七夕と義勇先生

「義勇さんも作って」

帰宅して手を洗っている最中に、後ろから巻きつくように腰へ腕をまわしながら、あまく愛をねだるように彼女は言った。
脇の下から無理やりに割り入れられた顔がいやに不安げだったから、頭のてっぺんに一度キスを落としてから理由を聞いてみれば、明日が雨予報だからてるてる坊主を作ってほしいのだと言う。

「わたしは明日から数日間義勇さんと会えないというだけでこんなにさみしいのに、一年にたったの一度も会えないだなんて、そんなのせつなすぎます」

明日からは短期の出張が入っている。ほんの三日間留守にするだけなのだが、こういうときの彼女の嘆きかたといえば毎回こちらがこころ苦しくなってしまうくらいで、仕事のことにしろ、天気のことにしろ、自分の力ではどうしようもないことによって彼女がかなしむのを、おれはいつもすこし、悔しく思う。

「晴れなくても会える」
「どうして」
「星がなくなるわけじゃない」

彼女は若干の腑に落ちなさをうっすらと顔に浮かべながら、おれの腰元へごしごしと頬ずりをした。

「てるてる坊主を作ったら、短冊も書くか」
「四日後、義勇さんと一秒でも早く会えますようにって書きます」
「そんなことはおれが叶えてやるから、もっとちゃんとした願いにしろ」
「叶えてくれるの?」
「なるべく早く帰るよ。電話もする」

腰にへばりついたままの彼女をあやしながら、ふたりぶんの夕飯を温めなおす。みそ汁の鍋を火にかけて、まだほんのりあたたかい皿は電子レンジへ。
ミルクパンで沸かしたアダムスピークには金平糖を入れてやった。琥珀色のなかをゆっくりと沈んでいった星たちが、底のほうで仲良く肩を並べている。
だいすき、と彼女が笑った。離れてしまえばすこしでも早く会いたくなるのは、おれもまったく、同じだった。