義勇さんと死にたがり

「死にたい」

いい加減、限界であった。訃報を聞くたび、生き残ってしまったことを実感するたび、責任は理不尽に膨らんで、もう手に負えなかった。
息を吸うことにすら重い責任がある。毎日辛く苦しいばかりなのに、生かされている限り、このいのちをありがたがらなければいけない。すこしの瞬間もむだにしてはならない。わたしは、生来のちっぽけさをまるで無視してのしかかる重責で、もう一歩も動かれなかった。限界だった。

「もう、許してください。もう」
「落ち着け。どうした」
「もうだめなんです、ごめんなさい、義勇さん、ごめんなさい」

はじめ若干戸惑ったように見えた義勇さんは、やがてちいさく息をついてわたしの日輪刀を抜くと、首を締め上げるように腕をまわし、その肩口まで力任せに引き上げた。
切っ先が空を裂く音がする。
気道が圧迫されて、意識が薄うくなってゆく。わたしはまぶたを閉じて、義勇さんの腰元にゆるく腕をまわした。
覚悟していた衝撃は、いつまで待ってもわたしの背中を貫いてはくれなかった。

「どうせ捨てるものなら、おれが拾っても構わないだろう。死んだつもり、殺されたつもりでおれのもとへ来い」

重たい鍔が床板を叩いて、ごとりと鈍い音が響いた。
ゆっくりと背中をさする手のひらの規則的な間隔にあわせるようにすると、わたしは久方ぶりに、すんなりと、肺の奥まで行き渡るような深い呼吸ができた。
このひとのためにいのちを使おうと思った。このひとが所有するもののひとつになれたのだと思うと、自分がすこしだけ、ほんのすこしだけ価値のあるもののような気になれた。惜春の、ぬるい日のことだった。