義勇さんと七夕

うなじにやわらかな感触。湿ったあたたかいくちびるが、そうっと触れて、音を立てて離された。
坪庭前の縁側に立派な笹飾りが置かれていたから、彼女がここへ戻ってくることはわかっていた。
笹飾りにはすでに数個の短冊がくくられていて、昼に来ていた炭治郎や禰豆子やそのほかのやつらのもののようだった。

「短冊いくつ要りますか」
「ひとつでいい」
「ほんとうに?何枚でもいいんですよ」
「ひとつのほうが叶いやすい気がする」
「それならわたしもひとつにしたほうがいいかしら」

ぴったりと張りつくように隣へ腰をおろし、色とりどりの短冊を胸に抱いたまま、彼女は不安げにじっと俯いている。

「見せてみろ」

開け放した戸から吹きこむ風は、湿った土とくちなしのにおいで前髪を揺らす。
彼女は短冊をふたつに折って胸元へ入れこむと、おれの浴衣の袖をぎゅうと握った。引っ張られるままに顔を寄せてくちびるを合わせる。

胸元に手をかけると、はじめは多少の抵抗があったものの時期におとなしくなり、くちづけを繰り返すうちにまったくの無防備になった。

三枚の色紙の上には、おれと一日でも長く一緒にいたいということ、おれが息災でいられるようにということ、おれの毎日がやさしくて幸福なものであるようにということが綴られている。

「どれも叶わなかったら困るの」
「おまえの願いがすべて叶うようにと書くよ」

ひとりで出来ないことは多いものの、左手で文字を書くのにはもう慣れた。
彼女を笑わせることは、前よりもすこし難しくなったような気もするし、逆にたやすくなったような気もしている。
短冊を飾る際、すでに吊るされているもののなかに、もう一枚、彼女のものがあることに気がついた。
来年も一緒にいられますように、というすこし震えた文字が、風になびいてひらひらと翻っていた。