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シンのコケラ。
それはシンの体から剥がれて置き去りにされた魔物のことを指す。倒さないとシンが戻ってくる。

戦闘後、ルールーさんとワッカさんがコケラについて説明してくれた。シンが意図して飛ばしてきたわけでも、使役してるわけでもない・と。
そもそも倒さないとシンが戻ってくるって何?
回収に来るの?どういう生態なんだ。
疑問が疑問を生んでしまった。

長い階段もついに、ようやく終わる。
頂上にはとても立派な寺院が建っていた。
屋根にある複数の突起から炎が吹き出ている。
もしかして、炎系の召喚獣かな。
すぐに思い浮かぶのはイフリート。
さらに浮かんだのは蛮神戦。エオルゼアで一番最初に戦う蛮神だからこそ強く記憶に残っている。

寺院へ足を向けると紫色のユニフォームを纏う屈強な体つきの三人組が中から出て来た。道を塞ぐように立つ彼らの前に、ワッカさんが歩み出る。

「お前らも必勝祈願か?」
「我らルカ・ゴワーズは常勝だ。祈願は必要ない」

おおっと、随分喧嘩腰で強気な人たちだ。
会話から察するに相性は全く良くない。
だが意外にも、ワッカさんは相手がこちらを見下す態度に腹を立ててはいなかった。決勝で会おうぜ!とまで言ってのけている。意外にも。
ビサイド・オーラカは、心がおおらかなわけだ。
オーラカなだけに。……うん。滑った感が否めない。

ワッカさんの代わりと言ってはなんだけど。
ティーダが声を挙げた。
「あいつらにだけは勝つぞ。」
その言葉を拾ったのはユウナちゃん。
二人の会話を背に寺院へと踏み入れた。

試練の間を越え、祈り子の間へ辿り着く。
試練も炎で溢れていた。
やはりここの召喚獣はイフリートで確定だろう。
ガードではないティーダも、後から追いついた。
ルールーさんとワッカさんから諌められているけど入っちゃったものは仕方がない。ティーダが掟を破ったからといって、この世界で最も重要な召喚士であるユウナちゃんを寺院立入り禁止に罰する……
なんて、エボンに出来るわけがないと思う。
自分らが倒せないから召喚士に頼っているわけで。
召喚士がシンの討伐へ向かわないことこそを非だと言いそうだもんな。うん、言いそう。

「ルールーさん。改めて尋ねたいんですけど、祈り子とはどんな存在なんですか?」
「……祈り子様はね、シンを倒すために進んで命を捧げた人たちよ。エボンのわざで生きながらにして魂を肉体から取り出されて、祈り子像に封じられて永遠の時を生きる。祈り子様の魂は召喚士の祈りに招かれて姿を現す。……それが、召喚獣よ」
「つまり、元は人の魂……?」
「そういうこと」

頭に過ぎる、青紫色のフードを被った少年。
彼はマザークリスタルに祈り子と呼ばれていた。
つまり、あの少年もどこかの寺院に存在していて、シンを倒すために命を捧げた人ってこと?
そして召喚士に喚ばれ、召喚獣として戦う……。

『夢を見ることに疲れたんだ。眠りにつきたい』

彼はそう言っていた。
夢を見る……、召喚獣として戦うことに疲れた?
だから眠りにつきたい。

「祈り子を解き放つことって出来るんですか」

私が零した言葉を……誰も拾ってはくれない。
ははーん、こういう考えを持つことも掟破り、と。
誰かの祈りと願いが蛮神を降ろす。
その“誰か”が、ここでは召喚士なわけね。

祈り子の間からユウナちゃんが出てくる。
フラフラの彼女をルールーさんたちが受け止めた。
その光景を見ているとティーダの様子が変わった。

「どうしたの?」
「……オレ、……ううん。なんでもないっス」

何かを考えている。
眉根を寄せ、溢れる感情を抑えるように口を結ぶ。
……無理に問いただすのはやめておこう。

幻術士の装備に着替えて杖を振った。
ユウナちゃんの回復と、ティーダへの回復。

「オレはどこも怪我してない……けど?」
「知ってるよ」

とんとん、と私は自分の胸を指す。
次いでティーダに指を向けた。

ニッと笑って見せれば、何度か瞬く。

「心が寂しくならないように、回復!」
「さっ、寂しくなんて!なってない……っス!」
「ははは!そう?そっか、それならいいんだ」
「……ナナシ、なんも聞かないんだな」
「聞いても話さないでしょ?じゃあ聞かない!」
「変なの」
「大人のオンナですから」

ええ?大人のオンナァ!?誰がぁ?
ワッカさんから不満を滲ませた言葉が飛んでくる。
はい?ここにいますけど??見えませんか???
土属性魔法攻撃ストーンをご希望かしら?
杖の動きに反応したワッカさんはキマリさんの後ろへ逃げ隠れた。ルールーさんはそのやり取りを見て肩を竦め、ユウナちゃんはふふふと笑う。

緩んだ空気に口角を上げて、もう一度杖を振った。

「試練とお祈り、お疲れ様!ユウナちゃん!」



***



村へ戻ると新たな連絡船が着いていた。
召喚士一行にビサイドオーラカのメンバー。通常の乗客、討伐隊、もう一組召喚士が乗るらしい。
ティーダはその召喚士のガードに担がれて、試練の間へ続く乗り物に乗せられたと言っている。
寺院への立入り禁止の処罰を目論んだ……とか?
ルカ・ゴワーズにしろ他の召喚士にしろ、どんな世界にだって嫌な感じの人間っているもんだね。

すぐにでも出航出来るとのことで全員で乗り込む。
ビサイド島から出発した時より乗船客が多い。
どの部屋も、通路にも、あちこちに人がいた。

ユウナちゃんは甲板へ。キマリさんは護衛。
ルールーさん、ワッカさんは見張りとして上部へ。
ティーダは……体力回復かな?目を閉じて床に座っている。起こすのもあれだし、そっとしておこう。
討伐隊の部屋の近くにやたら大きな荷物を背負った男性が、悲壮な空気を纏わせ立っているのを発見。

「どうしたんですか?」
「ん?ああ、オレは23代目オオアカ屋を営んでいる者なんだ!が、なかなか軌道に乗らなくてなぁ」
「オオアカ屋?道具屋さんですか」
「そうさ!お嬢さんは召喚士一行のガードだろう?どうだ、必要な物はないか?」
「安くしてくれます?」
「そこは……まぁ、うん、いい値で考えよう!」
「目ぇ泳いでますが」

巻き上げる、搾り取る気満々だわコレ。
武器も防具も当分大丈夫なので、食材を見せてもらった。なんだよ食材かよ、と包み隠さず言葉に出すあたり、ちょっと好感が持てる。正直でよろしい。
お肉と野菜、香辛料を複数購入。
割りと新鮮で品揃えも良く、驚いてしまった。
オオアカ屋さん、頑張ってくださいね。
食材を増やしてもらえるともっと嬉しいです!

お肉が手に入ったことでだいぶ気分がアガった。
お肉に野菜に香辛料。お米はないけど小麦はある。
よし、ルカへ着く前に応援飯を作ろう!

外へ出て人の少ない船首付近に向かう。
鍋を準備して肉と野菜を切る。それらを鍋へ入れて蒸留水も加えた。香辛料も忘れずに!
煮込んでる間に小麦でパンを作る。

黙々と作業をしていたら船尾側から声が聞こえる。
どうやらルカ・ゴワーズの皆さんとティーダが……いや、ユウナちゃんも一緒に何か言い合っていた。
ゴワーズの方々が立ち去ると彼女が発する。

キミのザナルカンドはきっとどこかにあると思う。

……うんうん、そうだよね。
ティーダのザナルカンドはきっとある。
私も諸手を挙げての同意見です!
ほっこりしていると、今度は上部にいる大人の二人が言い合いを始める。や、止めてください……。
風下の私には聞こえてしまいますよ……!

ユウナちゃんがティーダをガードにしたがってる。
とな。ほうほう!それはいい。私も賛成だ。しかしよく聞けば理由は“ジェクト様の息子だから”。
ジェクト様、ジェクト様……?誰だろう。
チラッとパン種に目をやる。おお、膨らんできた。
気になる単語は数あれど。今はパンをこねるのだ!

さらに黙々と作業を続ける。
すると突然風を切る音が耳に届く。
顔を上げればティーダが甲板に立っていた。
ボールを蹴り、高くジャンプして体を捻ると勢いよく回転し始める。回転速度を保ったまま、ボールを強く強く蹴り飛ばした。目にも止まらぬスピードで蹴られたボールは、暗闇が覆う海上の遥か彼方へ。

「なーにが特別だってんだ!」

ぐっ、と拳を握るティーダ。
拍手して称賛すると驚いたようにこちらを向く。
おや?私に気づいてなかったのか。

「……今の、見てた?」
「見てた!跳躍力すごいね!ボールも吹っ飛んでったし!もしかして今のがブリッツボールの技?」
「あー、ええと」
「かっこよかったよ!」
「……ん、んんんーーー!……複雑っス……!」

なんで素直に喜べないのか。
本当にカッコよかったぞ!
私へ近づこうとした所で、ワッカさんを含めたオーラカメンバーがドッと押し寄せてきた。
今の技を見てみんな興奮しているらしい。
わかるわかる、すごかったもん!

ユウナちゃんもやって来てワイワイ盛り上がる。
試合前日に士気が高まったんじゃないのかな。
ティーダがチームのエースだったというのが目に見えてわかった。というか、体現してくれた。

「ナナシ」
「はい!どうしました、ルールーさん?」
「あなた先ほどから何をしているの?」
「カレーパンを作ってます」
「……かれーパン?」
「ご存知ないです?では楽しみにしてください!」
「かれぇパンってなんだ!食い物か!」

匂いにつられたワッカさんもやって来る。
オーラカのメンバーも。
そう、私が作っていたのはカレーパン。
ルーはちょっぴり辛め。包むパンは優しい甘さに。
カリカリの衣がパンを覆って食感も楽しい。
揚げたてが一番美味しいけど、揚げたてだから一番熱い。そりゃもう口内大火傷するレベルで。
一口サイズだから余計に食べづらいかもしれない。

熱いですからね!と強めに伝え、カレーパンを紙に挟んで手渡した。ワッカさんの後ろに並んで貰いに来るオーラカメンバー。うむ、好感度高いぞ!
全員に行き渡ったのを見届ければ、任務完了。
ルールーさんは「揚げ物よね……」と言いながらも口にしてくれた。女性へは申し訳ないが。
今夜だけなので!罪悪感は今夜だけ……ッ!

「明日の試合、頑張ってくださいね!」
「「「おー!!!」」」

あちぃ!あっつい!うんまい!!
そんな声と悶える様を見つめながら、笑う。

スピラの召喚士。
祈り子から成る召喚獣。
それらを喚び、シンを倒す。
シンは召喚士しか倒せない。
倒したとしてもまた復活するのは何故なのか。
そもそもシン、とは一体なんなのか。
分からないことの方が未だに多い。

海を見つめて息を吐く。
旅はまだ、始まったばかりだ。


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