19:アンフィニッシュド

宇髄先生のお宅は、義勇先生のおうちから十数分のところにあるデザイナーズマンションの一室だった。
4LDKの広いその部屋は、元は、二戸を一戸に改修したオーナールームだったという。

今日は花の金曜日だ。
わたしたちはよく片付いたリビングのおおきなL字型ソファのまわりに密集して、流行りの新作のテレビゲームに熱狂していた。
わたしたち、というのは、宇髄先生と、炭治郎くんとそのお友達の善逸くんと伊之助くん、不死川先生と伊黒先生と、義勇先生とわたしである。
時折、宇髄先生の三人の彼女、まきをさんと雛鶴さんと須磨さんが様子を見にやってくる。

ゲームは最大四人で対戦ができるアクションものだった。
負けたひとが待っているひととバトンタッチしていくというルールを設けて、みんなでぐるぐるとコントローラーをまわしあって遊んだ。
先生たちはお酒を飲んで、わたしたちはカルピスウォーターを飲んだ。
炭治郎くんと義勇先生とわたしはずば抜けてへたくそで、一時間も経てばソファの端っこのほうに固められたけれど、押し合いへし合い笑いあうのはとてもたのしかった。


宇髄先生は、考え方の大胆なひとだ。
恋人は三人もいるし、きっと気づいているわたしの義勇先生への気持ちも咎めないし、未成年にお酒を飲ませようとするし、とにかく、自分にも他人にも大様だった。
義勇先生の家で会ってからは、こうして度々集まりに誘ってくれる。
「恋なんて自由でいい」というのは宇髄先生がよく使う言葉で、そしてそのあとは決まって「不倫と浮気以外はな」と言って笑うのだ。
わたしはちょっぴり勇気をもらえるその言葉がすきだった。
そう言い切れる、宇髄先生のこころがすきだった。


キッチンへ向かうという雛鶴さんに続いて立ち上がりかけたわたしの腕をひっぱったのは宇髄先生だった。
バランスを崩したわたしは、義勇先生の膝のあいだにしりもちをついてしまう。
義勇先生はわたしを受け止めるみたいに腰元へ手を添えてくれた。

「わ、すみません義勇さん……!だいじょうぶですか」
「ああ、平気か」
「もう、危ないじゃないですか、宇髄先生」
「一位は明日タダ焼肉なんだよ。一番弱いサンドバッグがいなくなったら困るんだわ」

そう言うやいなや宇髄先生は勝手に会話を切り上げて、テレビへと視線を戻してしまった。

背中に義勇先生のかおりとぬくもりを感じる。
そのあたたかさに擦り寄るようにそっと体重をかけてみた。

「どうした」

義勇先生の声が耳元であまく響く。低くちいさな声は、みんなの騒ぐ声に都合よくかききえて、きっとわたしにしか届いていない。
先生がこんなにやさしく呟くことを、わたしだけが知っている。
少なくとも、ここにいるひとたちのなかでは。

「あたたかいから」

わたしの背骨は、先生の胸板に、となりあわせのパズルのピースのようにちょうどよく収まっている。
先生が空のお猪口をわたしの胸元で軽く揺するから、わたしは先生が先ほどからすこしずつ舐めている日本酒をなみなみと注いだ。
先生の空いた片手はわたしの腰元をゆるく抱いていた。

「焼き肉に行くの?」
「らしいな」
「明日もたのしみ」
「眠くなったら寝るといい」

わたしたちが寄り添っていようと離れていようと、みんながわたしたちの扱いを変えることはない。
それはわたしの気持ちが容認されているみたいで、おかしくは見えないと言われているみたいで、わたしにはどうしようもなくうれしいことだった。

先生は言葉を交わすみたいにわたしに触れる。
相槌のかわりだというように、すぐに不安になってしまうわたしを安心させるように。
わたしは先生に肌を寄せる。
両手では持ちきれない愛しさをそっと渡すように。
生徒をたいせつに思う先生を困らせないため、わたしたちみんなの絆を壊さないため、すきだと言葉にできないかわりに。