2

冨岡先生がなにをすきかわからなくって、缶コーヒーを買った。
わたしが先生だったら、つまらないし、うれしくもないかもしれない、と思ったけれど、ほかになにも思い浮かばなかった。
奇襲のように、すばやく、さりげなく行いたかったのだ。
ポケットに入るサイズで、なおかつ、入れても問題のないものでなければならなかった。
溶けてしまうので、チョコレートが選べなくって難航した。
ほかのお菓子の類も、割れてしまうといけないのでほとんど諦めざるを得なかった。
飴やガムはこどもっぽいし、だいいち持て余してしまいそうだしで、さんざ悩んだ挙げ句、結局缶コーヒーへ落ち着いたのだ。

さらなる問題に気がついたのは、缶コーヒーを購入したあとのことだった。
ぬるくなってしまうといけない。しかし先生がどこにいるのかわからない。
見かけたときにさりげなく渡すという行為が、このアイテムに限っては、かなり難しかったのだ。

わたしは昼休みの校内を、アルミ缶片手に駆け回った。ある種の心細さのようなものも感じた。迷子のような気持ちだった。

「冨岡先生……!」

やっと見つけた先生は講堂近くの階段を上ろうとしているところで、まわりには誰もいなかった。
思わず呼び止めてしまったので、先生は踊り場で足を止めて、そっとこちらへ振り向いてくれる。
アルミ缶はジャージのポケットに滑らかに入り込んではくれず、赤面しながらもたつくわたしのつむじを先生がじっと見つめるのを、気配で感じた。
さりげなく昨日のお礼を忍ばせるという目標は、なにひとつ叶わなかった。

「ありがとう」

「あの、ええと、昨日の……」

先生は返事の代わりにちいさく頷いて、また夜に、と低く呟いた。
折り返して階段を上っていくジャージの左の腰元が、重たそうに不自然に膨らんでいた。