迅悠一


「ひょっとして迅さん、全部自分のせいだなんて馬鹿なこと思ってないですよね?」

「うおレオじゃんか! 驚いた」
「また読み逃しました?」

ニヒルな笑みを向けるこいつに、そうだよと呑気に答えておく。内心は心臓バクバクなんだけど。
少し生意気な俺の後輩は、時に驚くくらい正確に核心をついてくる。
現に、屋上から街を見下ろして大規模侵攻のことを思い出していたらすぐこれだ。
何も考えていないような顔をして、気づいて欲しくもないことをズバズバと言い当てる。
しかもよりによって、何故かこいつのことは読み逃しが多い。困ったものだ。

「んで? どうなんですか?」

んー、とテキトーに相槌を打っておく。きっとレオもそれに気づいているだろう。何も気づいていないような顔をしておいて、こいつは誰よりも人の心を悟るのが上手い。

思わないわけ、ないだろ。俺だけが唯一未来を知っていて、救える人だっていたのにそれを見捨てて"俺が"良いと思う未来へ繋げた。それが俺の役目だ。知ってたのに助けられなかったってことは、殺したのと同然。俺はサイテーな奴なんだよ。

「先に言っておきます。俺はSEなんて大層なもの持ってないし、ましてや未来視なんて。だから迅さんの気持ちは分からないです」
「唐突だなレオ。なんかあったのか?」

何となく言おうとしていることが分かったから話を逸らすよう仕向けたが、こいつは強引に続けてきた。

「だから、なんで迅さんが自分を責めてるのか俺には全くわかりません。
迅さんがボーダーに入って能力を人を救う為に使ってるだけで、もう偉いんですよ。犯罪に使うことだって出来たわけだし。
選択するのは個人の自由なわけだから、分かってても助けないのは何も悪くありません。攻めてくる奴がいたら自意識過剰とでも思っとけばいいんです」

「ははっ…。随分ドライな考え方だな」
「じゃあそんな考え方が出来ないなら、迅さんは凄く優しいんですね」

ほんとにこいつには叶わない。
今だって心が少しだけ、軽くなった気がしたんだから。


__________何かあると少しでも自分を責めてしまう優しい彼に、僅かでも救いの言葉を掛けられるようになりたいから__________


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