05



気がついたら朝だった。

どこでもいつでも寝れる!
というタイプではないので数時間しか寝ていない。
寝たというか、目を閉じていた……というか。
若干体が重だるい感じるはあるが、まぁ、移動中に寝ればいいか。と思っている。

身支度を済ませ、ルールーさんと顔を合わせた。
挨拶すると「眠れなかったみたいね」そう一言。
……どうやらお見通しのようだ。
ルールーさんは今日もバッチリ決まって麗しい。
一緒に外へ出たらすぐにワッカさんと合流した。
私がガードとして雇われたと聞けば驚きつつも受け入れてくれる。ワッカさんは私の加入を嫌がるだろうな、と思ったけど……杞憂だった。

「ガードの役目については道すがら説明するわ」
「そうしてもらえるとありがたいです」
「気負うこたぁねぇよ!エボンの教えとユウナを守る。それさえ出来ればいいんだからな!」
「大雑把なワッカの意見は参考にしないで」
「細かいんだよ、ルーは!」

言い合う二人の水と油感がすごい。
なんでも言い合える関係だというのも窺えるが。
そういえば肝心のユウナちゃんはどこだろう?
周りを見渡しても本人はいない。
聞けば、寺院で最後の祈りをしているのだとか。

……最後。
帰って来れないのが前提になってるんだ。
俄然、フラグをへし折ってやりたくなる。
世界のために故郷へ帰れない。
そんなのってないでしょう。
自己犠牲の英雄。語られる分には美しく感じる。
だが私は、生き抜いてこその“英雄”だと思う。
自身の武器を故郷の地面に突き立てて「黒幕、ラスボスを倒してきたぞ!」そう完全勝利を高らかに宣言するくらい尊大であっていいとすら。そこへ至るまでの道程は苦難と試練の連続だっただろうから。

私はユウナちゃんを犠牲にしたくない。
今までの召喚士たちと同じ轍は踏まない。
踏ませてなるものか。
……とは言っても明確な阻止方法はまだ何一つ分からないので、旅をしながら全力で考える所存。
とりあえずエボンへ乗り込むのは必須だな。
ワッカさんとぶつかる未来も確定したわ。

村の人たちは先に船着場へ向かっているようで、
ここには私たち三人と祈りを捧げているユウナちゃん、未だに寝ているというティーダの五人だけ。
……いや。寺院の方からもう一人、気配がする。
恐らく獣人のあの方かな。
気配を探っていると眠たそうなティーダがやってきて、その後すぐにユウナちゃんも合流した。
獣人の方を除く全員で船着場へ向かう。

村を出て早々にモンスターとエンカウントしたが、ティーダに戦い方を指南する!とワッカさんが何やら張り切っていたので私は後方へ下がった。
そしてそのままユウナちゃんに話しかけてみる。

「ユウナちゃん、聞いてるかもしれないけど私もあなたのガードになりました。素性が怪しい冒険者な私ですが、旅の仲間になってもいいかな?」
「ご自分で素性が怪しい、って言っちゃうんですね!?……あの、私はナナシさんの冒険のお話を聞いてみたいし、一緒に旅をして頂けるなら大歓迎です。でも、いいんですか?本当は自由にスピラを旅したいんじゃないですか……?」
「そうだねぇ、旅の自由度的には一人が楽だよ。自分のペースで見て回れるから。だけどね、」

平和を脅かすシンの存在、それを倒そうとしている召喚士たち。そしてこの世界を生きる人々。
それらを目の当たりにした。
私なんかに何が出来るか分からない。
でも、何もしないわけにはいかない。

“世界”を救うことは出来ないかもしれない。
それなら、手の届く範囲の人たちは。
シンを倒そうと旅を始める“ユウナちゃん”を近くで守ることなら、私にも出来ると思うから。

「ユウナちゃんが背負うめちゃくちゃ重たい使命も、みんなで分け合えば軽くなるはず。微力ながら私にもそれを手伝わせてほしい。ビサイド島へ戻ってこれるよう。これが最後にならないよう。私は私のやり方でユウナちゃんのガードを務めさせてもらいたいんだ。……色々と問題起こすかも、だけど!」

ユウナちゃんに向けて笑みを見せる。
少し顔を赤らめてユウナちゃんも笑ってくれた。

「優しいんですね」
「楽観的とも言えるけどね」
「ふふ、ナナシさん。ありがとうございます」
「いえいえ。そうだ、慣れてきたら敬称外してもらえると嬉しいな。少しずつでいいからさ」
「はい。改めて……よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくね、ユウナちゃん」

片手を差し出せば、両手で握ってくれる。
本当にいい子だ。
今、私の背景に煽り文句をつけるとすれば、
守りたい、この笑顔─!!これ一択だろう。

「まぁた人たらし発揮してんの?ナナシ!」
「ティーダくん、言い方に気をつけなァ!」

人たらし!?
全くもって心外ですよ。
ユウナちゃんを間に挟んで話をしながら進み、島を出る時は祈りを捧げる……という石像に向かって頭を下げた。エボンの祈り、便利な祈りだ。
そこから離れ、森の中を歩く。

綺麗な森の中でたまに見かける壊れた機械。
この森の雰囲気に合わないそれらには苔が生え、蔦が絡み、もう動かないことを体現している。
通り道となった大きな機械の下を行こうとした時。
獣人の方の気配が強くなったと思えば頭上から突然目の前に現れ、拳を地面に叩きつけ威嚇された。
そして一度大きな咆哮を上げて槍を構えると私とティーダにそれを向けてくる。

私たちを試しているんだろうな。
戸惑うティーダに声をかけ剣を構えてもらう。
竪琴を鳴らし、バフを付与。
剣を振るうティーダの後に襲い来る槍の尖端へ向け、渾身の力で矢を放った。私たちの実力が知りたいなら……遠慮はいらないよね?

鈍い金属音と共に、獣人の方の槍は建物の柱へ突き刺さった。強襲には強襲で返させてもらおう。
驚くその人に向かって刃を振り下ろすティーダ。
…しかしそこは経験の差か、読みやすい軌道だったからか簡単に避けられた。とって返す刃にも対応するあたり、この人は相当な手練だ。
虎の威を借る、ではないがティーダの背後に立つ私への警戒が強いのもヒシヒシと感じる。

手合わせ……、いや、実力を量る強襲はワッカさんの一言で終わった。やはり彼もユウナちゃんのガードとのこと。名前はキマリ=ロンゾ。
ロンゾ族の青年、らしい。
スピラでは獣人族をロンゾと呼ぶのだろう。
ルールーさんやワッカさん、幼少期から一緒だと言うユウナちゃんも彼のことをよく知らないと言っている……。そんな人がガードで大丈夫なのか。
彼は彼で何か事情がありそうだ。

浜辺へ辿り着くと村の子ども達が集まってきた。
ユウナちゃんの側を走り回り、手を取り、話しかけている。昨日私に話しかけてくれた三人組もユウナちゃんの傍にいた。船着場には大人から老人まで村人みんなが見送りに来ている。

泣いて見送る人。
エボンの祈りを捧げる人。
ただ黙って手を振る人。

希望の別れではない。
悲しみを背負っての旅立ち。
それらが手に取る様にわかってしまう。

「……ナナシ?」

ティーダが最後尾にいた私へ振り返る。
きみまで不安そうな顔をしないでほしい。
竪琴を取り出して、ポロン、と弾く。

私がうたうのは、希望の詩。
絶望を切り裂き、前を向くための音。
そこに悲しい旋律はひとつとしてない。

弦を弾きながら船へ。
ガードのみんなも、村のみんなも。
私の詩に耳を傾けてくれている。

「行こう、ユウナちゃん。これは暗く悲しい旅じゃない。そんなもののために旅をするんじゃない。あなたも、私も、みんなも。平和な世界を得るため、明るく希望に満ちた未来を勝ち取るための旅でしょう。下を向いてお別れ?しみったれた空気で送り出すつもり?彼女はこの島の、この世界の!英雄になる人だ!!顔を上げろ、声を挙げろ!他でもないあなたたちが!彼女の背を押して送り出すんだよ!」

え?半分キレてる?
そんなことない!……こともない!
涙の別れより大事なものってあるじゃない。
何よりそんな光景を目にして島を後にするこちらの気持ちも考えて。掟だなんだと言う前に、ね。

「ユウナさま!行ってらっしゃい!!」
「たくさんお土産、待ってるね!」
「ナナシちゃん!ユウナさまをよろしくね!」

一番に声を挙げたのは、子ども三人組。
やはり彼らはこの島の宝だ。

「もっちろん!任せて!シンをぶっ倒してお土産いーっぱい抱えて、帰ってくるよ!」

大きく手を振れば、振り返してくれる。
子どもたちの言葉を皮切りに、大人たちも大きな声で背中を押すような言葉をかけ始めた。

うんうん、見送りはこうじゃなくちゃ。

「……ははは!ナナシ、すっげぇな!」
「ふふふー!湿っぽいのは嫌いでね!」
「無茶苦茶ね、あなた」
「でもアレだな!元気を貰えるな!」
「ナナシさん……ありがとうございます!」

笑って見せれば笑顔を返してくれるユウナちゃん。
ん"んっ!守りたい、この笑顔!!リターンズ!

私たちは一歩引いて。
ユウナちゃんが手すりに近寄る。

「さようならは、違うよね。行ってきます!!」

船は波を掻き分け、雄大な海を進み始めた。
ユウナちゃんの言葉に「行ってらっしゃい!」
「気をつけて!」「この島で待ってるよ!」
そんな声がたくさん飛んでくる。
絶望の旅路でも、言葉一つで希望に変わる。
……変わってほしい。変えてみせる。
言葉は魂を宿す。だからこそ。

エボンの祈りではなく。
手を振り、笑顔を見せて別れてほしかった。

「ナナシの竪琴、何か特別な力があるのか?」
「なーんにもないよ。触ってみる?」
「ほんとだ。普通の楽器かぁ」
「私は冒険者であり“吟遊詩人”だからね」
「その吟遊詩人……ってなんなんだ?」

在り方を尋ねてるのかな?
よぉし、私が学んだことをお教えしよう。

吟遊詩人。
かつて弓を手に戦う者を指してそう呼んでいた。
古い時代の弓兵は戦場にて弦を弾き、詩歌を吟じたと伝えられている。戦に臨む恐怖を紛らわすため、華々しい勝利を祝うため、そして、戦場に散った戦友を弔うため……。命せめぎあう戦場で歌われる弓兵の詩歌は、いつからか、仲間の魂を震わせる力を宿すようになり、時として戦の趨勢を左右するほどであった。

うん、大筋は原文ママ!
つまりどういうこと?という表情をしているティーダとワッカさんの為に簡潔にお伝えしよう。

「つまり吟遊詩人ってのは、バトルで優位になるためのムードメーカー的な役割ってわけさ!」
「おー!ムードメーカー!」
「ムードブレイカーではなく?」
「ワッカさん、私はあなたの武器のブリッツボールをぶち抜くことも出来るのでお気をつけて」
「こっっっわ」

近づかんとこー!
と言いながらブリッツボールのメンバーの元へ走っていく。ティーダくん、引くんじゃない。

この船、連絡船「リキ号」はキーリカ島を経由してスピラの本土とも呼べる大陸を目指す。
本土最南端に位置する最初の街が“ルカ”。

ルカ。
耳にしたことがある。
……そうだ、リュックが言っていた。
『ブリッツボールの選手だったなら、ルカへ行くといいかも!大きな大会はそこでやってるし。きっときみの知ってる人もいるかもしれないよ!』
なるほど、なるほど。そういうことか。

召喚士一行が目指すのもルカ。
リュックが連れて行こうとしてくれてたのもルカ。
それほど大きく人口密度も高い所、なんだろう。

すでに小さく霞んでしまうほど離れたビサイド島。
目を細めて眺めた。
その間も船は先へ先へと進んで行く。

使命を背負って。
希望を、乗せて。


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