03



大きな機械の名前は“アルベドシューター”。
つまりこれは、アルベド族が所有するもので間違いない。……何故彼らはユウナちゃんを拐ったのか。
現在、ブリッツボールの試合でビサイドオーラカと対戦しているのもアルベド族。試合に出ていたから召喚士を誘拐したのは自分たちではない。と、後に問い詰めたとしてもそう供述するだろう。
だがまぁ、機械にわざわざ“アルベド”の名を冠してしまっているので言い逃れは出来ないはずだ。
させるつもりもない。

船に搭載されていたクレーンを利用して相手の攻撃の核となる部分を取り除く。そうしてしまえば戦闘機械、アルベドシューターは簡単に倒せた。
……破壊した、が正しい表現かな?

船のハッチからユウナちゃんが現れる。
彼女の後方に、床へ座り込み疲弊した様子のアルベド族の男性の姿があった。曰く少し痛い目に合わせたとのこと。彼女が抵抗しないとでも思ったのか。
誘拐した相手に手加減なんてするはずないでしょ。
いや……、気絶させていない所を見れば手加減はしたのかもしれない。ユウナちゃん、優しいなぁ。

船の形や甲板の状態、一瞬見えたハッチの中。
そして息を上げているアルベド族を見るにこの船はリュックとゼオンが乗っている船ではないようだ。
乗ってたら真っ先に出てきそうだもん、あの二人。

「リュックは……いないみたいだな」
「だね。もしいたなら私やティーダを見つけて慌てて攻撃を中止してたと思う」
「特にナナシの姿な〜!」
「まぁそうね!否定は出来ないです!」

ハンドガンぶち抜き事件ね!
そろそろ忘れてほしい。

ユウナちゃんやルールーさん、キマリさんに私たちが出会ったアルベド族のことを話した。
海の遺跡で出会い、助けてくれたこと。
船で有人島まで送ると言ってくれたこと。
突然現れたシンに船が襲われてしまったこと。

「その船に“シド”って人、いなかった?」

シド。
ティーダは首を傾げて私を見る。
私はというと、とても聞き馴染みのある名前だ。
エオルゼアで出会う【シド・ガーロンド】。
技術者集団“ガーロンド・アイアンワークス”の社長であり飛空艇“エンタープライズ”を造った技術者。
“技術は自由のために”を信条とする、気さくで豪放磊落、兄貴肌な頼れる男。そんな彼と同じ名前。

だが、アルベドの船に彼の姿はなかった。

詳しく話を聞けば、アルベド族の“シド”さんはユウナちゃんの叔父さんらしい。母方の兄、と。
ここでユウナちゃんがアルベドとのハーフであることを知ったが私的には「だからなんですの?」だ。
何か問題があるのかと問えば、大変面倒な返答が返ってくる。予想内ではあったが、かなり面倒。

「ワッカがアルベド族を毛嫌いしているから」

……リュックの言葉が蘇る。

“「アルベド族は機械や銃を使ってる。それはエボンの教えに逆らってるってことなんだ。エボンは機械の使用を禁止してる。ここではエボンが絶対で、逆らうなんてありえない。教えに反してるアルベド族はおかしい、危険な集団。そう嫌われてるの」”

エボンの教えを忠実に守っているワッカさん。
彼にとって絶対で唯一の教えを守らないアルベド族は嫌悪の対象。私がエボンを毛嫌いしているように、ワッカさんはアルベド族を毛嫌いしている。
個人が持つ思想や信仰に対する善し悪しはそれこそ他人がどうこう言うものじゃない。
前述の通り、私はエボンを毛嫌いしているがそれを信じている人を頭ごなしに否定するつもりはない。

ない、が。

「ワッカさんはユウナちゃんがアルベド族とのハーフであることを知らないんですね?」
「……はい」
「だからこそ、あの人には内緒にしてほしいのよ」
「なるほど、っス……?」
「……ティーダ、話に着いてきてる?」
「あー、うん、ワッカには秘密にするんだよな?」
「そうだけどその感じ不安だな!?」

ビサイド島で過ごしていた二人。
召喚士とガードである二人。
近しい二人でも、言えない秘密がある。
話せない事実がある。
全てを明らかにすることは必ずしも良い方向に転がらない。これは頭が痛いなぁと一人空を仰いだ。

ワッカさんと口論バトルする時は、ルールーさんかキマリさんに遠目で見ててもらわなきゃ。
恐らく私もワッカさんもどちらも拳を握るだろうことは明白なので第三者に水を掛けてもらわねば。
少し頭冷やせェ!……ってね。

そう遠くない未来を考えて物思いに耽っていると。

「あっ!?ワッカ!!知らせないと!」

ティーダが何かを思い出したように叫ぶ。
救出が上手くいったらワッカさんへ合図を送る・と打ち合わせていたらしい。戦闘とユウナちゃんのことを話している内に抜け落ちてようだ。
ティーダの「ワッカに知らせないと」という言葉にルールーさんが「内緒って言ったでしょ!?」と声を荒らげる。だがそれに対してユウナちゃんが素早く「試合!」とツッコむ。申し訳ないが一連のやり取りに笑ってしまった。なんてスピーディな会話。
焦るルールーさんが新鮮で笑ってしまう。
や、やめてください、雷をチラつかせるのは……!
恥ずかしさを誤魔化すために黒魔法ぶっ放さないでください!笑ってすみませんでした!!

空へ打ち上げられた赤い閃光を見つめる。
現代でもエオルゼアでもスピラでも、どんな世界にいても全ての人が同じように互いを尊重し同じように理解し合う……というのは難しいようだ。
それも、まあ、仕方のないことだと思う。
歩み寄るより反発する方が楽だもんなぁ。

首を振って意識を戻す。
さあ、物思いに耽るのは終わり。
床に座り込んでいるアルベドの男性へ声をかけ船をルカの港へ戻すようお願いした。言葉が通じているか不安だったので身振り手振りを加えて。
それと、愛用の弓を肩に担ぎながら。



***



ビサイド・オーラカの選手控え室へ入ると長椅子に横たわるワッカさんの姿があった。
アルベド・サイクスとの試合で相手からのラフプレイをモロに喰らったとティーダが教えてくれた。
いやいや、審判は何を見てたわけ?
ブリッツボールってラフプレイが容認されてるの?
ここまで気力体力を削るとか相当ひどくない?

「ナナシ、お前もどこ行ってたんだよ?」
「私は普通に市中で迷子してました。ワッカさんの怪我やら諸々、大丈夫なんです?」
「迷子ぉ!?ルーたちと合流は出来たんだよな?」
「はい。どうもお騒がせしました」
「んにゃ、無事ならいいけどよ。次はゴワーズだ。豪快に啖呵を切ったからには……応援頼むぞ?」

任せてください!
ドーン!と胸を叩いて竪琴を取り出す。
……ええと?バフ盛ってもいいのかな。だめか。
ドーピングになる?あー、なるかもね。だめだ。

チラリとワッカさんを見ればユウナちゃんに視線を注いでいた。珍しく鋭いそれに少し驚く。

「ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいっ!」
「なんだってアルベドなんかに連れていかれるんだ……。もうアルベドとは口をきくな、面倒に巻き込まれっからな!」

普段は気さくで朗らかおおらかな“お兄さん”であるワッカさん。そんな人がこんなにも辛辣になるの?
憎しみさえ感じさせる言葉遣いと声色に困惑する。

毛嫌いというレベルを超えた何かがあるな。
口を挟もうとしたが、ここは堪えた。
……ワッカさんの吐き出した言葉を覚えておこう。
この場をティーダが収めると選手以外は控え室を出ていく。だいぶモヤるけど、ひとまず我慢だ。

通路へ出てティーダがユウナちゃんにガッツポーズをして見せる。それを目にしたユウナちゃんも自身の両手を握りしめ「がんばれ!」と言っていた。
キマリさんと共に観客席へ向かうようだ。
よし、私も迷子になる前に二人を追おう。

「ナナシ!」
「!はーい。なんだいティーダくん?」
「ナナシからは……なんかないの」
「なんか?応援なら、もちろん全力でするよ!」
「そうだけどそうじゃなくて!今、なんかほしい」

今、何かほしい?
ああ、面と向かって応援の言葉がほしいわけか。
全くもう!欲しがりだなぁ!

「じゃあ手を貸して!」
「手ぇ??」
「そそ、両手ね!」

手のひらを上に向けた状態で差し出してもらう。
迷いなく自分の手を置いて指をぎゅっと握る。
目を伏せ静かに閉じ、一拍置いて顔を上げた。

「ティーダにクリスタルの導きがあらんことを」

この言い回しは、エオルゼアに住んでいる者にとって“祈り”の言葉だ。無事を祈る。勝利を祈る。
災厄が降りかからないよう、身を案じて……祈る。
こうしてみればエボンの祈りも似たようなもの……。
……いや、やはり違う。似て非なるものだ。

ニッ、と笑みを浮かべて手を離す。

「頑張ってね!ちゃんとティーダを見てるよ!」
「え、あ、う……うっす」
「終わったかしら」
「うおおおお!!びっくりした!ルールーさん気配消して現れないでくださいよ!?」
「驚き方が女性のそれじゃないわね、ナナシ」
「ぐぅっ……!的確に心を抉ってきますね!?私は生まれてこの方、高い声で驚いたことがありません!きゃあ!と可愛く言ってみたいです!」
「別に可愛く言えとは言ってないでしょ」
「どうせなら可愛い方がいいです」

はいはい、とっとと行くわよ。
急かされてルールーさんの後を追う。
迷子防止への配慮、痛み入ります……!

観客席へ向かう前にもう一度振り返る。

「負けんなよ、ティーダ!」
「……!おう!絶対勝つ!!」

呆けた表情から一変、不敵な笑みを見せる。
握り拳を作ったのを確認するとこの場を後にした。
オーラカの優勝は、ティーダにかかってるぞ!

私とルールーさんが去った後、一人の青年が盛大に身悶えていたということは……誰も、知らない。


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