ミルクと柘榴

「義勇さん、ミルクと柘榴、どっちがいいですか」
「ミルク」
「柘榴っていうかと思った」
「においのあまいほうが、湯がやわらかく感じる気がする」

どんなにハードでも、そうじゃなくても、義勇さんとの出張はだいすきだ。
景色がいいほうで眠ることにしているけれど、ビジネスホテルからの眺めは大概どの部屋からでもあまり変わらない。
そういうときは決まってわたしが義勇さんのお部屋を訪ねることになる。
わたしのところへお客が来ることはないけれど、男性社員がほかにもいるとき、義勇さんのところへはごく稀に来客があるからだ。不在にしていると不都合の生じることがある。

サイドテーブルにウィスキーとコアントロー、ときにはビールとワイン、さらにあるときにはホットミルクをふたつ並べて、古いクーラーのすえたにおいや、ぱりぱりのシーツからかおる飾りっ気のないシンプルな洗剤のにおいをかぎながら、わたしたちは知らない町での夜を、とびきり優雅でスローに過ごすのだ。
幸福な夜にしゃれたグラスは必要なくて、備え付けの湯呑や曇ったプラスチックのコップでじゅうぶんであった。むしろそういう入れ物のほうが、こういうときの有り合わせのしあわせにはうってつけのように思えた。

「脱がしてあげます」
「自分で脱げる」
「うそよ」
「うそかもな」
「じゃあ脱がしてあげちゃう」

ボタンひとつを外すのにキスをたっぷりと五回。
義勇さんが、空いている片手でテレビの電源を落とす。
バスルームへ落ちるお湯の音がだんだん遠くなってゆく。

この部屋の前で炭治郎くんたちと鉢合わせてしまう二日目の朝のことを、呑気なわたしたちはまだ知らない。