04



青い空、白い雲。
蒼く澄み渡る海に、穏やかに吹く風。
寺院を出た私は、近くの崖から景色を眺めていた。
綺麗な風景に心から感嘆する。

竪琴を弾きたくなるが、手元にはない。
そのままボーッとしていると村の子どもがやってきた。男の子が二人、女の子が一人。
どうやら“冒険者”がなんなのか知りたいらしい。
外の世界を知りたがる。うんうん、いいことだ!
そうやってどんどん視野を広げていってね。

エオルゼアでの冒険の話を聞かせてあげた。
三人は目をキラキラさせている。
楽しいことだけではない、理不尽な目に合うこともある。それにぶつかった時、どう対処するのか。

「オレなら……うーん、どうするかなぁ」
「私は泣いちゃうかもしれない」
「僕、たぶん何もできないと思う」

真剣に考える三人を見て笑みを零す。
どんな世界でも子どもたちは“希望”で“未来”だ。
大人になっても考えることを止めないで欲しいな。

「きみたちが困って立ち止まった時、迷って動けない時、考えても答えが出ない時。友達や家族、大好きだと思える人に相談して。一人で抱え込むより、言葉に出して話をしたらきっと道は開けるよ。そんな人いない、って状況があるかもしれない。じゃあその時は。空に向かって叫べばいい!」
「「「空に向かって叫ぶ?」」」
「そう。わーっ!でも、バカヤロー!でも、なんでもいいよ。大きい声を出して一度頭ん中を空っぽにしてさ。スッキリしたら、前を向いてほしい」

突然叫んだら周りの人、びっくりするよ!?
女の子が驚いたような目で私を見る。

「うん、びっくりして話しかけてくるかもね。もちろん無視する人が大多数だと思う。でも自分の心を守るため、もう一度進むために、声を出す・というのは大事なことだよ。……ま、持論だけどね!」

お姉ちゃんも叫んだこと、ある?
男の子が尋ねた。

「ない!!ははは、怒んないでよ。私は困ってたらお節介な人に捕まってね。叫んだことはないけど、もし叫んでる人が目の前にいたら助けるよ」
「それは、どうして?」
「私が助けられたから、かな!きみたち三人が困った時は、力になるよ。どんな些細なことでもね」

三人は揃って首を傾げる。
曰く、難しい話だね!だそう。
ふはは。素直な感想を、ありがとう!

今度は子どもたちの話を聞く。
将来はブリッツボールの選手になる!
可愛い服を着てみたい!
僕は白魔法を覚えたいなぁ!
それぞれに夢を馳せる子どもたち。
ビサイド島の未来は明るいな。

私の前に立ちはだかる大きな壁は、シンの討伐。
必ず成したい。子どもたちの未来のためにも。

景色を眺めながら子どもたちと話をしていたら、
なにやら寺院の方が騒がしい。
見に行こうぜ!と三人に連れられ寺院前に来た時。

ルールーさんに肩を抱かれ出てきた一人の女の子。
この子が召喚士か。随分若い。そして可愛い。
息も絶え絶えだけど表情は明るかった。

「ナナシ!ご覧の通り召喚士様は無事だったぜ!」
「ワッカさん!無事、でしたけど疲労感すごそうに見えますが?労わってあげてくださいよ!」
「お前はあいつの母ちゃんか?大丈夫大丈夫!」

わっはっはー!と笑って召喚士の後に続く。
そして額に角……折れた角?を持つ獣人がのしのしと目の前を通って行く。おお、獣人もいるのか。
さらに一拍置いて、ティーダが覚束無い足取りでやって来た。なんでティーダがフラフラしてんの。

召喚士が出てきたことで、村人たちも集まった。
ティーダはワッカさんに引っ張られて前へ。
私もそちらへ向かって様子を見ていると、どうやら召喚を行うようだった。お前もこっち来い!とワッカさんが手首を掴んで引き寄せてくる。強い強い。
召喚士である彼女が円の中心に立ち、杖を掲げてふわりと舞うように動くけば、地面から光が溢れる。

─すると。

赤い毛並みに、大きな二対の翼を携えた召喚獣が
空から彼女へ向かって降りてきた。

「綺麗……」

思わず呟いた言葉に、ティーダが頷く。
召喚士、と言うから召喚するための特別な台詞があると思ってたけどそれは特にはなく。あの舞いが召喚で、彼女の祈りなんだと一人納得した。

村人はみんなが皆、喜んでいる。
子どもたちでさえも。
これは村にとって良いこと。間違いなく。
でもなぜか。私には悲しい光景にも……見えた。

……なぜ、なんだろう?



***



あの後、召喚士の彼女へ接触できずルールーさんとも話せなかった。暇を持て余してしまうので、と滝を見に行こうとしたが村人から料理の手伝いを頼まれてしまった。断ることが出来る?否!断じて否!
調理師カンストガールが断るなどありえないのだ!

というわけで、腕によりをかけて料理していた。
気づけばもう夜。
彼女が召喚士になったお祝い、ということで村はお祭りのようだった。いかに喜ばしいことかわかる。

調理場から外へ出てひと息ついた。

「ナナシ、今大丈夫か?」
「うん、ひと通り作業は終えたから空いたよ」
「お疲れ様っス」
「なんのなんの!」

側にやって来たティーダ。
ティーダはワッカさんとブリッツのメンバーに挨拶をしてきたようで、良い笑顔を見せてくれた。
どうやらティーダは召喚士の彼女に話しかけたいらしく一緒に行かないか?とのお誘いを受けた。
よし、それなら行こうじゃないか!

彼女は年配の二人に囲まれている。
声をかけようとしたら「召喚士様に近づくでない」と一蹴されてしまった。まあ、そんな言葉で引く私ではない。……ティーダも私をわかり始めてるからか、小さい声で程々にな、と言ってきた。
私をなんだと思ってるのさ。誰が着火マン短気か!

「掟やぶりめ!」
「その掟が彼女を殺していたかもしれないのに?」
「冒険者風情が首を突っ込まないでもらいたい!」
「首は突っ込みますよ。人を、彼女を助けるためなら当然です。それが冒険者なので。黙って見てるだけの掟なんて、あって無いようなもんでしょう?」

我ながら煽りよる。
元気なご老人二人と火花バッチバチなバトルが始まりそうだったが、召喚士の彼女が立ち上がったことによってそれは収まった。

「ユウナ様!いかんぞ!」
「でも、元はと言えば私のせいですから」

穏やかで優しげな声色。
こちらへ近寄り、ティーダと私を交互に見る。

「ごめんなさい。改めて、私はユウナと申します。さっきはありがとうございました」
「助けに行ったこと?……オレは何もしてないよ」
「ううん、来てくれたことが嬉しかったから。あなたはあのワッカさんを説き伏せた、と聞きました。未熟な私のために、ありがとうございます!」
「いえいえ。こうして会えてよかったです」

柔らかい雰囲気。優しい微笑み。
なんだか癒されるオーラを放ってるなぁ。
私たちも名乗って軽く自己紹介した。

「二人も明日、島を出るんだよね?」
「えっ、そうなのティーダ?」
「いや……オレも今知ったんだけど」
「あれ?きみはビサイドオーラカの助っ人なんでしょう?大会のために明日出発するって聞いたよ?」
「マジっスか」
「あら、じゃあ私もついて行かなきゃだわ」
「えっと、ナナシさんたちは恋人……とか?」

恋人。
私たち、つまりもう一人はティーダ?

「旅の仲間だけど、そういう関係じゃないよ」
「そうなの?」
「そうなの。ふふふ!ユウナちゃん可愛いねぇ」
「かっ、可愛くは、ないです……!」

おやおや、ティーダくんってば一目惚れされた?
ユウナちゃんから甘酸っぱい空気を感じる!
ちらりとティーダを見ればばっちり目が合う。
おぉい!私を見るな。私じゃないだろうよ。

ちょっと先に離れようかな!

「おっとそうだったー、私は後片付けに行かなくちゃー!ユウナちゃん、お疲れ様!また明日ね!」
「え!?あ、はい!また明日!」
「おい、ナナシ!?なんだその棒台詞は!」
「ティーダもまた明日ね、今日はお疲れ様〜!」

ユウナちゃんとティーダに手を振りその場を離れた。ワッカさんにからかわれる未来まで見えるぞ。

その後言葉通り、お皿を片付けたり料理を下げたり、村のおばさまたちと和気あいあいと過ごした。
そんな折、今度はルールーさんが水場に現れた。

「ちょっと、ナナシ」
「なんでしょう?あ、おつまみいります?」
「お料理はもういいわ。ありがとう。……じゃなくて!あなたがあの少年を寄越したの?」
「……ああ、ルールーさんもガードでしたか」
「ええ。試練中と祈り子の間には召喚士とガード以外入ってはいけない。ワッカも言ってたでしょ」
「言われました。んで、言いたい放題言いました」
「あなたねぇ……!はぁ、ユウナを心配してくれたのは感謝するわ。でも、掟を破るのは頂けない」
「ルールーさんも掟厨ですか」
「掟ちゅう?」
「すみません無視で大丈夫です。救える命は、救いたい。それだけですよ!破ったのは私たちですし、怒られるならそれも甘んじて受けます!」
「覚悟は出来てる、と。わかったわ」

わかったわ?
な、なにをされるのか。
一歩引いて身構えたら大きいため息が耳に届く。

「なにも燃やしはしないわよ」
「凍らせようとは考えました?」
「感電でもいいわね」
「ひえっ!」
「……馬鹿ね、本当」

呆れられながら手渡されたのは弓と愛用の竪琴。
目を丸くさせながらルールーさんを見つめた。
何故、返してくれたんだろう。

「何故返してくれたのか、って顔ね。あなたがこの島の調理場に入ったのを見たからよ。島のみんながあなたを警戒していない。普通なら、水場に島外の人間を入れないわ。何か盛られたら困るもの」
「ごもっとも、です」
「私はまだ警戒してるけどね」
「ご、ごもっともです……!」

弓を壁に立てかけ、竪琴を棚に置かせてもらう。
もう少し洗い物をしたら寝る所を探さなきゃだ。
用は済んだと思っていたが、ルールーさんは踵を返さずそこに立ち、私を見つめている。
他に何か言いたいことがあるのかな?

話しかけようとする前に、再び話しかけられた。

「ねえ、ナナシ。竪琴で何か弾ける?」
「はい。静かな詩から明るい詩までなんなりと」
「弓の腕はどうかしら。どの距離まで射抜ける?」
「腕?良いか悪いかはさておき、ここから見える範囲だと寺院の一番上にある装飾まで……ですかね」
「戦闘に関しては問題無さそうね。あなたの探し人はあの少年?彼も冒険者だったりする?」
「はい。探してたのは彼でした。けど、彼は冒険者ではなくブリッツボールの選手ですよ」

これは一体なんの問答?
問答……というより、面接されてない?
気のせいかな??

「シンのことはどれくらい知ってるの?」
「そうですね……。スピラ中の脅威で恐怖の対象。
復活を阻止して完全に倒さなければならないモンスターである、ということくらいです。情報は集めている途中で、シンを倒すというのが私がこの世界へ来た理由わけでもあります」
「……スピラの人間じゃないあなたが、シンを倒す?正気?召喚士しか倒せない、あのシンを?」
「確かにこの世界の人間じゃないです。ですが、ある人に頼まれたんです。“出来るだけ多くを救って欲しい。”と。私はそれを叶えたいと思ってます」
「関わりがないのに?」
「何を言ってるんですか!もう関わりまくってますよ。この島へ辿り着く前に出会った人たち。そしてこの島の人たち。ルールーさん、あなたとも。こうして会話をして関わった。例え全てを救えなくても、出会った人たちだけは助けたい・と思うほどには……関わりが出来ちゃいました!」

頭に浮かんだのはリュックの姿。
あの船に乗っていたアルベドの皆さん。
ティーダにワッカさん。ビサイド村の人たち。
ユウナちゃんや、ルールーさん。

少しずつ、スピラでの交友関係が広がっていく。
傲慢かもしれないけど出会った人たちは救いたい。
シンに命を奪われて欲しくない。

なぜなら、私を受け入れてくれた人たちだから。

「そう……。ナナシは強いわね」
「いえいえ、こんにゃくメンタルです」
「ふふ、充分強いわよ。冒険者として旅をするあなたに、私からもお願いしたいことが出来た」
「お!なんでしょうか!」
「あなたをガードとして雇いたい」
「……はい??」

召喚士となったユウナちゃんは明日、彼女のガードであるルールーさん、ワッカさん、そして獣人の方と一緒にシンを倒すための旅に出るらしい。
世界各地の寺院を巡り、祈り子と対話し、召喚獣を得る。そして旅の最終目的は……シン。

今晩のお祭りのようなものは、別れのための催しでもあったみたいだ。そう言われると納得する。

それにしても、私を雇う?

「あなたは状況を冷静に見定められるでしょう?戦うことも出来る。それに、“多くを救いたい”と考えてるのよね。私たちの旅と利害は一致しているわ。
召喚士のガードの人数が多いと目立つけれど、ユウナを守れるなら構わない。だから私個人であなたを、ナナシを雇わせてもらいたいの」
「私を警戒してるのに雇うんですか。ユウナちゃんを後ろからズドンと射るかもしれませんよ?」
「ふふっ、狙う対象に“ちゃん”を付けて呼ぶの?
ナナシは私よりずっと警戒心が緩いじゃない」
「この短時間で私を把握してますね、すごいな」
「あなたが分かりやすいだけよ」

精神年齢は私の方がだいぶ上のはずなんだけど、
なんだかルールーさんには適わなさそうだなぁ。

小さく笑みを浮かべたルールーさんに対して、なんとも言えない苦笑いを零す私。
召喚士であるユウナちゃんと旅をする……か。
彼女と一緒に行動したらシンに遭遇する確率は高そうではある。最終的に戦うのも確実だろう。

ユウナちゃん、ルールーさん、ワッカさん、獣人の方。そして私とティーダを含めたら六人。
なるほど、理想のパーティ人数に近づいてる。
ルールーさんの申し出は願ってもないことだ。

「“雇う”から、“仲間”になったら嬉しいですね」
「それは今後のナナシ次第、かしら」
「くぅぅぅ、手厳しい!」
「それを承知の上で?」
「はい。喜んで引き受けさせていただきます!」
「……迷わないのね」
「それが冒険者ですから!」

今度は私が不敵に笑ってみせた。

「あ!でも……」
「でも?」
「物理的に迷う可能性がかなり高いので、時々後ろを確認してもらえると助かります!」
「つまり?」
「迷子になりやすいんです」
「……ふ、ふふっ。ふふふ!ええ、わかったわ。
好奇心旺盛じゃないと冒険者と呼べないものね。あなたの歩みを気にかけるよう、心に留めておくわ」
「かたじけないです」

ダンジョンも迷っちゃうタイプなのでね。
先導するのには向かないんです。申し訳ねぇ。

近くにあったタオルを取り、手を拭き直して右手をルールーさんへと差し出した。

「ルールーさん、よろしくお願いします!」
「こちらこそ。ナナシ、よろしくね」

ぐっ、と力を込めて握られる。
信頼と信用を得るために、私も頑張らねば。
ちなみに今夜の寝床はルールーさんの自宅になりそうです。警戒心を解く日が待ち遠しいなぁ……。

召喚士誕生に心を弾ませる村人たちの声を耳にしながら、真っ暗な空に瞬く星々を見上げた。
賑やかで……でも、少しの寂しさも感じてしまう。

こうして、ビサイド村での夜は更けていった。


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