あらすじ…逃げるようにコンビニへ向かったが、すぐに馬乃介さんが物凄い形相で走ってきたので追いかけっこを余儀なくさせられ、結局そのまま自宅まで走って帰りへとへとに疲れきって勢いよく寝ました。
13
ジリリリ、ジリリリ。
……携帯の目覚ましが鳴ってる。起きなきゃ。
いつも置いてあるだろう場所に手を伸ばす。
ふさっ。
柔らかい。
こんなぬいぐるみ置いてたっけ。
ジリリリ、ジリリリ。
わしゃわしゃ。
……ううん、これはぬいぐるみじゃなくって―――
「……いあああああ!?」
少しずつ意識がはっきりしてきた私は、自分が手にしたモノの正体に気づいて目を覚ました。
「おはよう名前。アンタから俺に触れてくるなんて……今日は最高な日になりそうだ」
そう、私が撫でていたのは馬乃介さんの頭。
ふさふさのトサカ部分を撫でていたようだ。
すぐに手を離すも感触がまだ残っていてなんだかゾワゾワする。
「ななな、何してるんですかー! ま、馬乃介さんの布団はもっと離れてるでしょう!?」
「いや……名前と同じ部屋で寝ていると思うとすげえドキドキしてな……全然眠れなくて、名前が寝たのを確認してからずーっと眺めてた……7時間くらい」
「怖い! 7時間もずっと寝ている姿を見られていたなんて怖い……! というか、今日も仕事なのに寝なくて大丈夫なんですか?」
私は馬乃介さんの行動に怯えながら、携帯のアラームを止めた。
やはり彼は生粋のストーカーだと思う。
「心配してくれてるのか? 優しいんだな、名前は」
何だか会話のズレを感じるけど、これが日常茶飯事である。
今更だけど、そっか、私は馬乃介さんと暮らし始めたんだよね。
ルームシェアなんて初めてだから、どうすればいいのかイマイチわからない。
「……もういいです、おはようございます馬乃介さん」
とりあえず、寝起きに馬乃介さんのテンションについていくのは大変疲れるので、早々に切り上げた。
ベッドから下りるとテーブルにはトーストと牛乳が置かれていた。
「馬乃介さんが作ってくれたんですか?」
「まあな」
「ありがとうございます……ただの変態じゃなかったんですね……」
「おい待て」
寝起きに朝ごはんが用意してあるのって嬉しいなあ。
私も何かしらしようかな、と心の中で思った。
出勤の支度を終え、それぞれの会社へ歩き出す…………が。
角を曲がっても真っすぐ行っても信号を渡っても馬乃介さんが私に付いてくる。
もしかして同じ方向なのかな。
「あの、馬乃介さんの会社ってどこですか?」
「駅の方だ」
「ああ、駅の方……って、逆方向じゃないですか! 何してるんですか! 早く会社へ向かって下さい!」
「え"〜!」
駄々をこねる子どものような声を出す馬乃介さん。
頼りになる年上らしさは微塵も感じない。
「『え"〜!』じゃないですよ! 私、本当にもう大丈夫ですから!」
「…………本当か?」
「うっ」
急に真面目な顔をして聞かれたので私は少し戸惑った。
でも負けじと私は言い返す。
「昨夜お話した通り、私は大丈夫です。だから私を信じてください」
ちょっと気恥ずかしい。
けど嘘は無い。
「……わかった、じゃあ本当に何かあったら言えよ」
「はい!」
ポン、と肩を叩かれ……たと思ったら、馬乃介さんは勢い良く私の耳元に顔を近づけた。
「いつだって守ってやる」
囁くように言った馬乃介さんの低い声に、私の心臓が一際大きく脈を打つ。
胸が高鳴って背筋がゾクゾクする。
何も言葉が返せず真っ赤な顔で硬直している私を見て彼はにやりと笑う。
「また後でな」
右手を振って背中を向け、私の会社とは正反対の方へ歩き出した。
「……ずるいですよ……」
私はドキドキする胸を押さえながら、再びゆっくりと会社へ向かった。
「……あら?……苗字さん、いらしたんですか……?」
会社に着くと鹿羽さんが居て、私に気付いた。
「ええ、ちゃんと退職届を出さないと、と思いまして」
「そう……でしたか……。でも、今トラさまは外出中で……」
「そうなんですか」
安心したけれど、少し拍子抜けもした。
「では、これはお預かりしておきます。今までお疲れ様でした……お別れのお茶をどうぞ」
「あ、はい、ありがとうございま……え? もしかして私、今日で終わりなんですか?」
「えっ」
「えっ?」
私の頭上にクエスチョンマークがいくつも浮いているのに気づいたのか、鹿羽さんは丁寧に説明を始めてくれた。
「昨日の件、こちらにもしっかり聞こえていたので、私の方で退職手続きは済ませました……だからもう、大丈夫ですよ……ククッ」
その『ククッ』はなんだろう。
会社からだけではなく、社会的に退職させられていそうだ。
「……ということは、私は」
「ええ、今日から無職です」
嫌な言い方しないで欲しいな、と静かにお茶をすすった。
そして解放感と共にカリヨーゼを後にした。
こんなにあっさりと終えることが出来たなんて…。
自由の身ではあるけれどこの先どうすべきかわからない、そしてまだ少し信じられない、そんな感じだ。
とりあえず馬乃介さんに報告しようかな。
家路へテクテクと向かいながら、
「……ということで馬乃介さん。私はもう会社に行かなくて大丈夫だそうです」
私は誰もいない空間で、彼がそこにいるかのように呟いた。
直後、鞄の中に入れておいた携帯が鳴った。
『安心したぜ。今日はゆっくり休めよ』
…………。
私はスーツの襟首の裏に手を伸ばし、1円玉くらいの大きさの異物を指先で取った。
「……やっぱり付けてましたね。盗聴器」
ティロン。
私の言葉に応えるかのように携帯が鳴り、馬乃介さんからメールが届く。
電話をかけてこないということは仕事中だろうか。
仕事をしながら盗聴なんて、リアルタイムストーキングのプロフェッショナルだ。
『アンタも鋭くなってきたな。流石、俺の女だぜ』
褒められても嬉しくないです。
あとあなたの女になった覚えもないです。
「馬乃介さん、楽しみにしてくださいね。 帰ったら私のフルコースが待ってます」
ティロン。
『すまん』
すまんじゃないよ!
ていうかそこで謝るんですか!
どういう意味ですか!
やれやれ、と私は首を振り、盗聴器のボタンをOFFにした。
今朝、私の耳元で囁いた時にでもサッと着けたんだろうな。
少しずつ馬乃介さんもとい犯罪者の行動パターンが見えてくるのが何だか複雑だな……と思いながら、メロディを流す携帯電話を無視しつつ家路を歩いた。
(20160803)
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Smotherd mate