観客席へ着くとルールーさんは踵を返した。
ワッカを一人にしておけないでしょ。
とのこと。なるほど、控え室に戻るわけか。
やはり私がフラフラして迷わないよう、送り届けてくれたんですね!……お世話になります!
ユウナちゃんの隣に座り目の前の巨大な水の塊……スフィアプールを見つめた。この中に選手が入ってブリッツボールの試合が行われる。
水球の完全水中版……と考えればいいのかな。
開会式前、この空間には何も無かった。
四方に見えたノズルからは普通の水ではなく大量の魔力が混ざった水を放出しているのだろう。
だから地上から離れても浮いていられる。
浮く原理も構造もいまいち分からないが、宙に浮く水の塊というのはなかなか圧巻だ。そして光が反射してとても綺麗に見える。幻想的でもある。
「ブリッツボールにすっごい力入れてるんだね」
「あまり娯楽も、ないですから」
「……そっか。人が集まるわけだ」
「千年前から人気だったんですよね」
「ははは!そうだね、ティーダはエースだったみたいだし?娯楽も文化。文化は遺さなきゃだ!」
スフィアプールに両チームが入場。
キーリカ島で出会った時から見下し続けてきたゴワーズ。煽りに煽るあの人はキャプテンだった。
その人とティーダが顔を合わせて試合前の挨拶……を、すると思ったらティーダ目掛けて拳を突き出した。実況者は「小競り合い」と言っている。
常勝で必勝、と言っていたのに態度は随分下品だ。
もうちょっと王者の余裕を見せて欲しい。
火花を散らせながらゴワーズとの試合が始まった。
前半戦は力が拮抗しているようで両チーム、シュートまで行うものの、ゴールまでは至らない。
どちらも点を入れることなく折り返し、となった。
「ユウナちゃん、素朴な疑問なんだけど」
「はい?」
「選手の息継ぎ……呼吸はどうなってるの?」
「呼吸?……ふふ、ふふふ!」
「いや笑い事じゃなくてさ!?えっなに?スピラの人たちって水中でも息できるの?」
ひとしきり笑い終えたユウナちゃんが涙を拭いながら教えてくれた。……可愛いから許すけどね!
異世界での常識は私にとっては非常識!なんだよ。
ユウナちゃん曰く水中での行動を可能にするために呼吸を補助する道具があるらしい。その道具を口に含んでいれば息継ぎも必要ない。
便利だと思ったが呼吸にはコツがあるようで誰もが使えるものじゃない、とも言われた。
彼らブリッツボールの選手は、通常の練習に加えて呼吸法などの目に見えない努力もしている。
ティーダがリュックと一緒に海の遺跡へ向かった時も、リキ号から落ちて海中でシンのコケラと戦っていた時もそれを口に含んでいたから平気だった……そういうことかぁ!なるほど、納得した。
「ところで今度は老婆心なんだけど、ユウナちゃんはティーダのことが気になってる感じ?」
「えっ!?えっと、ええ……と?」
「目が離せない、とか!行動が気になる、とか!」
「それは、ちょっとだけ、あり……ます、ね」
「ひゅー!!甘酸っぺぇ〜!」
「や、でも!恋とかではなくて!」
「気になってる?とは聞いたけど恋とは言ってませーん!恋の自覚があるのね!ッか〜〜!!」
「わああ!もう、ナナシさんっ!!」
後ろのキマリさんが咳払いした。
んふふー!キマリさんも気になりますよね!
うーん、いいねぇ!青春だなぁ!
他愛もない話をしているうちに後半戦が始まる。
開始早々、飛び出したティーダがウイノ号の甲板で見せたシュートを繰り出す。水中だけではなく地上でもあの必殺技が出来るんだからスゴいと思う。
キーパーは防げず、華麗にゴールが決まった。
オーラカの先制点に沸き立つスタジアム。
後押ししようと立ち上がり竪琴を弾く。
ゴワーズのファンも負けじと声を上げている。
盛り上がっていく会場。
意外にも……というとオーラカに申し訳ないが、
ゴワーズコールの他にオーラカを応援する声も増えてきた。常勝のゴワーズと万年最下位のオーラカ。
最弱が最強に挑む姿は人々を熱狂させるに充分。
オーラカのフォーメーションの穴をつかれ、点を決められた。一対一で同点。更に観客たちが沸く。
すると徐々に聞こえてきたのは「ワッカ」の声。
観客はアルベド戦で奮闘したワッカさんを求めている。……ワッカさんの代わりに出場したティーダの気持ちを考えるとなんとも言えない。
すると、ティーダはスフィアプールから出て行く。
ワッカさんと交代するんだろう。
ティーダは元のチームでエースだった。
試合の流れも会場のテンションも、今その場に誰が必要なのか、分かってしまう。理解出来てしまう。
「ユウナちゃん!立って!!」
「は、はい!」
「ティーダ!シュート、かっこよかったぞー!!」
「ナナシさん!?」
「ほら、ユウナちゃんも声を掛けよう!」
「私もですか!?……か、かっこよかったよー!」
「超大型新人が頑張ったんだ!キャプテンのワッカさんが来るまで踏ん張れよオーラカァ!!!」
鳴り止まないワッカコール。
それをさらに煽るように旋律を響かせた。
ティーダは一度だけ振り返った……と思う。
表情までは見えなかったが、悔いは無さそうだ。
本当に、格好良かった。
自分のプライドよりチームの勝利を選んだ。
彼がエースと呼ばれる所以を垣間見た気がする。
合流したら笑顔で迎えてあげたい。
その後、ワッカさんが戻ってきて試合は動いた。
観客の大声援と会場の雰囲気に呑まれたゴワーズが連携をしくじり、オーラカがディフェンスラインを突破。ゴールまでのパスがワッカさんへ通ると、豪快にシュートを決める。
そしてここでタイムアップ。試合終了となった。
ビリビリとスタジアムが揺れる。
止まらない拍手、オーラカの勝利に沸き立つ声。
選手たちに贈られる称賛の音楽。
すごい……!すごいな、ブリッツボール!
千年も続いてきた理由がなんとなくわかる。
実際に自分の目で見て肌で感じて、ようやく分かった。いくらシンが世界を脅かそうとも幾度となく壊そうとも、このスポーツが無くならない理由。
興奮冷めやらぬスタジアム。
私やユウナちゃん、キマリさんでさえも拍手を贈っていた時。会場のあちこちから敵意を察知。
地上も上空も水中でさえも。
突如としてモンスターの群れが現れた。
オーラカの選手たちが初優勝で喜んでいる時に!
無粋な真似するんじゃないよ、モンスター!!
「キマリさん!!」
「分かっている。ユウナ、こちらだ」
「はい!退避誘導ですね!」
「近距離はキマリさんが、遠距離は私が守るよ!」
観客とユウナちゃんの周辺を守りつつ、後退する。
出入口に差し掛かった所でルールーさんと合流。
スタジアムに残った中型のモンスターを倒さなければ、街の方へ出て行くかもしれない。
ティーダとワッカさんもスフィアプールから出て、観客席を破壊するモンスターに応戦している。
あちらのサポートをしてくる旨を伝えて、走った。
大きな飛行種一体、近距離のものが二体。
囲まれている二人を見つけ……二人じゃない!?
見覚えのある赤い服の人もそこにいた。
大きな刃を抜いてモンスターと対峙している。
モンスターと戦っているなら味方だ。こちらへ刃を向けてこないだろう!……向けてこないはず!!
自身にバフをかけて弓矢を数十本空へ放った。
クイックノックという広範囲扇状攻撃、次いでレイン・オブ・デスを放つ。これも広範囲攻撃。
二体以上の敵には広範囲攻撃!
エオルゼアではこれ鉄則!!特に攻撃特化なDPS!
そうでしょ諸先輩方アンド、
……っと、集中集中!
「ナナシ!!」
「オレらに一つも当たんないの、逆にコエーな!」
「ワッカさんもティーダもズブ濡れですね!」
「水も滴る良い男!だろ!?」
「手元が狂うのでお喋りはその辺で!」
震えるワッカさんを横目に、飛んでくるのはモンスター以外の敵意。ビリビリと肌に突き刺さる。
これは総老師を見に行った際にも感じた敵意。
ようやく犯人のお出ましですね、赤い服の人!!
睨んだって早々怯みませんよ。私は!
武器を持たない観客たちを狙うモンスター。
それらを根気強く倒し、混乱極まる会場をどうにか収めようと奮闘する。
そして目の前に降りてきた翼持ちのモンスター。
攻撃を喰らう前に穿とうと矢を構えた、次の瞬間。
モンスターがエーテルとなり消滅していく。
『────、──』
耳に届く“何か”の叫び。
そちらへ視線を向けると目に飛び込んできたのは、
とても大きな生物。恐らく……召喚獣。
ミイラのように全身を白い布で覆い隠し、両腕は胸で組まれ太い帯で固定され、更に太い鎖で体を雁字搦めに絡めている。このような召喚獣もいるのか。
召喚獣。人の……誰かの、魂。
召喚獣の叫びは悲痛な声にすら聞こえる。
左目が光るたび、スタジアムにいたモンスターが消えていく。一瞬で消えるその光景は圧巻だった。
力を見せつけられている、と言った方がいいな。
この召喚獣を喚んだのは明らかにシーモア、様。
あの人もまた、視界に入れると鳥肌が立つ。
底知れぬ何かを内に宿しているようで。
私の本能が“あの人はヤバい”と警鐘を鳴らす。
「ナナシ!オレたちも退くぞ!!」
ワッカさんの言葉で我に返る。
このスタジアムはあの人が一瞬で制圧した。
逃げ惑う人々もモンスターに襲われずに済んだ。
死傷者はいない方がいい。当たり前だ。
当たり前、なんだけど。何故か釈然としない。
きっとあの召喚獣を目にしたから……かな。
首を振り、出入口へ向かって走り出す。
……これは助かったんじゃない、助けられたんだ。