3.羊と黄昏の情景
休暇一日目。狼にボルジニアを案内する予定だったが、妹の名前が来ることをすっかり失念していた。初めて対面した時にちょっとした騒ぎがあったが、二人はすぐに打ち解けたようで安心した。
今は三人でボルジニア中央公園へ来ている。時計台や国花の花畑、美味しい屋台、ボルジニアの名産品などがあるので、まずはここで楽しむことにした。狼は早速屋台に目を奪われたようで、一人でとっとと行ってしまった。仕方なく私と名前は空いているベンチを見つけ、そこに並んで座る。
「狼さんってどんな人?」
名前にそう聞かれたので、狼をどう説明すればいいのか頭の中で整理してから話し始める。西鳳民国出身で性格はかなりやんちゃな方だ。思い立ったらすぐ行動、チームワークを大切にし、皆を引っ張っていくリーダーシップを持っていて頼りがいもある。それを聞いた名前は「兄さんと正反対だね」と言った。少し胸に刺さったが、確かにその通りだ。
「だから上手くやっていけるんだと思う」
「べた褒めだね。兄さんが楽しそうで良かった」
この子は優しい。私が今まで知り合いも作らずに独りで過ごしてきた事を知っているから、彼女なりに心配してくれていたんだろう。たまに私の事ばかりで自分の事を疎かにしてしまう時もあるから、私は逆にそこが心配なのだが。
名前とお互いの近況の話をしていると、狼が屋台で買った食べ物をいくつも重ね、その天辺を顎で押さえながら近付いてきた。一体どれだけ買ったんだコイツは。先程ブルーベリーパイを三切れも食べたくせにこの量も一人で食べ切るつもりか、と思ったがどうやら三人分らしい。今日の観光案内は屋台料理を堪能して終わることになりそうだ。
テーブル付きの席へ移動する。狼と名前の共通する話題といえばもちろん私の事だ。お互いが知らない私の事を話しては笑い合って……ネタにされる身にもなって欲しい。そして二人の私に対する共通認識はやっぱり「物静か」の一言だった。そう言われるのは慣れているが、この二人の言葉に悪意は感じないので特に気にしない。
ようやく屋台料理を食べ終えて話も落ち着いた頃には、空が夕焼けに染まりつつあった。展望台へ行きボルジニアの街並みを眺める。ここからの眺めは私も好きだ。360度見渡せばそれだけで心が満たされる。私の知らないどこかの誰かも今この世界で生きている、息づいている。各々の人生を謳歌し、そして死んでいく。一人ひとりの人生が凝縮されたようなこの街並みが私は大好きだった。
「名前、そろそろ帰らなくていいのか?」
「あれ? 私、今日は兄さんの家に泊まるって言ったよ?」
「……え?」
お父さんとお母さんにも言ってあるんだから、と言われて私は内心焦りだす。狼に助けを求めるように視線を送るがやれやれと言った顔で見てくるだけだ。少し腹が立った。記憶を思い返してみるが、そんな話をしたかは覚えていない。……いやもしかしたら、電話で言っていた「サプライズ」とはソレのことなのだろうか。なんとなく思い当たる言葉を発見した私は、名前に再び視線を向ける。彼女はニコッと笑うだけ。狼が不器用な私を同情するように肩に手を置いた。なんだか腹が立ったので、強めに払いのけた。
(20160914)
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Smotherd mate