カクテル

空港には様々な国のひとがいた。たくさんの言語が、耳のそばや遠くのほうを流れ、漂っている。
広くて清潔な空間のなかは見渡す限り、出身も、背も、年齢も、服装も、おそらく職業も、色々のひとであふれていた。駆け足で移動する者、携帯電話をいじりながら時折立ち止まりつつ歩く者、ベンチで休む者もいた。

飛行場の見える休憩エリアのベンチで荷物番をしていると、すこし離れたところにある化粧室から義勇さんが出てくるのが見えた。
立ち上がっておおきく手を振る。義勇さんもちいさく手をあげてくれる。
深いブロンズブルーから、義勇さんの長い腕がのぞいている。上品な光沢のあるポプリン素材のドロップショルダーシャツは、義勇さんの透けるような肌とよく似合っていた。
そのまま座らずに出迎えて、ぎゅうっとハグをしてから、頬にキスをする。わたしが抱きしめるとき、義勇さんはいつも背中をすこしまるくして身体を寄せてくれる。

「誰かに見られたらどうする」
「集合場所からは遠いもの、だいじょうぶですよ」
「そういえば、探してたシャツ」
「ああ、今朝見つかって、でもわたしのキャリーに入れてしまったかも。あとでこっそり持っていきますね」
「助かる」
「沖縄は晴れだって」
「夜に時間があればドライブでもするか。電話する」
「ふたりきりじゃなくてもいいですよ、いっしょにいられるなら」
「ああ」

集合場所の時計台のあるひろばは、ずっと向こうのほうにある。
途中にある吹き抜けのエントランスロビーからは、スーベニアショップが立ち並ぶエリアへ行けるようになっていて、集合時間までの数十分を潰すのには持ってこいだった。
誰かと鉢合わせてしまうといけないので、指先がたまに触れ合うというのに、手を繋ぐことはできなかった。
わたしはこういうとき、付き合いはじめのころのようにどきどきと緊張してしまう。

わたしのときめきと上機嫌にあわせて、サンダルの底が軽快な音を立てる。沖縄は空と海と星のきれいなところだ。
多くの社員にとって毎年の慰安旅行がこころ踊る行事であるということは、うちの会社のとてもいいところであると、わたしは考える。