あらすじ…隠しカメラを仕掛けていた真犯人である隣人の男が連行されました。
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流石に寝巻きのまま事情聴取は恥ずかしいので、一旦着替える。
その間、馬乃介さんは事の顛末を会社に連絡し、後日改めて報告する事になったらしい。
それから馬乃介さんと一緒に警察署へ同行した。
襲われた事もあり念の為、体の検査をしてもらってから私達の事情聴取は行われた。
隠しカメラを見付けた経緯や、犯人との接触など、これまでの経緯を事細かに説明する。
馬乃介さんとの関係を聞かれた時は少し戸惑ったが、名目上、同棲している恋人という事にしておいた。
流石に『誘拐した人・された人』なんて口が裂けても警察の前では言えない。
私の証言を元に警察が隣人――平木野の家宅捜索を行った結果、どうやら証拠が出てきたらしい。
私と馬乃介さんの数日間の生活を捉えた映像。それを焼いてあるDVDが数枚。隠しカメラで撮った映像を見るためのビデオ機器等。他にも隠し撮りされているアングルの私の写真や、ゴミに出したもの、なくなった下着。
これで疑う余地もなく、真犯人の平木野は逮捕された。
事情聴取の間、警察が私達の部屋に、他にも仕掛けられていないか調べてくれた。結果的に見つかったのは置き時計に隠されていた隠しカメラ1つのみだったので、安心した。
私達が再び自分たちの部屋に帰ってこれたのは、夕焼けが少しずつ闇に染まっていく頃だった。
2人とも無言のまま部屋に上がる。警察に行く前に多少は綺麗にしたつもりだが、改めて見ると床に傷が付いていたりして、昼間の出来事が鮮明に蘇る。
馬乃介さんからもらったキーホルダーはバラバラのままで、それを手のひらに乗せ、元の姿を思い出すようにパーツを1つずつ摘まむ。
「名前がそれを忘れないで居てくれたから、俺は助けることが出来たんだぜ」
「そうですね。本当に……ありがとうございました」
私はあらかじめ、平木野を部屋に招いた時にキーホルダーのスイッチを押していた。
平木野でなくとも、私が1人の時に誰かが部屋に上がったらそうしていた。
そうすれば馬乃介さんに通知が行くだろうし、もし盗聴機能も付いていれば男との会話は丸聞こえのはず。
途中で壊されたから、どこまで話の内容が伝わったかはわからないけど。
最初はこのキーホルダーの機能も半信半疑だったけど、本当に馬乃介さんが助けに来てくれたから、とても感謝している、が。
「……馬乃介さん、知ってたんですか? だから私に発信機を付けたり、こんなもの渡したり」
「……いや、知らん」
「そんな、だって、……じゃあどうして、強引にこのキーホルダーを持たせようとしたんですか?」
馬乃介さんが執拗に私に発信機を付けたり、私の傍からあまり離れないようにしていたことを思い出す。
夕飯も外で食べてくればいいのに、わざわざ家で食べられるものを買ったのは私の為……だけではなく、もしかしたら監視の意味も兼ねていたのかもしれない。なんて、さっきまで犯人を追い詰める為に必死に頭を働かせていたからか、どうにも色々細かい部分まで考え込んでしまう。
この疑り深さは見直したほうが良いかもしれない。
私にとっても相手にとっても、気持ちの良いものではない。
「下着が無くなったとか言ってただろ」
「……まさか、それだけで……ですか?」
「"それだけ"とか言うんじゃねえよ。十分、大事件だろうが。もっと深刻に考えろ」
あとはボディガードとしての勘だけどな、と付け足す。
多分、私は芝九蔵社長の下で働いていたせいか、色々と感性が鈍くなってしまったんだと思う。
あの社長の下じゃ、出会い頭に誘拐されるくらいの出来事が起きないと驚かなくなってしまったんじゃないかな。
でもこれで、下着の事件も落ち着いた。
馬乃介さんは今後、私に盗聴器や発信機を仕掛けない、と約束してくれた。
「で、アンタはいつ隠しカメラの存在に気付いたんだ?」
「……昨日です」
「何ですぐに言わなかったんだよ!」
馬乃介さんが突然怒鳴り、私はビクッと肩を震わせた。
「スマン、驚かすつもりはなかったんだが……」
「……ごめんなさい……」
自分の胸の鼓動が少しずつ早くなるのを感じる。
そうだ、私は、最低な想像をしてしまったんだ。
震える声で、馬乃介さんに本音を話す。
「私、隠しカメラを見付けた時に、真っ先に馬乃介さんを疑ってしまったんです……!」
盗聴器、発信機と来たら、次はもうソレしかない。
馬乃介さんがあれだけハッキリ否定したにも関わらず、私は馬乃介さんに対する嫌疑を払拭出来なかったのだ。
「馬乃介さんは、そんな事しないって言ったのに。その言葉を信じられなくて……もし本当に馬乃介さんが仕掛けていたらって、思うと怖くて……!」
現実が揺らぐ私の目を醒ましてくれたのは、鹿羽さんが見せてくれた通帳と、馬乃介さんがコンビニで買ってきてくれたものだった。
怒られても仕方ない、最悪叩かれるかもしれない。しかし、馬乃介さんは微かに悲しさを帯びた声で、言った。
「名前が俺を疑っちまうのも無理はねえ。俺がアンタと同じ立場なら、きっとそうなる」
「でもっ! ……でも、そんな自分が情けなくて悔しくて……馬乃介さんはいつだって私を助けてくれたのに、私は……!」
「もういい」
私の言葉を、とても静かな馬乃介さんの声が制す。
「昨夜アンタに偶然会ったのは、逃げようとしたからなんだな」
その言葉に心臓が止まるかと思った。
もしかしたら、やっぱりさっき、あの男に殺されていた方がマシだったのかもしれない。
何を言われるのかがわからなくて、怖い。感情のままに暴力を振られたほうがまだ良い。馬乃介さんはそんな事をしないって知ってるからこそ、それは私の卑怯な逃げ道だ。
……今度こそ愛想を尽かしたかもしれない。私から離れていくかもしれない。
馬乃介さんの顔が、後ろめたさでいっぱいで、うまく見れない。
「だが一つわからねえことがある」
しかし馬乃介さんは私が恐れていた内容は一切匂わせず、話を別の方向に切り替えた。
「何でアンタ、俺の時は通報しなかったんだ。いつだってチャンスはあったはずだろ?」
自分でそれを言うのか。だが、馬乃介さんの疑問も最もだ。
最初に誘拐された時は流石に通報するか考えたけど、結局馬乃介さんに再び捕まってしまった。
その後、一緒に私の部屋に来ることになった時こそ、タイミングはあった。
でも馬乃介さんはあの男とは何だか違ったんだ。初めて出会った時から、視線も、雰囲気も、何もかもが。
上手く言えないけど、馬乃介さんは『犯罪者』の一言で片付くような存在じゃなくて、人との繋がりを求めているけど空回りしてしまうような……ただ、不器用な人なんだと、私はその時思ったんだ。
それからだ。
馬乃介さんと同じ時間を過ごす度に、私が彼に対して少しずつ好意的な何かを抱くようになったのは。
「それは……」
やることなすことは強引で犯罪的。
けど、結果的にそれらは全て、私が助かることに繋がっていた。
いや、そうなるように馬乃介さんがしていたのだ。
「私が、馬乃介さんの事を……」
金融会社で働いていた時も、借金の時も、そして今回の件でも。
馬乃介さんの行動は全部、私を守る為だったんだ。
「……好きになってしまったからですっ……!」
その一言をやっと口に出せた時、私は馬乃介さんに押し倒されて唇を奪われた。
触れるだけの口付けをして、すぐに離す。
「今度は逃げなくて良いのかい?」
「に、逃げません……!」
びっくり、した。
馬乃介さんは、今まで私に"そういう"触れ合いをしてこなかった。
正確に言うと、借金から助けてくれたあの帰り道で私が拒絶して以来だ。
私の事を好きだ何だと言いつつ、私に対する扱いはいつも壊れ物に触るようだったから。
「俺はあの野郎が言った言葉は何も気にしちゃいねえが、名前はどうだ? アイツと俺は、一緒に見えるかい?」
押さえ付けられた手の指を、馬乃介さんの指に絡ませて交互に重ねる。
ドキドキする。それは恐怖にではなく、目の前に居る馬乃介さんに対してときめいている。
私の体は彼に自由を奪われているけど、不思議とそれが嫌ではない。
「さっきも言いましたが……馬乃介さんは、違います」
触れ合う体、絡み合う指先、交わる視線、そのどれもが2人の気持ちを高揚とさせる。
「私は馬乃介さんが好きです」
馬乃介さんの瞳をしっかりと捉えて、もう一度告白する。
こんなに素直になれたのは、馬乃介さんのおかげ。
誰かを好きになれたのも、本当に心から幸せと思えたのも、全部馬乃介さんが居てくれたから。
「私はもう、馬乃介さんが居ないと生きていけません……!」
彼の心に届くように、私は今まで抑えていた胸の内を明かす。
大げさに聞こえるかもしれないけど、これが今の本当の気持ち。やっと言葉にできた私の本音。
馬乃介さんも流石に、そうはっきりと告げられた言葉が恥ずかしかったのか、少し顔を赤らめながら伏し目がちになる。
「……クソ……、我慢できねえ」
そんな顔を隠すように、馬乃介さんは私の胸元に顔を埋めた。
私の心臓があまりに強く脈を打っているからか、馬乃介さんの髪が私の鼓動に合わせて微かに揺れる。
「すげえ心臓鳴ってる……」
「うう、……恥ずかしいです……」
出来れば、これ以上私の心臓の音を聞かれたくはない。
馬乃介さんは顔を上げて、上目遣いで私を見つめてくる。
どの角度から見ても馬乃介さんはかっこよくて、目が合うだけで照れてしまう私はまだまだ色んな意味で初心者だ。
「何言ってんだよ、これからもっと恥ずかしいことをするんだぜ?」
「えっ!?」
ニヤッと馬乃介さんが笑う。
まさかとは思うけど、そのようなアレなのでしょうか。
「……嫌なら、やめてやりてえが、俺はもう限界だ。アンタと暮らし始めてから、毎日毎日、頭がおかしくなりそうだった」
「……!」
馬乃介さんの唐突な告白に私はいよいよ覚悟を迫られる。
彼を私の部屋へ招いた以上、いつかこうなるとは思っていた。
もしくは私も、心の何処かで期待していたのかもしれない。
「わ、私は嫌じゃないです!」
ううん、違う、そうじゃない。
私は……
「いいえ、私……馬乃介さんになら何でもして欲しい、です……!」
そう、私はもう、彼に心を開いているのだ。
馬乃介さんに心奪われて、どうしようもなく彼を愛してしまった。
今更、何を拒むというのか。
「途中で辞めろなんて、聞かねえからな」
「……はいっ」
私のしっかりとした返事を聞くと、馬乃介さんは再び私の唇にキスを落とす。
その夜、私達は初めて一つになった。
好きな人に、心を開くということ。
愛する人に、求められるということ。
それは甘美で狂おしくて溶けてしまいそうなくらい、とても幸せな時間だった。
(20160831)
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Smotherd mate