Turn-End.
エピローグ
――ひょうたん湖公園
「……え? 何!? 名前ちゃんが結婚!?
しかも相手は……うそだあああぁあー!
……そんなぁ、名前ちゃん、今度俺と会ったら運命だって言ってくれたのに……!
あんなウマ野郎に取られるなんて!
……待てよ、もしかしたらウマ野郎が無理やり名前ちゃんを!?
こうしちゃいられねえ! 俺は名前ちゃんを助けに行くんだー!
そしたらきっと『矢張さんって素敵、結婚して!』ってなるはずだ!
よーし、待ってろよ、名前ちゃん!!」
――総務事務課
「きゃあ〜! 名前ちゃんと内藤さんが結婚するの!?」
「やだ嬉しい! でもこうなるってわかってた!」
「ホント、こっちまで嬉しくなるねぇ。結婚祝いどうしよっか?」
「何にする? 可愛くって思い出になるものにしようよ!」
「そうだね! ペアの食器とかどうかな。チェス柄とか」
「二貴ちゃんにしてはいいアイデアだねぇ」
「でしょでしょ!?」
「今度2人の愛の巣にお邪魔させてもらいますか! まずはベッドルームから……なーんて!」
「きゃー! 一藤ちゃんのえっちー!」
――ボルジニア
「ほう、名前とマノスケが結婚とな!
まあ、いずれそうなるとは思っていたぞ。
目出度いのう。何か祝いの品を贈るとするか!
そうだ、これはどうじゃ。2人の愛を繋ぐチェーン、『ハナレナーのリング』! これにはところどころにダイヤが散りばめられていて……。
あ、いやいやこれにしよう。絶対割れないと言われる皿、『コワレン皿』!
悩むのう、待てよ、これもいい! 2人の愛をいつまでも閉じ込められる、『ニガサンの壷』!
……いやしかしあれも捨てがたい……うーむ……」
――星威岳探偵事務所
「やあれ! 名前殿と内藤殿がご結婚と! ム……内藤殿にはいささか勿体無いレディではありますが……」
「どうしたんですか、哀牙さん」
「やや、これは可憐なる我がメイド殿! 実は我が友人が結婚をするとの報告を受けたのでござい! そしていずれは我らも……」
「わあ、おめでたいですね! 何かお祝いの品でも贈ったらいかがですか?」
「見事なスルウですな。祝いの品、モチのロンですぞ。ノベルティとして、この探偵事務所を利用する際の依頼料をナッシングにするのでござあい!」
「えっ」
「どうしたのですか?」
「だって探偵を雇う時って、大抵が離婚前提で浮気の証拠を集めたりとかじゃないですか」
「……」
「……哀牙さん…?」
「アーッハッハッハッハ!」
(笑って誤魔化してるよ……)
――英都撮影所
「えっ! 名前が、馬の兄貴と結婚!?」
「どうしたの詩紋君。知り合いが結婚するのかな?」
「荷星さん、聞いてくれよ! 俺の将来の嫁が馬に取られたんだよ!」
「え? どういう事?」
「チッ…」
(え? 今舌打ちされた……!?)
「くそ、絶対俺が嫁にすると思ってたのに!」
「詩紋君まだ小さいから駄目だよ。せめて18歳にならないと」
「あと5年だろ! それまでにはあのデクノボーより大きくなってやる!(ゴッゴッゴッゴ」
「そ、そんなに牛乳飲んだらお腹壊しちゃうよ?」
「いいんだ! 放っといてくれー!」
「……名前さんと馬の兄貴か。もしかして、以前ひょうたん湖公園でトノサマンショーをした時に警護にあたってくれたあの人達かな。まあとにかく、おめでとうございます」
「うわあああー!(ゴッゴッゴッゴ」
――コーヒーショップ
「……ああ、あのコネコちゃんか。
結婚、だってな。お菓子はちゃんと渡せたんだろうな。
……俺かい? そうだな、また会えたらその時は、ゴドーブレンドを飲ませてやるとしようか。
コネコちゃんでも飲めそうな、甘くてマイルドなコーヒーさ。
本当は俺が飼い慣らしたかったが、チャンスを逃しちまったようだな。クッ……」
――株式会社ハキハキ
「苗字さんが、内藤さんとご結婚と聞きました! ぜひわが社の新商品を贈答したいと思います!」
「生地社長、どちら様ですか?」
「ああ、この会社を作る時に僕がものすごくお世話になった方達だよ」
「へえー、きっとすごい方なんでしょうね」
「勿論さ。うーん、何を贈ろうか……新商品と言ってもいくつもあるからなあ」
「社長! 俺が開発したこの何でもロボット、『デキル君』はどうですか?」
「いやいや、私の作った封筒の中身を読み込んでくれる『ヨメルちゃん』の方がいいに決まってます」
「そんなのよりも、ぼくの作ったお皿洗いしてくれる『アライさん』が!」
「まぁまぁ君達、そんなにいっぱい贈っても向こうが困っちゃうよ。ここは一つ、社長である僕の発明した『イクジアリ』君を」
「「「それはないです」」」
「ガーン!!」
――西鳳民国
「なんと! 苗字さんと内藤君が結婚か!
素晴らしいことであるな。うむ、私からも何らかの祝いの品を贈るとしよう。
何がいいであろうか……。
そういえば苗字さんは銃が好きだったな!
よし、我が国の銃を……」
「駄目ですよオウ様! 日本は銃刀法というものがありますから!」
「ムッ、そうであったか秘書よ! 致し方ない。ならばマグナム弾でどうだろうか」
「だから駄目ですってば!」
「ぐむむ……。そうだ、ではハネムーンは西鳳民国で、いくらでも銃を撃たせてあげるのはどうだろうか」
「新婚旅行の行き先くらい本人達に決めさせてあげてくださいよ……」
「だって、会いたいんだもん」
「大統領が『だって』とか『だもん』とか言わないんです」
「では西鳳民国のスイーツを贈ろう。
苗字さんは女性だから甘いものが好きであろう」
「苗字さんは、ですけどね」
「いいではないか。結婚は女性が主役だ!」
(内藤さん、可哀想に……)
――検事局
「ヤッホー怜侍君!」
「信楽さん、どうしてここに」
「オジさん、怜侍くんに会いたくなってさー……ってあれれ、どうしたの? そんな怖い顔して」
「……名前さんが、あのボディガードと結婚するそうです」
「えぇっ、本当かい!? オジさんおったまげー!」
「相手があの男というのが非常に腹立たしいが、名前さんが幸せなら仕方ないですね……あの男というのが非常に腹立たしいが」
「大事な事だから2回言ったんだね、怜侍君。それにしても結婚かぁ。よーし、じゃあオジさん、新婚を祝って人妻の名前ちゃんにハグをしに……」
「待ってください信楽さん。流石に2回目は私も許しません」
「ちょ、ちょっと待ってよ怜侍君! ジョークジョーク! そんなに怒らないでよ!」
「あなたがふざけた事を言うからだ!……ふム、仕方ない。何か結婚祝いの品を……そういえば、名前さんはトノサマンが好きだったな」
「怜侍君と一緒だね」
「黙っててください」
「ひえー!」
――会社
「苗字さんとサブリーダーが結婚かぁ」
「世の中、何が起こるかわかったもんじゃねえなぁ……」
「サブリーダーなら間違いなく、尻に敷かれるんだろうな」
「間違いないな!」
「つっても羨ましいぜサブリーダー!! 俺だって苗字さんちょっとイイナって思ってたのに!」
「あ、俺も俺も」
「俺なんて実は写メ持ってるんだぜ!」
「あ、ズリー! 俺にもくれよ!」
「なんつーか、カッコいいよなー。男の俺でさえ憧れるぜ! 凛々しくて強くて……」
「ていうかサブリーダーのどこがいいんだろうな!」
「ほらお前達、あまり無駄話をするんじゃない」
「リーダー! リーダーだってどうなんすか! 苗字さんとサブリーダーの結婚!」
「俺は優秀なチームメイトと思っているし、こうなるとわかっていた。お前らと違って素直にあいつらを祝福出来る」
(とか言っちゃって、本当はメチャクチャ片想いしてたくせに……)
(よく言うよなぁ……)
「ゴホン、……まあ要するにだ」
「なんですか?」
「チェスは1人では出来ないってことだ」
――タチミサーカス
「今日はこの辺で上がろうか。みんなお疲れ様!」
「すいません課長、この日なんですけど……お休み頂いても良いですか?」
「どうしたの? 草太くん」
「その日は、親友の結婚式なんです」
「そうなんだ! おめでとう!……お友達って、以前サーカスを見に来てくれた子?」
「はい、そうです」
「あの子達ね! 今度連れて来てよ! ミリカ、お友達になりたいな!」
「わかりました、きっとあいつらも喜ぶと思いますよ!」
そして、1ヶ月後。
私達は身内だけの小さな式を挙げた。
私側は両親が来てくれて、馬乃介さん側は草太さん。
教会のステンドグラスからは神々しい光が零れる。
私は純白のウェディングドレス、馬乃介さんは純白のタキシード。
ウェディングドレスは女の子の憧れとはよく言ったものだけど……着てからその言葉の意味がよくわかった。
人生で一番幸せな衣装なんだね。
私と馬乃介さんは神父さんの言葉を静かに聴いていた。
けれど、お父さんのすすり泣く声が聞こえてきて何度か笑いそうになってしまった。
「汝、馬乃介はこの女、名前を妻とし、死が2人を分かつまで妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」
「誓います」
「汝、名前はこの男、馬乃介を夫とし、病める時も健やかなる時も、共に歩み、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「では、誓いのキスを」
その言葉に私と馬乃介さんは向かい合う。
馬乃介さんは私のヴェールを上げて、誓いの口付けを交わした。
今までとは全く違う、世界で一番素敵なキスだった。
「うっ、うぅ……綺麗だぞ、名前!」
「もう、お父さん泣きすぎだよ……」
「あなただって折角の晴れ舞台なんだから、泣いたら台無しよ?」
「私はいいじゃない……」
私はぐすぐすと泣くお父さんの肩をポンと叩く。こんなに嬉しそうな両親は見たことがない。
草太さんがやって来て私の手を取った。
「綺麗だよ、名前ちゃん」
「ありがとうございます、草太さん」
「今すぐさらってもいいかな?」
「そんな、私には夫が……!」
ほう、と見惚れてる様子の草太さんに照れてしまう。そこへ相変わらずの調子で馬乃介さんが割り込んだ。
「おいコラ! 新郎を置いて変なムードを作るんじゃねえ! お前も乗るな、名前!」
「あはは、ごめんなさい」
3人で笑い合っているとお父さんが馬乃介さんの肩を掴んだ。
「ウマノスケ君!! 名前を泣かせたら絶対に許さんからな!」
「馬乃介っス。もちろん、名前さんは俺が責任を持って幸せにします」
お父さんの言葉に、馬乃介さんはビシッと姿勢を整えた。
「うまのすけ君は名前の事が大好きだものねぇ」
「馬乃介っス。はい、世界で一番大切なヒトです」
お母さんの言葉に、馬乃介さんは笑顔で答えた。
「やだ、うまのすけさんってば大胆……」
「もうアレだろ、3人揃ってからかってるだろ、なあ?」
私の言葉に馬乃介さんはこめかみをピクピクさせた。
親子揃って名前を間違えるものだから流石に可哀想だ。私は悪ノリだけどね。
「えへへー!」
「『えへへー!』じゃねえ! 可愛くごまかそうとすんな!」
「でもごまかされちゃうのが馬乃介なんだよね」
「う、だ、黙れ草太!」
「あ、うまのすけか」
「テメエエェー!」
結局、馬乃介さんはみんなのいじられ役なのだ。うーん、この愛され上手め。
これで私も、内藤 名前になるんだ。
「本当の苗字じゃねぇけど、それでも良いのか?」
と、馬乃介さんは結婚前に何度も私に確認した。その度に私は、
「馬乃介さんは馬乃介さんですよ。氷堂だって内藤だって変わりません。あなたと一緒になれるのならそんな事は気にする問題じゃないです」
と返した。
すると決まって馬乃介さんは嬉しそうに笑うのだ。
今、私の左手の薬指にはリングが輝いている。
これが私達の誓いの証。
そして永遠の愛の証。
きっとこれからはもっと素晴らしい未来が待ってるに違いない。
空を見上げると一羽の若い鷹が空を雄大に飛んでいた。
まるで未来へ向かって羽ばたいている様なその鷹は、これからの私達を見守ってくれるような気がした。
◆Checkmate!! 完◆
(20120310)
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Smotherd mate