08



船を降りた後、港から集落まで見て回る。
大惨事ではないが大なり小なり被害が出ていた。
砂浜の近くにいた島民何名かが波にさらわれ、未だ帰ってきていないことも聞いた。
歩きながら、奥歯を強く噛み締める。

私の認識が甘かった。
蛮神を倒しているから、と、慢心していた。
自然災害は人を殺す。いとも容易く。
その場を凌げても被害が出ていては意味が無い。
……私は一体“なに”を“救う”つもりなの。

足を止め、俯く。

「ナナシ!」

私を呼び、こちらへ駆けてくるティーダ。
海の上に造られた木の桟橋。歩くたびにギシギシと危なげない音が寄せては返す波と共に響いた。

顔を、上げられない。

「津波に流されて行方が分かんなかった人の何人かが、浜辺へ帰ってきたらしいっス!」
「……え?」
「えっとその、生きては……いない、けど」
「……そっか」

拳を握る。
震えを抑えるように。

「埋葬、するのかな」
「なんか……彼女が儀式を行うんだってさ」
「彼女?儀式?」
「オレもよくわかんないっス」

この世界のことがわかんない者同士、詳しい説明は二人で一緒に聞こう!なっ!!

ティーダのその言葉でようやく顔を上げた。

「……そうだね、案内頼める?」
「もちろん!」

空は茜色に染まり、陽が落ち始める。
浜辺へ着くとユウナちゃんが島の長らしき人と話を交わし、終えるとそのまま海へ入って行く。
海に足を浸けることなく……海面上を歩いている。
途中で止まった箇所の下には、亡骸が入っているであろう袋が海中を漂っていた。袋を縛る紐には色とりどりの花をつたわせている。
こちらの世界では火葬や埋葬ではなく海葬で故人を送るのがしきたりなのかもしれない。

ユウナちゃんが静かに杖を振り……舞った。

舞いを見てハッとする。
召喚獣を喚ぶための舞いとよく似ていたから。
そうか。だからビサイド島で召喚の舞いを目にしたとき、なんだか悲しい光景に見えたんだ。

彼女が舞うたび波が大きく揺れ、海の中から虹色に輝く光の珠がふわりふわりと現れる。
あの光。見覚えがあるような、ないような。
ティーダと二人、ルールーさんの元へ向かう。
私たちを一瞥すると問う前に話してくれた。

死者は迷う。
死んでしまったのが悲しすぎて自分の死を認めようとしない。もっと生きていたい、と願いながらまだ生きている人間を羨む。
死者は生きている人間が羨ましい。
その気持ちはやがて妬みや憎しみに変わる。
そういう死者の心がスピラに留まると、命を憎む魔物となって人を襲う。

「そんなの悲しいでしょう?だから“異界送り”をして迷える死者を眠らせてあげるのよ」
「異界送り……」

召喚士はそのような役割も担っているのか。

シンを倒す。
召喚獣を得る。
怪我を癒す。
故人を眠らせる。

……さすがに背負わせ過ぎじゃないかな。
私も白魔法の初歩は心得ている。
回復ケアル弱体効果解除エスナぐらいなら出来るつもりだ。
弓だけではなく白魔法のサポートもしようと決意。
ユウナちゃんの魔力も精神力も枯渇しちゃう。
それは絶対に避けねば。
そのための私であり……ガードなんじゃないかな。

「召喚士って大変っスね」

ユウナちゃんを見つめながらティーダが呟く。
彼も彼女の役目に思うところがあったらしい。
するとすぐルールーさんの言葉が返ってくる。

「ユウナはそれを選んだの。なにもかも覚悟の上のこと。私たちに出来るのは見守ることだけよ。
──最後の時まで、ね」

最後の時。
引っ掛かりを感じた私がルールーさんを見つめれば緩やかに首を振られた。……みなまで言わすなと。
どうしても聞きたいティーダが果敢にも尋ねる。

「……シンを倒す時まで、よ」

うーん、実にオブラート。
その通りの意味だけど、そうじゃない。
さすがのティーダも苦虫を噛み潰していた。

異界送りを終えたユウナちゃん。
ルールーさんの元へ駆け寄ってくる。
瞳に涙を浮かべながら。

「私、うまくできたかな?」
「初めてにしては上出来。きっと異界へ行けたわ。
でも次は泣かないようにね?」

ユウナちゃんの頭を慈しむように撫でるルールーさん。二人が姉妹のように見える光景だ。

……次、か。
次なんて、

「次なんてなければいい」

ティーダが小さく呟いた。
見つめる先はうら若き召喚士と麗しき黒魔道士。
二人を見つめる島民と、ガードの私たち。
島の人たちだけではなくスピラに住む人たちの総意だと思う。こんな悲しい光景は見たくない。と。

一度目を閉じてから竪琴を手にする。
彼女の心が、島民のみんなが、穏やかに夜を越せるように。気持ちまで沈んで行かないように。



***



夜がふける前に瓦礫を片付け桟橋の補修も行った。
ワッカさん曰くビサイドオーラカのメンバーが尽力してくれたとのこと。試合を控えている選手たち。
躊躇う素振りもなく動いてくれたらしい。
試合前だと言うのに、頭が下がる。

宿屋には選手たちが泊まり、召喚士一行は島にある空き家をお借りすることが出来た。
今夜はキマリさんが外で監視してくれるらしい。
私も不寝番すると名乗り出たかったけど、お言葉に甘えさせて貰った。正直めちゃくちゃ眠い。
昨日も眠れていないからか脳が睡眠を求めている。
壁に寄りかかり目を閉じた。

「そういやナナシ、疑問に思ったんだけどよ!」
「おやすみなさい!!」
「一個だけ!一個だけ聞かしてくれ!」
「止めなさいワッカ、この子昨夜も寝てないのよ」
「!ルールーさん……」
「寝不足が祟って、戦闘中に手元が狂いあなたが後ろから射られてしまう可能性を考えなさい」
「こっっっわ!」

……ルールーさんにときめきかけたのに!
射ませんよ!さすがに!!たぶん!……おそらく!
瞼を押し上げジト目でルールーさんを見れば、彼女は何処吹く風で視線は合わなかった。ちくしょう。
ティーダ、早々に寝るんじゃない。ずるいぞ。

一個だけですからね!とワッカさんに質問を促す。

「ナナシは戦闘中に色んな技を使ってたよな。MPが相当減ってるはずなのに今はもう完全に回復してるだろ?エーテルを使ってたわけでもないし……一体どうなってんだ?」
「あー、そうですね。少し複雑なんですが簡単に説明すると時間が経てば自動的に回復するんです」
「自動的に回復!?」
「はい。まぁそういう体質だと思ってください」

連戦や強敵との戦闘中は枯渇しそうになるけど。
私は高度な魔法を連発するわけじゃないから、その心配はほとんど無いに等しい。
この手の質問をしてきたってことは、ここでは回復薬を使用するか、休憩をとらないとMPが回復出来ないわけだ。そりゃ特異に見えても仕方がない。

エーテルやマナについてはそんなに詳しくないので説明が難しい。そして何より、とてつもなく眠い。
押し上げた瞼が再び降りてくる。

─エオルゼア、スピラ、私が元いた世界。
フードの少年、彼が救いたい人。
海の遺跡、リュック、アルベド族、エボン。
召喚士、ユウナちゃん。ガードの仲間。
ティーダ、……シン。

瞼の裏に浮かんでは消えていく。
守りたい人。守りたいもの。
倒さなければならない強大な敵。
歩みは止めても思考は止めちゃいけない。

私は─冒険者。
旅を続けて、この世界を知るんだ。

遠くに聞こえる穏やかな波の音。
誘われるように、ゆっくりと意識が沈んでいった。


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