潮風薫る、そこは海の街。
スピラへ来て初めて目の当たりにする大都市。
港はとても大きく停泊する船も大小様々だ。
海から確認できるだけでも人の往来は多く、活気が良いことが伺えた。港町ならではだろうか。
「うおー!わくわくしてきた!」
「飾り付けもすごいね!ティーダあっち見てみ!」
「どこっスか!?おおおーっ!!」
だいぶテンションが上がっている私と青年。
お上りさんみたい。……あながち間違いではない。
ワッカさんも同様にウキウキしてるだろうと思い、振り返ってみれば彼はそうではなかった。
胸に手を宛てて深呼吸をしている。
次いで祈りを捧げた。
そんなワッカさんを静かに見つめるルールーさん。
首を傾げそうになったが、思い当たる節が。
「緊張してるんですね、ワッカさん」
「まぁな。オレらしくねぇと思うか?」
「いえ、チームのキャプテンは大変だな……と!」
「大変だぞ!緊張と不安と震えと寒気と動悸が」
「それは風邪ですね!」
「はははっ!あれだ、武者震いってやつだよ」
よォし、
竪琴を取り出し弦を弾く。
ビサイドオーラカの背を押せるような詩を。
弾き終えると乱雑に手を叩く音が聞こえた。
そちらを見やれば紫色のユニフォーム。
「弱小チームは音楽家を雇ったのか?そんなものより腕の良い選手を集めるべきだと思うけどなぁ?ああ、毎年初戦敗退のチームに入りたい選手なんているわけがなかったか!こりゃ失礼した!」
彼らを中心に、ドッと笑いが起こる。
へぇ。オーラカは毎回初戦敗退してるのか。
それでも毎年試合に参加するのはブリッツボールが本当に好きだから、なんだろうなぁ。
いいね、好きなことがあるって素敵なことだ。
しかし……。この紫色のユニフォームの人たちにはあまり良い印象がない。キーリカの寺院でも何やらワッカさんたちに突っかかっていたし。
「音楽家……ねぇ」
「……ナナシ、腐ってても相手は選手っスよ」
「え?なに?私があの人たちを射るとでも??」
「目が据わってんだってば」
「うふふ!やだー!そんなことないよぉ!」
「大丈夫、ぜってぇオレがぶっ潰すから!」
「ティーダもなかなか過激じゃん!?」
スポーツマンシップに反しないよう気をつけて。
もちろんっス!そこは正々堂々と!
オーラカ期待の新人にやる気が漲ったようだ。
拳を突き出してみれば笑みを浮かべてゴツンと強めにぶつけてくる。互いに顔を見合わせ、笑った。
ウイノ号が港へ着岸すると、ちょうどチームの紹介を始めるところだったらしく街の人や各チームのファンが集まってきた。聞き耳を立て声援が多いのはどこかと思えば誠に遺憾ながら。
『我らがルカ・ゴワーズ!!』
チーム紹介にも明らかに力が入っていた。
方や万年最下位のオーラカへは嘲笑を含む紹介で。
なるほどなるほど、これはとても良くない。
折角オーラカメンバーの士気が高まっているのに、
水を差すようなアナウンスはよろしくないよ。
腕を組んでゴワーズが降りてくるのを見つめる。
ふと目線を逸らすと、何故か木箱の上に拡声器が。
怒りを抑えているティーダへ手渡した。
「チョーシ乗んなよゴワーズ!お前らがデカいツラしてられんのも今のうちだからな!今年の優勝はオレたち、ビサイド・オーラカがいただく!!」
「そうだぁ!今年のオーラカは一味違うぞォ!!」
「おうとも!なぜなら!」
「この!超大型新人でエースの男がいるからね!」
「「首洗って待っとけ!!」」
積まれた木箱に二人で乗り、声高らかに叫ぶ。
それすらも見下すようにゴワーズは笑っている。
もう一言、二言。三言ほど叫ぼうとしたら背後から冷気を感じた。振り返れば、呆れ顔で腕を組むルールーさん。ポカンとした表情のワッカさん。
そして笑いを堪えているユウナちゃんの姿が。
キマリさんに至っては首を振り目すら閉じている。
私がドン!と木箱を踏みつけた、その瞬間。
「ブリザラ!!」
「「ぎゃー!!!」」
余計なことをする前に氷漬けにされました。
反省はしますけど!後悔は!してないよ!!
チーム紹介が終わり、ざわつきも収まった頃。
見知らぬ誰かの一言で人の波がそちらへ動く。
マイカ総老師という方が到着された、と。
皆が皆駆けて行くから相当有名な人だろう。
ティーダがルールーさんへ尋ねてみれば案の定、
“エボンの民の頂点に立つお方”……とのことだった。
なるほど、怪しい組織のボスか。把握。
こうも早くご尊顔を拝見できるとはね。
今後のため、脳裏に刻みつけておかなければ。
3番ポートへ向かうと大きな帆船が停泊していた。
総老師を一目見るために集まった人の多いこと!
詳しく聞けば、50年も総老師の職に就いているらしい。ティーダが放った言葉、私だけは頷ける。
そろそろ引退した方がいい。この世界の為に。
“エボンの民の頂点”が50年も変わらないなんて。
……だいぶ異常でしょ。
音楽隊の演奏で船から青色で特徴的な髪型の男性が一人、降りてきた。あの方がマイカ総老師?
思っていたより随分若く見える。
なんだろう、こちらの世界の賢人……とかかな。
姿形が変わらない種族、というのもありえる。
どうやらこの人はマイカ総老師じゃないようだ。
周りの人たちがザワついている。
グアド族、という言葉も耳に入ってきた。
青髪の方が船へ向き直りエボンの祈りを捧げる。
すると高齢の男性が姿を表した。高貴そうな服。
纏う雰囲気。港にいる全員が彼の人に祈りを捧ぐ。
こちらが総老師……か。
自身の気配を抑え、静かに後方へ下がって総老師を見つめる。巨大で強大な力を持つ組織、エボン。
スピラに住む、ほぼ全ての人の心を掌握し召喚士へ召喚獣を授けるために寺院を運営している。
─召喚獣、それは人の魂。その行為を認めている。
シンを倒すという大義名分を使って。
この世界はエボンが中心・と断言していいだろう。
もはや全てを得ている。これ以上、何を望む?
そもそも。
本当にシンを倒そうとしているの?
俯瞰出来てない、と首を振る。
だってあまりにも真っ黒なんだ。聞けば聞くほど。
知れば知るほどに。元凶ですらあると考える。
シンを生み出したのでさえ、彼らではないか?と。
……ダメだな。冒険者と名乗るなら物事は広い視野で、片方だけではなく全体を見るべきだ。
目を閉じて眉間に寄った皺を伸ばすように触れる。
総老師のご高説と青髪の方の紹介が終わった。
エボンの方々はスタジアムへ向かうらしい。
この場にいる人たちもそちらへ移動を始める。
……突然、ビリッ、と身を刺すような視線を感じた。
反射的に弓へ触れる。一瞬の敵視。明らかな敵意。
周囲を探してみるが見つからない。
ふとユウナちゃんを見れば体を強ばらせていた。
彼女の視線の先は……青髪の、人。
シーモア・グアド。
若くして老師の位に就いた人。
そしてグアド族と呼ばれる種族の長でもある人。
「ユウナちゃん」
思わず手を掴んでしまった。
あの視線から庇うように。
肩を跳ねさせ驚いた彼女へ笑いかける。
「試合楽しみだね!気合い入れて応援しよう!」
「ナナシは余計な茶々を入れないように」
「……氷漬けにされますからね!」
「次は燃やすわ」
「応援だけに徹します!」
「よろしい」
「ふふふ、私も大きい声で応援しますね!」
「いいねー!よっしゃ演奏は任せて!!」
「ナナシ、目立つ行為はやめなさい」
「ういっす」
召喚士一行もスタジアムへ。
作戦会議だ!と気合い充分なワッカさん。
キャプテンがビビってなければ大丈夫なはず!
「ナナシ、」
「うん?どうしたのティーダ?」
「えーと、その。大丈夫っスかね」
「??なにが?」
「……ユウナ、さ、」
「あー、うん。見られてたよね。シーモア様に」
「シーモア様」
「お偉い方には敬称つけといて間違いはない!」
「ふーん?……なんとなくだけど気をつけといて」
「何から気をつければいい?」
「あの辺の関係者とか」
顎で差すのは総老師たちが乗ってきた船。
なるほど、エボン関係に気をつけろと。
「ティーダもよく見てるよね。思いのほか」
「思いのほか、は余計だっての!!」
ところで!ついにスフィアプールでのブリッツボール観戦だな!きっとナナシ、驚くぞ!!試合、楽しみにしてろよ!あと応援よろしくな!!
笑顔を見せるティーダに私も笑みを浮かべた。
ティーダの活躍、楽しみにしてるよ。
スタジアムに入って観戦席へ向かうと目の前に現れたのは大きな装置。四方にノズルも確認出来た。
私が想像していたのは100メートルくらいの平面プール。ところがプールらしいものは何も無い。
どうやら想像を遥かに超えてくるとみた。
ワクワクしながらスタジアムの中央を見ていたのにいつの間にか指定された席に着いていた。どうやらルールーさんが手を引っ張ってくれたらしい。
迷子防止、ありがとうございます。
太陽の光がスタジアム内に降り注ぐ。
どこからプールが現れるのか尋ねれば、中央。
中央。何もない空間だけどそこに現れるの?
ブリッツボールに関しても首を傾げてばかり。
本当に謎なスポーツだ、ブリッツボール……!