夜気

冬の夜、眠るときは、すこし寒いほうがすき。できれば下着以外はつけないのがいい。そうすると、素肌に触れる毛布のなめらかさと、義勇さんの脈打つ肌のここちよさが、何倍にもありがたく感ぜられるからだ。
風邪を引くぞ、と苦い顔をしつつも、義勇さんだってなめらかな毛布の下で冷たい素肌をあわせる快感を、実のところはよく好いているのだと、わたしはひそかに知っている。

シャンプードレッサーの電気を消しに戻った義勇さんが、すこし遅れて寝室へやってくる。
持ち上げた布団から、わたしの無防備な、はだかの肌がのぞいている。布を持ち上げる乾いた音とともに、しめった肌のあまいかおりが立ちのぼり、わたしたちのあいだを漂った。
義勇さんはヘッドボードの読書灯を切り、そのままわたしの身体をすっぽりと抱き込むようにして、やわらかな暗闇のなかへとおとなしく誘われてくれる。
たっぷりとした黒のスウェットの下から背中に腕をまわすと、冷たい肌どうしが、水のしずくをあわせたときのように、すうっと溶けあってひとつになるような感覚があった。

「冷たい」
「義勇さんの背中も冷たいです」

義勇さんの手のひらが、肩や背中や腰のくびれを確かめるかのようにそっとなぞる。わたしたちの身体は次第にとろとろと熱を帯びて、ばかみたいに感度を増してゆく。肌の上を滑る肌、その上を滑るやわらかい布。触れる吐息、ちいさな声。冷えた空気。
義勇さんがスウェットを脱いで、硬い胸板があらわになる。わたしは手を伸ばして、おなかのあたりと胸元をそっとなぞったあと、白い頬とうつくしい朱鷺色のくちびるに触れた。
おとこのひとは、ほとんどが硬くできていて、義勇さんの身体のやわらかいところに触れられるのは、わたしだけである。この事実の揺らぐようなことがもしもあるとすれば、わたしはきっと生きていかれない。隅々まで、わたしのものであってほしいと思う。あますところなく。爪の先まで、すべてだ。

「ぜんぶわたしの」
「どうした」
「言わないと、とられちゃいそう」
「そんなに浮気に見えるか」
「見えないけど、みんな義勇さんがすきだもん。ほんとうよ」
「おれにあまえたいやつが何人いようと、おれが身を任せられるのはおまえだけだ」
「うん」
「足りないか」
「ううん。でも、もっと、深く、わかりたい」
「わがまま」
「きらい?」
「すきだよ」

抱き起されて、氷のように冷えた空気に、無防備な肌が晒される。
羽毛布団は、シーツの上にまるまって取り残されている。軽い毛布は太もものあたりにぱさりと落ちた。
わたしは、このあとの触れあいで高まりきった熱を、冬の空気が冷やすこと、そのあとふたりしてショーツのみを身に着けて毛布へ潜り込んだときの、とろとろとしたあたたかさを思い浮かべて、うっとりとした心地になる。
時計が零時を打つ。触れた耳たぶがやわらかい。
窓の外には、雪がちらついていた。