Turn.4
トーナメント 後編
遂に準決勝がやってきた。対戦相手はうまのすけさん。
散々嫌な事をされたり言われたりしたけど、私は個人的な感情で行動を左右したりしない。いつでも相手に礼儀を尽くし敬意を払って行動する。彼に対して失礼な戦い方をするつもりはない。ただ、今までの事を振り返ると勝手に力がみなぎるだけだ。うん、本当に全然恨みなんて無いし正々堂々と戦うつもりですから。
「始め!」
「へへ、遂にお前と戦う時が来たな。だが、外城と戦うのは俺だ!」
「はいはい」
合図と共にうまのすけさんが喋り出した。あなたはどこぞのRPGの中ボスですか。どうも真剣さを欠かれてしまう。
距離をはかりながらゆっくりうまのすけさんに近付くと同時に、彼は私を捕まえるべく両手を広げて走って来た。なんだか犯罪者のようで今すぐ通報したくなった。
「うおおォお――」
うまのすけさんが私を掴む直前、体を落として足払いをかける。綺麗に入ったその足払いにうまのすけさんがバランスを崩した。
「――おオっ!?」
うまのすけさんの両腕は空を撫でるだけに終わり、私を飛び越えて前から倒れるも、すんでのところで受身を取り前転をして立ち上がった。すかさず私は距離を詰め、首めがけて右足で蹴りを入れる──
「へっくしょい!」
「なっ!?」
が、タイミング良く大きなクシャミで蹴りをかわすうまのすけさん。なにこの悪運! ありえない!
「くっ!」
一回転して体勢を立て直そうとしたその隙に、私を捕らえようと伸ばしていたうまのすけさんの左手は見事に掴んでいた。……私の右胸を。
「ッ!!」
「あ? なんか柔らか……」
「〜〜このド変態が!!」
私はうまのすけさんの顔面を、全身全霊の力を込めて拳で殴った。しかも中指の第一関節を少し出してより顔面を抉れるように。
うまのすけさんの体は軽く宙に浮いた後、どしんとマットに沈み込む。周りは私が胸を捕まれた事に気付いていないらしく、何故うまのすけさんが負けたのかわかっていないようだった。それだけが救いだ。
「勝者、苗字!」
「すげえパンチ……」
「サブリーダー生きてっかな……」
生きていなくていい! 見るだけじゃ飽き足らず触るなんて!
私は眉間に皺を寄せながら場外へ大股で出て行く。気絶したうまのすけさんは他の人に足を引っ張られて放り出されていた。そのまま焼却炉に捨ててきて欲しい。
そして決勝戦。相手はもちろん外城さん。ちなみにうまのすけさんはまだ気を失っている。
外城さんと向かい合い、どう攻めるかイメージする……が、全くと言って良いほど隙がない。どこから攻めても反撃に合いそうだ。しかし私だって海外で学んできたんだ。ここで負けたら女が廃る!
結果から言おう。負けました。
今、私は外城さんによりマットへ叩きつけられ天井を見上げている。負けてしまった。悔しくて仕方ない。肩で息をしながら体を起こそうとするが、思うように動けない。そんな私に外城さんが手を差し伸べてくれた。
「良い勝負だった、苗字」
「……ありがとうございます」
手を握るとそのまま引っ張り起こされる。その大樹のような力強さに、やはり男性には力では敵わないと改めて感じた。
だからこそ『力』ではなく『技』で勝負をかけたのだけど、それでも負けたのだからやはり外城さんは本当に強いのだ。まさしく完敗だが、スッキリしていた。このリーダーになら私は付いていきたい。
そしてトーナメントの優勝は外城さん、準優勝は私という結果に終わった。
「トレーニングは以上。各自、シャワーを浴びてオフィスへ戻るように」
その指示に、皆散り散りになってトレーニングルームから出て行く。あのシャワールームに男性陣が行くとなると、私はいつシャワーを浴びればいいんだ。
少し時間を置いて脱衣所へ行くがまだチラホラと男性の姿があった。そして非常に男くさいのが難点だ。どうしようかと考えていると、私の頭の中に浮かんだ場所は女子更衣室だった。
「女子更衣室にもシャワーないのかな」
ふと思い立ち、急いで戻って確認をしてみる。すると、女子更衣室の奥にシャワールームを発見。喜びよりも落胆の気持ちが強く、へなへなと力が抜けて四つん這いになった。
朝から気付いていればあんな悲惨な事件は……いや、済んだことは仕方ない。きっとこのシャワールームは長らく使われていないのだろう。切り替えが大事だ。うまのすけさんのことはまだ許してないけど。
皆よりも大分遅れてしまったので、私は素早くシャワーを浴びた。
「よう」
「あっ」
更衣室から出ると廊下にうまのすけさんが立っていた。どうやら私を待っていたようだけど……何だろう、今朝からやたら突っかかってくる気がする。
特に興味を示さず目の前を通り過ぎようとすると舌打ちされた。
「無視かよ。ツレねえな」
「……現在私の中でのあなたの株は下落中なのですが」
「まあなんだ、外城相手に良くやったと思うぜ」
「あれ? 気絶してませんでしたか?」
「流石に起きたっつーの!」
気絶した自覚はあったのか。
また何か変なことになる前にさっさと離れようと話を切り上げる。
「……どうも。では失礼します」
「ま、待てよ!」
「何ですか?」
うまのすけさんをじろりと睨みつけると、どこかバツの悪そうな顔をしながら口を開いた。
「お前の胸を揉んだりして悪かった!」
「大声で言わないで下さい!」
私はうまのすけさんの首に全力で手刀を食らわせて、その場から光の速さで逃げ出した。
何を言い出すかと思えば、本当に最低の一言だった。本気で謝る気あるのか。……やっぱりあの人に関わるとろくな事がない!
(最低! 最低!! 最低!!!)
こうして、私の中のうまのすけさんの株はどこまでも下落するのだった。
(20120116)
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Smotherd mate