3:ひだまりには棘

朝日だ。
木々の隙間から、黄金色の朝日が差す。
鴉の合図で何十人もの隠がどっと雪崩れ込んでくる。

規模のおおきな戦闘だったが、幸い死者はでなかった。
乾いた風が運ぶ砂ぼこりを防ごうとした手のひらの上で、乾ききらない血がぬらりと光る。
鬼の血もこうして見てみると、人間のものとなんら見分けがつかなくなってしまう。
とんだ皮肉だ。


下山中、開けた山腹に彼女を見つけた。
負傷した隊士たちのまんなかで、やさしい手つきで薬を塗り込んだり傷に布を当てたりと、治療にあたっているようだった。
おつかれさまです、もう大丈夫です、と繰り返し隊士たちを励ます様子は、燦々とかがやく朝日の助けもあってか無性にありがたく見えた。

目が合うと、彼女ははっと息を飲むように瞳を一瞬だけまるくして、そしてうんとやさしくまなじりを下げて顔を綻ばせた。花が咲くような笑顔だった。

末端の隊士の訃報が数百人で構成された組織の隅まで行き渡るわけではない。
散っていくいのちのひとつひとつに一喜一憂しているいとまはないし、他人の生き死ににこころを揺さぶられてばかりでは隊務に支障をきたしかねない。
他人の安否などを気にする余裕があるのなら、そいつを守れるだけ強くなる努力をするほうが先だ。
無意識のうちにほうっとかすかに溢れでたため息が安堵の色を孕んでいるように思えたのは、悪い意味で、気がかりだった。