バッテリー

ほこりっぽい倉庫には、スチールのキャビネットが、扉をぐるりと囲むようにぎゅうぎゅうと詰め込まれている。手前の触りやすい棚のみがすこしだけ整頓されているものの、ほかはまるで無法地帯といった様子で、段ボールに詰め込まれたコードや使わない電話機、延長コードや使えるのかもわからない電池が乱雑に置かれていた。

こんな空間では脚立を取りに行くことすら億劫だったので、棚の天板上の段ボールは手を伸ばして取ることにした。指先で軽く浮かせながらずらしていけば、時間はかかるが不可能ではない。
しかしわたしの苦闘ははじまって間もなく、後ろから伸びてきた長い腕のおかげで、あっけなく終わりを迎えることになる。ひょいとターゲットを持ち上げる、筋張った白い腕。
義勇さんは持ち上げた段ボールを廃棄の椅子の上に置き、たっぷりめのキスまで贈ってくれた。

「義勇さん、ありがとうございます」
「充電しにきた」
「めずらしい」

義勇さんはわたしの後ろの扉を閉じて鍵をかけてしまうと、そのまま壁に片手を着き、覆いかぶさるようにしてわたしのくちびるをやわく食む。
ブラウスをたくし上げる腕を制止するように掴んでみたものの、気にもとめていない様子で、今度はその指先をそのまま口に含んでしまう。中指をゆっくりとねぶる熱い舌と挑戦的な瞳につられて、わたしの頭もみるみるうちにのぼせていく。

「足りない」
「だめ、しょ、職場」

義勇さんはちいさく息をつくと、存外あっさりとわたしを解放してくれた。わたしのほうが、興奮さめやらぬというように、まだどきどきとしたままでいる。
棚の奥に、ほこりをかぶったデジタル時計が見えた。ちょうどお昼時だ。

「ランチ、サンドイッチでも買って、車で食べるのはどうですか」
「玄関で待ってろ。鍵を持って来る」

軽めのキスをして、わたしたちはそうっと倉庫を後にした。
背中のほうで、炭治郎くんの義勇さんをねぎらう声が聞こえてくる。
たくし上がったままのスカートを慌てて直しながら、わたしは駆け足で階段を下りた。義勇さんの触れたところが、まだとても、熱かった。