13.子羊と聖なる夜
今日は待ちに待ったクリスマス。実家には両親の親戚が大勢集まって皆でパーティーを楽しんでいた。大きなツリーの根本には沢山のプレゼントが置いてあり、子どもたちは興奮気味に次から次へと包みを開けている。私はシャンパンの入ったグラスを三つ取り、兄さんと狼さんに手渡した。
「今日は忙しい中来てくれてありがとう」
「応、せっかく呼ばれたからな。こちらこそ誘ってくれてありがとよ」
「コイツがどうしてもと駄々を捏ねるから連れて来てやった。あまり長くは居られないけどね」
「おいコラ、アクビー!」
兄さんの一言が引き金となり、「余計なこと言うなよ」「本当の事だろう」といつも通りの口喧嘩が始まった。クリスマスくらい仲良くすればいいのに……いやこれが彼らにとっての"仲良し"なのだろう。まあでも仕事が忙しいから休みは取れないだろうとダメ元でメールを出してみたけれど、意外にもすんなりとオーケーの返事が来て実際にこうしてパーティーに参加してくれるのはありがたいことだ。「珍しい客人が来た」と兄さんは親族に代わる代わる挨拶をされて大変そうだけど。
狼さんはというと、手持ちのお皿にローストビーフやミートボール、ソーセージにジャーマンポテトと腹持ちの良さそうな料理を山のように乗せて、上から順番に大口で食べていた。色気より食い気という言葉がよく似合う。色気か……そういえば狼さんは恋人とかいるのかな。じっと見ていると視線に気付いた狼さんが「どうした?」と声を掛けてきた。
ごまかすように、私は用意しておいたプレゼントをおずおずと狼さんに差し出した。狼さんはお皿をテーブルに預け、不思議そうな顔をして包みを開ける。中身は以前彼に頼まれていたタオルケット。狼さんのイメージカラーであるオレンジやブラウンといった暖色系の布を多めに使い、太陽をモチーフにしたものだ。
「すげえな! 本当にアンタが作ったのか!?」
「はい、狼さんをイメージしました。ここにオオカミが居るんですよ」
「へえ本当だな……ん? こっちのは羊か? 大きいのと小さいのの二匹居る」
「それは、えっと……」
「わかった、アクビーと名前だな?」
「はい、せっかくと思って、つい……駄目でしたか?」
「いや三匹揃ってて嬉しいぜ。大きいのは眼鏡かけててわかりやすいな。……想像以上に良いもんだな、ハンドメイドってよ。で、いくらだ?」
「お代なんていりませんよ、クリスマスプレゼントです。それに、いつも兄がお世話になってますから!」
『クリスマスプレゼント』という言葉に、狼さんは子どもみたいにキラキラと目を輝かせた。「アンタ良い子だなー俺の妹に欲しいくらいだ」と大きな手でわしゃわしゃと頭を撫でられる。兄さんとは違う、少し大雑把な手つき。でもイヤじゃない。
やっぱり誰かに贈り物をするのは楽しい。相手のリアクションを見た時、喜んだ顔を目に捉えた時、こちらの心までギュッと掴まれる。制作にかけた時間や労力が報われる瞬間だ。何より『作って良かった』という気持ちにさせられるし『また作りたい』とも思える。
「俺も名前にプレゼントがあるんだ。これ、アンタに似合うと思って」
「えっ、わ、私にですか!?」
狼さんが内側の胸ポケットから長方形のプレゼントを取り出す。白くて厚みのあるボックスにシルバーのリボンが巻かれていて、なんだかお高そうだ。期待と不安が入り交じり妙にドキドキしながらリボンを解いて箱を開ける。中から現れたのは、懐中時計を模したネックレス……ではなく、ロケットペンダントだった。精巧な機械仕掛けでレトロさを感じさせる。こういうのスチームパンクって言うんだっけ。小さな鍵も一緒に付いていてお洒落だ。
「これを見た瞬間アンタの顔が浮かんでよ、つい買っちまった」
「ありがとうございます! すごく可愛いです!」
こんな素敵な贈り物は初めてで、それも狼さんが私のことを思ってだなんて、幸せすぎて言葉が出てこない。狼さんから見た私ってこんなイメージなのかな。アンティーク調の、昔から親しまれてきて、人に愛されてきた気配があって、どこか懐かしい。
「どうした? 着けねえのか?」
「勿体なくて……」
「じゃあ俺が着けてやるよ」
狼さんがペンダントを手に取ってフックを外す。私は襟足を上げて狼さんが着けてくれるのを待った。気恥ずかしくて視線を下げる。とくん、とくん、と自分の胸の鼓動が聞こえてくる。彼の手が私のうなじに優しく触れて、私の首元には懐中時計のペンダントが飾られた。よく似合ってると狼さんが褒めてくれるからお礼を言いたいのに、どうしてだろう、上手く目が合わせられない。
「誰の写真を入れるんだ?」
「……考え中です」
本当はもう決まっている。けど今はまだ、この胸の鼓動と共に秘密にしておきたかった。いつか誰かがこの鍵を開ける、その日まで。
(20180319)
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Smotherd mate