04



ティーダは名乗りから始めて、どこに住んでいたのか。どんな生活をしていたのか。どういった文化があったのか。その辺りを話してくれた。
やはり話を聞く限り、全く知らない世界だ。
少し現代に似てる所があるかなー?と思った程度。
そもそもザナルカンド、なんて地名知らないし。
「ところでブリッツボールってなに?球技?」
くらいの疑問しか抱かなかった私に反して、リュックはとても神妙な表情で黙り込んでしまった。

わけを聞けば、ザナルカンドという場所は千年前に滅んだと言う。─千年前に滅んだ?

「ティーダは千年前から来たってこと?」
「そ!そんなわけないっス!」
「滅んでるのは、本当だよ。今はエボンの神聖なる場所になってて誰もそこへ行けないけど……」
「オレは数時間前までザナルカンドでブリッツやってたんだ!本当なんだ、嘘じゃない……」

再び勢いよく立ち上がり、そして瞬く間にしゅん。と肩を落としてしょんぼりするティーダ。
気まずそうなリュックに比べて、事の重大さを飲み込めない、そんなに衝撃など起こらない私は。

「あるんじゃないの?」
「「え?」」
「リュックが指すのもザナルカンドなんだろうし、ティーダが住んでたザナルカンドもある。今この世界にはないけど、“ティーダのザナルカンド”は必ず存在すると思うよ」
「……何を言いたいのか分かんないっス」
「んふふ、私もザナルカンドって言葉がゲシュタルト崩壊だよ!リュックもティーダも、一緒に確認しに行ったらいいんじゃないかな。エボンの神聖なる場所と呼ばれてる、“ザナルカンド”へさ!」

腰を上げてティーダの隣へ並び立つ。
我ながら無理やり感がすごいけど。
本当に滅んでいるならティーダは千年前からやって来た。滅んでないなら、そのままそこへ帰れる。

「……ナナシはオレが千年前のザナルカンドから来た、って言っても信じてくれるのか?」
「うん。嘘じゃないんでしょ?」
「っス」
「じゃあ信じるよ。私はティーダを信じる」

目を合わせてにっこり笑う。
晴れ渡る青空のような、澄んだ海のような。
そんなティーダの瞳が潤んだように見えた。
海の方を向いてしまったので確認は出来ない。

……触れるのは止めてあげよう。
その変わりと言ってはなんだけど。

「リュック、ゼオンから聞いたんだけどこの世界には天災級のモンスターがいるんだよね?私はその存在が気になるんだ。何か知ってたら教えてほしい」
「もしかして“シン”のことかな」
「“シン”?」
「すっごくすっごくすーっごく大きい鯨、のようなモンスターがいるよ。天災級かぁ、言い得て妙だね。確かにあれは自然災害そのもの、かも。
ザナルカンドを滅ぼしたのもシンが現れてそこで大暴れしたから、なんだ」

鯨のような、か。
エオルゼアにもビスマルクという白鯨がいた。
それに匹敵する大きさのモンスターなのかな。

「もしかしてティーダが襲われたモンスターって、その“シン”って呼ばれてるやつなんじゃない?」
「……シン。そういえばアーロンも……ええと、オレの知り合いもそんな名前で呼んでたと思う」
「襲われた!?ってことはシンに近づいたの!?
……きみ、シンの毒気にやられちゃったのかもね」
「「シンの毒気??」」

ティーダとは何度もハモってしまうな。
この世界のことを知らなさすぎるね!!
リュックも“この二人、ヤバいわ”って表情してる。
無知なる我らにご教授ください!

彼女曰く、シンに近づき過ぎた人は頭がぐるぐるしてしまう。頭がぐるぐる……つまり記憶が曖昧になったり変な夢を見たり、ってことだろう。
精神に異常が起きることを“シンの毒気”と呼ぶ。

ザナルカンドがないのもシンに近寄らないのも、この世界では常識なんだ。心に留めておこう。

「よーし、次はリュックお願いします!」
「もう私ぃ!?その前にナナシに聞きたいんだけど、なんでゼオンからシンの話を聞いたの!?そもそも、あのゼオンが話しかけてきたの!?」
「超訳すると、お前暇そうだから仕事やるわ。そんな感じで話しかけてきたよ。で、周囲の警戒も頼まれてさ。理由を尋ねたらシンの話になった……ってとこかな!それにしても、リュックとゼオンは二つの言葉を話せるんだね。すごいなぁ!」

オレ、ちんぷんかんぷんだった!
私も!でも悪意のある言葉は雰囲気で伝わったよ!
なに言われたんだ?
はらたつ女、って!
ナナシ、怒らすようなこと言ったんスね。
そんなことは!な……くもない、かな?
やっぱし!
やっぱしって何さ!?

ティーダとやいのやいの言い合っていたら、
リュックが意を決したように声をかけてきた。

「……あのさ、二人はアルベド嫌いじゃないの?」
「嫌いもなにも、アルベドを知らないからな」
「そうそう。同じ国に住んでても土地ごとに訛りや独特の言葉使いをする所はたくさんあるよ!
アルベド族もそういうことでしょ?私なんて一つの言葉しか話せないんだよ!?羨ましい!」
「二ヶ国語ってバイリンガル?だよな!」
「それー!!すっごく憧れる……!」

ああ、でも!
分からないままだと意思疎通が難しいから、
あいうえおで訳せる簡単な変換表がほしいよね!

「二人とも、変なの!」

ぴょん、と立ち上がったリュックは私とティーダの目の前に来て、例のゴーグルを外した。
あら。可愛らしいお嬢さん!

「アルベド族は機械や銃を使ってる。それはエボンの教えに逆らってるってことなんだ。エボンは機械の使用を禁止してる。ここではエボンが絶対で、逆らうなんてありえない。教えに反してるアルベド族はおかしい、危険な集団。そう嫌われてるの」

エボンの教え。エボンの祈り。
エボンが絶対で、逆らうのはありえない。
いよいよ“エボン”という組織がきな臭くなってきた。人の思想や思考を掌握するような組織は、大体が裏で後暗いことをしている。そうなると、エボンの神聖なる土地……という言い回しも怪しい。
これ絶対何かを隠してるな。

「銃を向けて怯まなかった人、初めてだったよ」

私を見て、苦笑いするリュック。

「言葉に関してもそう!私たちが喋ると嫌悪感を示したり、そっぽ向いたり、まともに取り合ってくれない。でもナナシはちゃんと会話を、話し合おうとしてくれたよね。……あれ、嬉しかったんだ」
「弓矢構えてたのに?」
「ティーダもビビってたもんね」
「あはは!うん、怖かったよ。怖かったけど、先に攻撃したのは私たちだから。武器を向けられて当然だと思う。それより、真っ直ぐ私たちに向き合ってくれたことが本当に、本当に衝撃だったなぁ」

嬉しいけど、怖い。
リュックの言葉はそう届いた。

そんなリュックの正面に膝を着き視線を合わせる。

「この世界を私は何も知らない。アルベド族のことも今初めて知ったし。エボンがどうだろうが他の人が何と言おうが、私たちのことを知ろうとして自分たちのことを知ってもらおうとするリュックは、友好的で思慮深くて優しい人だと感じるよ」

つまり何が言いたいか!短くまとめると!
私はリュックが好きだよ!!

短時間しか話せてないし、まだまだお互いのことをよく知らないけど。リュックのことは好き。
そう伝えたら、照れたように彼女が笑った。
ティーダも微笑ましげにこのやり取りを見ている。

「えへへ、えっと。ナナシ……ありがとう」
「なんのなんの。正直な気持ちですから!」
「ナナシはアレだなー、人たらしってヤツ!」
「ティーダくん、もっと良い表現なかった?」
「人たらしで合ってるんじゃないかな」
「んまー!リュックまでそう言うの!?違います!距離を詰めるのがちょーっと早いだけですぅ!」

三人で笑い声を上げた。
世の中には楽観的に両手を広げる人も必要なんだ。
人と人を繋ぐのも、また人だから。

……そういえば。
二人に聞いておかなければいけないことがあった。
冒頭でも抱いていた、ひとつの疑問。

「リュック、ティーダ。今一番知りたい情報があるんだけど。……ブリッツボールって何?」


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