きみ思うとき巡る季節

「適当なサイズがわからなかった」

そう言って義勇さんが持って帰ってきたのは、彼の身長よりもすこし高いクリスマスツリーだった。
オーナメントが別売りのものだったので、次の日はホールセールクラブへ出かけて、モールやらレプリカのプレゼントボックスやらキャンディのステッキやら、百八十センチメートルのツリーに見合う、たくさんのアクセサリーを買い込んだ。
ツリーにはなぜか電飾が一本だけついていたので、とりあえず巻きつけて光らせてみたものの、はだかのツリーがちかちか点滅しながらきらめいているのは、どことなくシュールの感じがした。

「店で見たときはこんなにでかくなかった」
「大迫力ですね、すてきです」

わたしたちはツリーの側にぺたんと座り込んで、オーナメントのアソートボックスの包みを開けたり、気に入ったものを近くの枝へ引っかけたりしている。
わたしは、七夕のときにはレプリカの笹飾りを、クリスマスにはツリーを用意してくれた義勇さんのこころがうれしくてたまらなくって、頬にくちびるを寄せた。
義勇さんはちいさく笑って、やさしいキスをくれた。
義勇さんの髪の毛や、まつ毛や頬を、点滅するブルーのひかりが照らしていて、きれいだった。

「おまえが、季節をたいせつにするやつだから」
「つきあわせてしまってないでしょうか」
「四季があざやかになってうれしいよ」

湧き上がる幸福にこころが震えて思わず首に巻きつくと、義勇さんも軽く腰を抱いて答えてくれた。つむじに軽いキスがあった。わたしは抱く腕にぎゅうと力を込めて応じた。

水が川を満たすように、水が川を作るように、わたしたちの思いはそれぞれのこころの隅から隅、隙間のすべてにまで行き渡って、お互いをやさしくさせる。どんなにちいさな綻びへもすばやく、なめらかに流れ込む。それはわたしたちにとって、水の流れるように自然なことだった。
自然なことだけれど、そのありがたさを思いなおしたとき、今共にいられていることのしあわせが、痛いほどにこころを震わせるのだ。
そばにいれば思いあえても、出会わなければ叶わなかったこと。尊いこと。

「わたし、ほんとうにしあわせ」

思ったよりもずっとあまえた声が出て、はずかしさをごまかすように笑う。肩が揺れて、義勇さんの髪の毛がさわさわと頬に触る。その感触すらわたしにはいとおしい。義勇さんのもたらすもののすべてが、わたしを震えさせるのだ。そうしてわたしは生きてゆける。

愛されるために愛したわけでないのに、この愛を失えば、もう生きていかれないと思ってしまう。
セルフィッシュに思えるかもしれないが、しかし、彼の幸福とわたしのいのちとを天秤にかけるなら、わたしは迷うことなく彼の幸福を選ぶだろう。

「サンタさんの杖はペパーミント味なの」
「床屋のサインポールみたいなやつ」
「あのしましまはどこに吸い込まれていくんでしょう」
「実際に吸い込まれてるわけじゃない。そう見えるだけだ」
「うそお」
「うそじゃないよ」

広い胸にもたれたまま、わたしたちはとりとめのない会話を繰り広げた。広げた会話は、広げたまま畳む必要などないといったふうに自由な転がり方でゆるゆると続いた。
義勇さんはわたしを支えたまま、こどもをあやすようにして、ゆりかごのように身体を揺らしている。

わたしは片手に持ったままのてっぺん用のおおきな星の飾りを、義勇さんの肩越しに見つめてみたが、星ひとつぶん義勇さんに遠いと思うとせつなかったので、フローリングの上にそっと置き、自由になった手のひらであたたかな背中をまさぐった。

「でかいサーモン買った」
「食べ放題ですね」

今度は義勇さんが静かに笑う。
広い部屋の端っこで、わたしたちは大抵ふたりでちいさくまるまっている。

義勇さんはよく笑う。穏やかに。風のそよぐように。人々が見逃す時のはざまに、あたたかなこころのきらめきが潜んでいる。
瞳を見つめれば、色々のことを考えていることがわかる。

ぴったりとくっつけていた身体をすこし離し、すき、と思って見つめれば、そのままゆっくりと組み敷かれて、背中がひんやりと冷たくなる。後頭部に添えられた手のひらが、わたしの体重を支えている。重たいものをこうして下ろすのが、とっても力の要る繊細な動作であることを、わたしは知っている。

鼻先どうしが触れて、こっそりとほほえみあう。
ベランダの隅で、雨除けのカバーにくるまれた笹飾りが、夏の星を静かに待っている。
これから幾度となく巡りくる季節のひとつひとつがすばらしいものになるよう祈りを込めた。そのとおりになる予感がした。予感はもはや、確信の感じだった。
まだ明るい空にしろい月が浮かんでいた。