義勇さんにおねだり

「あーん」と口を開けると、義勇さんは食べかけのケーキのクリームとフルーツとスポンジとを、器用にバランスよくフォークに乗せて差し出してくれる。
そしてわたしのくちびるの端を親指で拭うと、そのままそこにキスまでくれた。
洋酒のきいたクリームの濃厚なあまさも、義勇さんのくちびるが持つとびきりの甘美さの前ではすっかり薄れてしまう。
わたしは上機嫌のまま、またちいさなおねだりをする。

「お酒が飲みたい」
「わがまま娘」
「すきでしょう」
「すきだよ」

義勇さんはよく冷えたコアントローを少量口に含むとわたしの顎をくいと持ち上げて、勝気に瞳を細めた。
冷たいアルコールは熱い舌を伝い、親指で無理やりに割られたくちびるのあいだから、うっとりするほどの滑らかさでとろりと流れ込んでくる。
義勇さんがくれる快感は、コアントローのもたらしたあまい痺れを追い越すようにまたたく間に身体じゅうを支配して、わたしのあらゆるところをだめにしていく。

「どうしてほしいか言ってみろ」
義勇さんが低く呟いて、わたしはゆるゆると首を振る。
「わがままがすきなんだろ」といつになく勝気な彼は、悔しくなるほどうつくしい。
観念してくちびるを開く。
ロックグラスがからりと涼しげな音を立てた。