。
「「……ッ!」」
(絶対昨日何かあったよなこの2人……)
(ああ……)
(怪しい……)
チームの他三名のひそひそ声が聞こえてきて、私は我に返り、急いでそっぽを向いた。うまのすけさんも何やら困惑していた。社内で変な噂が立つのはマズイ。というか全部うまのすけさんのせいだ。
「名前、頼む! わしの美術品を守ってくれ!」
「ジ、ジンクさんちょっとストップストップ!」
ジンクさんと顔を合わせると、すぐさま私の肩に手を置いて力強く揺さぶってきた。非常に取り乱しているのがよくわかる。
「それで、いつやってくるんですか?」
「三日後の午前1時じゃ! ヤツは図々しい事に、他でもないワシの美術品を狙ってきおった!」
「なんという美術品ですか?」
「《キレーナの瞳》という宝石なのじゃが、ワシのお気に入りでな、絶対に盗まれたくないんじゃ!」
三日後の午前1時。日が変わると同時にうまのすけさんと外城さんのチームが交代する予定だから、私達の警護になってからちょうど一時間後だ。という事は仮面マスクに会えるかもしれない。ジンクさんには申し訳ないが、ワクワクしている自分もいる。
「任せてください、ジンクさん。あなたも美術品も守ってみせます」
「おお! 頼むぞ名前!」
私がうまのすけさん達に目配せすると、うまのすけさん以外は頷いてくれた。うまのすけさん一人だけが「やれやれ」という顔をしていた。
本日の警護も難なく終了。今日のジンクさんは、美術品を見に来たお客さんと会話をしたりと平和に過ごしていた。
そして夜、私とうまのすけさんはジンクさんの部屋の前で相変わらず見張りをしている。今日一日静かだったうまのすけさんが口を開いた。
「安請け合いしやがって、失敗したらどうすんだ」
「その時はその時です。最悪、ジンクさんだけでも守れれば」
「どうなっても俺は知らねえぞ」
「ご心配なく」
「ケッ」
つまらなさそうにうまのすけさんは吐き捨てた。仕方なく私はうまのすけさんのご機嫌を取ろうと手を伸ばす。親指相撲のリベンジのつもりだ。
「!!」
しかしうまのすけさんは私の手を握り返す事なく、何故か驚いて顔を真っ赤にした。その理由がわからず、小首を傾げる。
「どうしたんです?」
「どうしたって、お前……!」
「やらないんですか?」
「やるかアホ! その手をしまえ!」
うまのすけさんが必要以上に怒鳴る。仕方なく、右手を静かに下ろした。
「……声が……すぎんだよ…」
「? 何か言いました?」
「何も言ってねえ!」
「私の声がどうかしました?」
「だから何も言ってねえよ!」
私のしつこい問いかけに苛立ったうまのすけさんは突然頬を引っ張ってきた。よく伸びる私の頬を見て、うまのすけさんは新しいおもちゃを見つけた子どものようにはしゃぐ。
「いひゃひゃひゃ!」
「へッ、スゲえ伸びるなお前」
うまのすけさんはもう片方の手で私の反対側の頬も引っ張り始めた。
「いひゃいへふっ! うまのふへはん!」
「あ? 何言ってるかわかんねーよ苗字」
完全にいたずらっ子と化したうまのすけさんは私の頬を伸ばしたり揉んだりとやりたい放題だ。仕返しに、私もうまのすけさんの頬を掴み返す。
「ひでででで! 何ひやがる!」
「うまのふへさんが先にやっへきはんはないへふか!」
「はなへあほ!」
「やへふ!」
うまのすけさんの頬は意外とすべすべで少し羨ましく思った。しかし男性の肌ゆえか、頬の皮はあまり伸びない。
「ふぐぐぐぐ……!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
私もうまのすけさんも一歩も引けない状況となってしまった。
その時、部屋のドアが開いた。
「……何しとるんじゃ、お前達は」
「「!!!」」
私とうまのすけさんは瞬時に手を離し、ジンクさんの方へ体を向けた。
「ジ、ジンクさん!? どうしたんですか!?」
私は額に汗をにじませて心臓をドクドクさせながらジンクさんに尋ねる。私とうまのすけさんのあまりの焦り様がおかしかったのか、ジンクさんは失笑しながら答えた。
「何やら騒ぎ声が聞こえたからな。それと、少し外へ出ようかと思っての」
「かしこまりました!」
私とうまのすけさんはお互いに睨み合いながらジンクさんの護衛を再開した。
(ばか)
(あほ)
何も言葉にしなかったが、まるで互いに心の声が聞こえているようだった。
(20120123)
[
←
|
title
|
→
]
Smotherd mate