船の甲板で仕事の内容を教えてもらった。
海底に沈んだ遺跡があり、今は動いていないがエネルギーが残っているかもしれない。それを動かせば遺跡が復活して海底に沈んでいる“アレ”を引き上げられるはず。と。“アレ”が何かは教えてくれなかったが、ようするにサルベージを行っているわけだ。
海を目視する。
この船からの光が海中を照らしてはいるが、やはり海面より下は暗く、先を見通せない。
泳ぐのか、ここを。
潜水はしたことがないんだよなぁ。
仕事を手伝うと言った手前、行かないわけには……。
覚悟を決めて上着を脱ごうとしたら肩にポンと手が置かれた。その手の主はティーダだった。
「オレが海へ行ってくる。泳ぐのは得意だからな!
ナナシはここでこいつら見張ってて!収穫ゼロで上がってきた時、役立たず!って撃たれそうだしさ」
「え、いいの?」
「いいっスよ!」
「……ありがとう、気をつけてね」
ティーダの好意に甘えよう。
見張りの彼らを見張る・という意見も賛成だ。
「失敬だなぁ、もう!そうバカスカ撃たないよ!」
「へっ、どうだか!」
「リュックちゃんは友好的だもんね」
「……リュック、ちゃん?」
「あ。ちゃん付けで呼ばれるの嫌?なんて呼べばいいのか分からなくて。敬称の方がいいかな?」
「んーん!新鮮な呼ばれ方でむず痒いだけ!名前に敬称はいらないよ、呼び捨てで大丈夫!」
にこっと笑ってくれるリュック……は、可愛い。
歳の離れた妹がいるならこんな感じなのかな。
なんだか空気がほんわかしちゃう。
お互いへへへと笑い合っていたら、ティーダが船の手すりへ飛び乗った。身が軽いなぁ!
「おっと!それじゃあ、お仕事がんばろー!」
「うーっす!ナナシ、行ってくる!」
「行ってらっしゃい!」
二人が海へ潜って行った。
他のアルベドの皆さんも各々の仕事を始めている。
私は彼らを見張りつつ、何をしようかな。
甲板の掃除でもしてみようか。
「トミ、トンハ」
すると後ろから声をかけられた。
私に話しかけているのは伝わるが何を言ってるのかは、やはり分からない。翻訳機がほしい。
首を傾げて相手を見る。
不思議なゴーグルに、頭は金髪モヒカン。
上半身に彫られたタトゥーの多さは尋常ではない。
そしてとてもファンキーな格好が目を引く。
見つめすぎたのか、彼は両手で顔を隠して恥ずかしがる仕草を取った。なんなんだ、乙女か。
「お前だな、弓矢で銃を貫いた女ってのは」
流暢な言葉が聞こえてそちらを向く。
例のゴーグルに深緑色のツナギを着た青年。
他の男性たちのように奇抜な髪型ではなく、普通のショートヘアで髪色は夕焼けのように赤かった。
問いに頷いてみせれば鼻で笑われた。
モヒカンの人に話しかけてから再び私と向き合う。
「お前、名前は?」
「ナナシ。あなたは?」
「俺はゼオン。アルベド族じゃねぇが、どっちの言葉も話せる。お前の仕事内容は船の中で話す。通訳してやるから黙ってついてこい」
「嫌ですけど?」
空気がギシッと軋む。
敵意を顕にする相手の領域に自ら入るとでも?
冗談はよしてほしいし、舐めないでほしい。
あなた達が私を警戒するように、私もあなた達を警戒している。さすがに拒んだ意味、分かるよね?
口元が引き攣ってるから理解はしてくれたかな。
「マナサユトンハ……」
「はいそれ悪口!絶対悪口だね!何言ってるか分からないからって現地語で悪態つくとか陰湿!!」
「チッ、うるせぇなぁ!」
図星だったようです。
悪意ある言葉はニュアンスと表情で分かるんだぞ!
プンスカしていたらゼオンが私に近づく。
「お前には甲板の掃除と周囲の警戒をしてもらう」
「掃除ね、了解。周囲の警戒ってのは何?この辺りに大型モンスターでも出現するの?」
「大型……いや、天災級のモンスターだ」
おっとそいつはヤバい奴だ。
見つけた瞬間アウトな奴だね。
かなり重要な任務では?私なんかに任せていいの?
言いたいことが顔に出ていたみたいで、ゼオンは眉間を揉みながら盛大にため息を吐く。
「銃口に矢を突き刺すほど動体視力の良いお前なら巨大なモンスターの動向は見逃さないだろう?この船がやられりゃ、お前の命もなくなるわけだし」
「ほほー。あなた馬鹿じゃないのね」
「はらたつ女……」
「あ、さっきの現地語と同じ言い方!ほら!やっぱり悪口だった!どうも、はらたつ女でーす!!」
そう言った瞬間、頭を掴まれた。
ぐぬぬ!暴力反対……!!
何度も舌打ちして背を向けるゼオン。
からかうのはこれくらいにして、掃除しよっと。
ほうき、ちりとり、雑巾。掃除三点セットを携えて甲板を磨きにかかった。地味な作業は腰にくる……。
黙々と手すりや床、壁も掃除して、全てを終えたら周囲を警戒しつつジャガイモの皮を剥いていた。
さり気なく雑用増やすんじゃないよ!
くそぅ、調理師カンストガールの本領発揮だ!
船にある全てのジャガイモの皮を剥いてやる。
買い物かご三つ分ほど、ジャガイモを剥いた頃。
海が重く縦に揺れた。
船の周囲を見渡してから海の彼方まで確認。
……モンスターの影と気配はない。
海の遺跡で何かしら起こったということか。
海面に目をやると白い光がこちらへ伸びていた。
どうやら遺跡のエネルギーは残っていたらしい。
ティーダもリュックも頑張ってるねぇ。
「おい」
「ちゃんと名乗ったはずだけど?」
「……ナナシ」
「なに?」
「ジャガイモ剥きすぎだ」
「……てへっ!」
わあ、すごい顔。
煮物作ればいいじゃない!日持ちするよ!
カレーやグラタン、アレンジも出来る!!
ポテトサラダも大量に作ってしまえばいい。余ったらコロッケにしたり餃子の皮に入れて揚げたりね。
ジャガイモの調理を買って出たが、見知らぬ奴を命の要である厨房に立たせるわけにはいかない。
ものすごく当たり前のことを言われた。
そりゃそうね。ごもっとも。
たくさん剥いたから、と10個ほど貰えた。
素材名を見てみると【スピラのジャガイモ】。
「ゼオンさんや、スピラ?ってなに」
「は?お前生まれたての赤子か何かか?」
「あなたとは一度本気で喧嘩した方がいいかもね」
「常識中の常識を聞かれりゃそう言いたくもなる。
スピラってのはこの世界のことだ。当然の常識を知らないってことはエボンの祈りも知らねぇな?」
「エボンの祈り??」
祈りって何だ。もしかしてお辞儀のこと?
これでも色んな種類のお辞儀を知ってるんだぞ!
……まぁ、スピラという世界を知らないから初めて見るお辞儀なんだろうな。
ゼオンが見本を見せてくれた。
両腕を下へ向けて広げながら、左足を下げる。
左足を元に戻すと同時に下へ向けた右手は上へ。
左手は下に。胸の前で小さなボールを持つような動作をした後、そのまま一礼した。
「へぇ、それがエボンの祈りなんだ」
「記憶喪失か?ってレベルの常識知らずだな」
「感謝する気が削がれることを言わないでほしい!
えーと、こうだね。ありがとうございましたァ」
顎を出しながら祈りのポーズを決めたら頭を叩かれた。口も悪けりゃ手も早いってか!この野郎!
今のは私も悪かったけどね!故意でーす!!
ゼオンと不毛なやり取りをしていると、海に調査へ出ていたアルベドの皆さんが上がってきた。
集団の最後にリュックとティーダが姿を見せる。
よかった、無事で!
ティーダに声をかけようとしたら、水を払うために勢いよく体を振っていた。犬じゃないんだから!
私に気づいたティーダは、ぱあっと破顔した。
うっ、眩しい……そしてちょっと可愛い……!
「おかえりなさい!」
「た……ただいま!えらい目にあったっス!」
「船が揺れたよ。モンスターでもいたの?」
「アンモナイト的な?イカ……的な?やつが!」
「あらら、お疲れ様!水中で戦えるってすごいね」
「へへーん!あ!んでもリュックが水中でも手榴弾投げるんだよ!めっちゃ怖かった」
「ふっふっふ、威力抜群だったでしょ!」
「だから怖かったって言ってんの!」
騒がしくなる甲板。
この二人、似た者同士っぽくて賑やかだなぁ。
微笑ましげに二人の会話を聞いていたら、金髪モヒカンさんがリュックに声をかけた。
アルベドの皆さんは艦内へ入って行くが、私たちは外で待機ですって。ごめんね、と手を合わせて謝ってくれるリュックは、優しい良い子だ。
ぐうう、と聞いたことのある音が耳に届く。
ティーダと目が合えば「お腹空いた!」と。
海へ潜ってモンスターと戦って……、そりゃあお腹も空くでしょう。ではでは再び調理しますか!
ジャガイモ入りのパンケーキに、シチュー。
さっきはグラタンだったからシチューはどうかなと思ったけど。体を温めるものにしたかった。
動物性タンパク質が欲しければ、モンスター丸ごとでいいから持ってきて。と、お願いしておく。
お腹を満たしてから、壁に寄りかかる。
ゼオンから仕入れた情報はまずこの世界の名前。
“エボン”という組織、もしくは宗派があること。
天災級のモンスターが存在していること。
独自の祈り方、しかもそれは世界共通っぽい。
そう考えると相当大規模な組織と考えられる。
黒幕やラスボスなんかが居そうね。
天災級のモンスター。これもなかなか厄介だ。
蛮神のような存在であると思ってて良いはず。
それなら、私一人で戦うのは無茶だろうなぁ。
出来るだけ多くの人を救う。
この条件を達成する為には後七人、仲間が欲しい。
雲が覆う空を眺めつつ無言で考え事をしていたら、ティーダは船を漕ぎ出した。泳いでたくさん戦って。お腹いっぱい食べたら眠たくなる。
……ティーダ、子供みたいだなぁ。
「あれ、寝ちゃったの?」
「やあリュック。うん、半分寝てるかも」
「水を持ってきたんだけど、いる?」
「ありがとう、いただくよ」
水筒を受け取って口に含む。
普通の水だ。ふーむ、少し硬いかな?
飲み込んでからティーダの肩をつつく。
ハッとして起きた彼は口元を乱暴に拭った。
「リュック、少し話を聞かせてくれる?」
「もっちろん。私も二人の話を聞きたいんだ」
「じゃあまずは……ティーダから!」
「えっ!?オレから!?」
ええー?!あー、……うーんと。
何を話そうか迷っているらしく、唸り声を上げる。
ひとつ咳払いをして。
「オレは、ティーダっス!」
「「名前から入るの?」」
「知ってる情報はいらんのだよティーダくん!」
「きみ眠たいんでしょ、一回海に入ってきたら?」
「二人とも言いたい放題っスね!?」
立ち上がって怒るティーダを宥めた。
本当、いいリアクションするなぁ。