泣き止んだわたしを、先輩は送ってくれると請け合ってくれた。
うんともすんとも言えないまま車内へ乗り込んで、しばらくは無言のままだった。
なにを言っているのかわからないくらいのちいさな音で、カーラジオが流れている。
先輩がしずかに話し出して、わたしの意識はようやく現実世界へと呼び戻された。
心臓がぐんと重たくなった。その心地の悪さは、高速エレベーターに乗ったときのいやな浮遊感に似ていた。
「写真、撮ったじゃない」
「そんなこともありましたね」
「からかってたっていうのも多少はあるけど、写真撮るの、すきなんだ」
意外だって思ったでしょ、と先輩は笑う。
意外かもしれないし、そうじゃないかもしれなかった。
そんなことよりも、わたしは先輩の口からこぼれた、すき、という言葉に胸がせつなく傷んでしかたがなかった。
わたしのことを言ったわけじゃないのに、先輩が、あまりにもやさしい顔で笑うから。
「きれいだったよ。夕映えとやさしい顔がよくマッチしてた」
「うそです」
「ほんとだよ」
またこうして、先輩はわたしをかき乱そうとする。
先輩を信じてはいけない。こころを許してはいけない。たかぶりを見せては。
わたしはしずかにかぶりを振った。シートベルトを握る両手が震えた。
わたしの意志が弱いのがいけないのだ。
先輩をきちんと拒絶しなくては。飛び越えてはだめという線をしっかりと定めて、ふたりの共通認識として持っておかなくてはならない。
決して越えてはいけないと、決して踏み込ませてはいけないと、濃く深い、確かな線を。
それぞれの自宅への分かれ道になるコンビニエンスストアの前で、先輩は車を停めた。
出会った日を思い出すようなうつくしい夕陽けだった。
ばら色のひかりがわたしたちをやさしく包む。
「アイス食べてく?」
「結構です。わたし、もう帰ります。ここから歩いて近いので」
シートベルトを外し、目も合わせないままにそそくさと立ち上がるわたしを、ハンドルにもたれる先輩はなぜか楽しげに眺めていた。
「そ、じゃあね」
別れ際のそのひと言が、いつもの声よりもぐっと低く感じた。
突き放すような物言いに血の気が引く。
機嫌を損ねてしまったと戸惑うわたしを横目に、先輩はさっさと車を出して行ってしまう。
なにも思わないなんて無理で、もうおしまいにしてしまいたいはずなのに、こんなのはいやで、わたしは四肢をでたらめに動かしてみっともなく後を追い、力の限りの大声を上げた。
「せ、先輩……!せんぱい、時透先輩!」
迷子のこどものような声が出た。
おさなくひび割れた、情けない叫び声。
酸欠を起こして頭がくらくらする。
泣いてしまいそうになる。先輩、行かないで、先輩。
わたしを置いていかないで。
置き去りにされた熱いこころをどうやって冷ましたらいいかわからないの。
先輩は信号待ちの車窓から顔を出し口角を吊りあげて、いつもどおりのニヒルな笑みをくれた。
その口が、ばいばい、と動く。
ばら色のひかりの元で、やさしく。