2月22日

真白な深雪の上に、さらにしんしんと雪が降り積もっていく。
鱗滝さんへの手紙だろうか。
冷えた縁側で、義勇さんは筆をすこし滑らせては置き、考え込む、というのをしばらく繰り返していた。
時折空を仰いでは、絶え間なく降り注ぐ雪のかけらをじっと見つめている。
吐く息が白かった。


ちいさな火鉢を持っていき、厚手の毛布を肩にそっと掛けると、こちらを見上げる涼しげな瞳と目があった。
かすかに広角が上がったように思う。
それだけでわたしはどうしようもなくうれしくてたまらなくなってしまって、口元がゆるむのをすこしだって隠せなくなる。
降り続く雪の細かな影が、わたしたちの肌の上を幾度も通り過ぎていく。

「座ればいい」

義勇さんは両手をすり合わせるのをやめて火鉢をすこし離れたところに置き直すと、屈んだわたしの手首を掴んですっぽりと自分の腕のなかに抱き込んでしまった。
だいすきな義勇さんのにおいが胸いっぱいに満ちていく。
いつだって、わたしだけが熱に浮かされているようなすこしの心細さを、この腕が解いてくれる。
冷たい肌どうしが、触れあったとたんたちまちにあたたかくなっていく。

「こんなところに火鉢が落ちていたなんて」
「野良猫もいる」
「おしりを噛まない猫ですわ」

厚い胸板に後頭部を擦りつける。
義勇さんは毛布を広げるとわたしの胸元までかけなおして、その指でわたしのあごを猫をじゃらすみたいに撫でた。

「噛んだのは犬だ」
「野良猫が噛まないか確かめてみますか」

一瞬の間があった。背中から義勇さんの生きている音を感じる。


下あごに親指の感触。
続いて人差し指と中指がやさしく下くちびるをなぞる。
触れるか触れないかの絶妙な加減がわたしのまんなかをじりじりと焦がしていく。

は、とちいさく声にならない吐息が溢れた。
義勇さんはわたしのこめかみに鼻を寄せる。
薄いくちびるが頬をかすめるあまくしびれるような感覚に内腿どうしを擦りあわせると、衣ずれの音がやけにうるさく響いた。
三本の指の誘うままに薄くくちびるを開くと、すらりと長い指の一本がそっと滑り込んでくる。
舐め溶かすように指の腹に舌を這わせているうちに、瞳の裏がちかちかするような感覚で身体じゅうの力が抜けていく。
義勇さんはだらしなく体勢を崩していくわたしの腰をつかんで引き寄せなおすと、咥えさせた指はそのままに、耳元、そして首筋へとくちびるを這わせていく。

熱い舌先が耳に触れたとき、身体中をめぐる血液が火花をあげて弾けてしまったかのように身体が跳ね上がった。
たまらなくなってやっとの思いで義勇さんの方へ向き直すと、わずかに口角を持ち上げて不敵な笑みを見せてくれる。わたしだけがのぼせているみたいで余計に恥ずかしくなってしまう。

わたしはなんだかたまらなく悔しいような気持ちになって、じれる気持ちのまま義勇さんのベルトに手をかけて袴を下げていく。

雪は変わらず、しんしんと降り続いている。
空は淡い青灰色だった。
わたしたちは寒さも他所に見つめあう。
あらわになった白い下肢の内腿にくちびるをよせてあま噛みをしたとき、義勇さんの身体がひくりとわずかに震えた。

「とんだ野良猫がいたものだな」
「気が立っているのかもしれませんね」

義勇さんは羽織を脱いでわたしにかけると、まぶたの上に口づけをくれた。
ずるりと後ずさりをする義勇さんの首に両腕をまわす。そのまま室内へなだれ込むと、あとはもうこころのままに熱を確かめあうだけだった。


(2020.02.22 猫の日)