2.狼と一枚の絆創膏
国際警察捜査官になって最初に俺が打ち解けた相手はアクビー・ヒックスだった。最初は無口で無愛想なヤツだと思っていたが、話してみると案外そうでもない。仕事を組むようになり、一緒に飯を食うようになり、気付けば気の置けない仲になっていた。ただ今でも変わらない印象は、奴は感情表現が下手という事だ。
出張の多い俺達だが、たまたまアクビーの故郷のボルジニアでひと仕事があった。無事にその仕事も落着し、それぞれ帰って休暇を過ごそうとしていた。するとアクビーが、折角だから故郷を案内すると言い出した。自国に戻ってから別の仕事に取り掛かろうとしていた俺は迷ったが、それを見抜いていた部下共があんまりにも「休んで下さい」と口うるさく言うもんだから、仕方なくホテルを一泊取った。
そして翌日、アクビーの家に向かった。奴の家に泊めて貰おうかとも思ったが寝具が一式しかないというので仕方がない。季節的に秋とはいえ、故郷よりも寒い国の街並みを目で楽しみながらアクビーの家に到着し、温かい紅茶を入れてもらった。そのままのんびりと過ごしていた午前中、ソイツは突然やってきた。
「美味しいですか?」
「ああ。アンタの母親は料理上手だな」
アクビーの妹で、名前は名前と言う。連れ子同士の為、アクビーと名前は全く似ていない。今日は兄が休みということでわざわざ来てくれたんだと。健気な妹サンで羨ましい限りだ。その母親が作ったというブルーベリーパイを御馳走になったが、これもなかなかのもんだ。随分と幸せな家庭で育ったんだな、と少し羨ましく思う。
今日はどうしてこちらへ、と名前が聞いてきたので、事のあらましを話すと名前は頭を垂れた。むしろ私がお邪魔だったかもしんない、なんて自分を責めだすが否定する。俺はアクビーのせいだと思っていると本人が謝罪した。そうだそうだ、お前が悪い。
「良かったら、アンタも一緒に観光案内してくれねえか?」
「えっ……いいんですか!?」
そう俺が切り出すと、名前は兄と一緒に居られることが嬉しいのかバンザイをして喜んだ。その様子が大げさなのでつい吹き出してしまう。兄があまりに無感情だからか、妹の反応が素直で可愛く思える。アクビーも特に反対する様子は見せない。もし反対したら一言いってやろうとは思うが、そんなに心が狭い奴では無いことは知っている。
「じゃあ、準備して行こうか」
アクビーの言葉で俺達は腰を上げる。名前は食器を流しに持って行き、手際よく洗い始めた。家事に慣れているんだな、と思いながら感心していると名前の指に絆創膏が貼ってあるのを見付けた。……なるほど、そういう事か。俺はそっと名前の背中に近づき、アクビーには聞こえないように耳打ちをする。
「アンタが作ったんならそう言えばいいのに」
どうやら図星だったらしく、名前の手から皿が滑り落ちた。流し台の中で落としたから幸い割れてはいないようだが、当の本人はそれどころではないらしく、恥ずかしさで耳を赤くしていた。情けなく眉を垂れ下げ、「兄さんには言わないで下さい」と囁かれた。俺は「応」とだけ小さく返し、数秒後、音に反応して近づいてきたアクビーに後を任せる事にした。その健気な女の子の指に絆創膏が増えなくて良かった、と俺は思った。
(20160907)
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Smotherd mate