05



ルカを一望出来る高台。
私が迷子になり討伐隊のルッツさん、ガッタさんと出会った場所。ティーダと赤い人を除くメンバーでそこから海の街を眺めていた。

あの後、スタジアムのモンスターはシーモア様によって全て掃討された。住民と観客は感謝と畏怖を込めてシーモア様を称える。これが目的だったな?と思えてしまうほど、鮮やかな討伐劇だった。

落ち着いた頃に表彰式も行われ、オーラカが優勝のトロフィーを手にした。淡い藍色でクリスタルのように透明な細長いトロフィー。念願の、初優勝。
ワッカさんは晴れやかな表情でトロフィーをチームメイトに託した。これで悔いなく引退出来る。と。
そしてユウナちゃんのガードに専念する、とも。
ユウナちゃんとワッカさんが改まって挨拶を交わしているのを横目に、ルールーさんと情報を共有。

「モンスターの群れは突然現れたんですよ」
「選手控え室のモニターからもそう見えたわ」
「誰かが放った、という線は?」
「モンスターを使役ってこと?まるでシンね」
「そうですよね。……不敬を覚悟で言うんですが、シーモア様の力を見せるための演出だった、とか」
「……演出。エボン側がモンスターを放った?観客が犠牲になるかもしれないというのに?」

素直に頷けばため息を吐くルールーさん。
そして声を抑えて呟く。

「可能性はゼロ、……では、ないかもしれない」

視線の先はワッカさん。
ありえねぇだろ!老師は助けてくれたんだ!と怒り狂う未来が視える。真相を探るのも一苦労だなぁ。
キマリさんにもモンスターに感づいた瞬間を尋ねれば同じような反応だった。警備員もいて入場も管理されていた。そこを踏まえれば、やはり……。

ワッカさんとの会話を終えたユウナちゃんに、あの大きな生物について聞いてみる。

「あれは召喚獣、ですね。背後にシーモア老師がいらっしゃったし間違いはないと思います」

……ですよね。
召喚獣ってどれ位の数がいるんだろう。
どれ位の人が……召喚獣になったんだろう。
胸が痛い。その上、頭も痛い。
一度真っ青な天を仰いだ。

話題を変えよう。

「ティーダとワッカさん、二人と共闘していた赤い服の人を皆さんご存知……ですか?誰なんです?」
「お前!あの人を知らねぇのか!?」
「全くさっぱり露ほども!」
「マジかぁ。あの人は伝説のガードと呼ばれる、それはもうめちゃくちゃ強くて頼もしいお人さ!」
「へぇ〜」
「興味うっすいな……」
「ブラスカ様のガードも務めていたわ」
「ほーん、大召喚士のガードでなおかつ生存しているから伝説……と!……初対面の人に斬りかかるくらいですし!さぞ心もお強いんでしょうね!!」

放った言葉に引き気味の大人二人。
なんだなんだ、私が原因だろ?と言いたげですね!
絡んで来たのはあっちなんだよなぁ!

「あのアーロンさん相手に喧嘩売るとは……!やっぱナナシはトラブルメーカーなんじゃねぇか?」
「アーロンさん?」
「あなたが指す“赤い服の人”の名よ」

名前を聞いてすぐ浮かんだのはノコギリザメの……
ひとつなぎの大秘宝に出てくる……アーロン……。
シャハハ!って笑わないかな。笑わないだろうな。
ポケットなモンスターの映画にもいらっしゃった。
ルカリオのトレーナーで深めに帽子を被るあの方。

アーロン、アーロンさん、ね。
……どうしてもシャハハの方が浮かぶなぁ。
切り替えるのよ、私の脳!!

一人、頭を抱えていると話題の人がティーダを引き連れてやって来た。ユウナちゃんたちは赤い人、アーロンさんへ向けてエボンの祈りで挨拶をする。
私?祈りを行うのは気持ち的に癪なので会釈だけ。
全員を一瞥してからその人が口を開く。

「ユウナ、今この時をもってお前のガードを務めたい。不都合がなければ、だが」

そう言って見据えた視線の先にいるのは……私だ。
ほほう?むしろ私の存在が不都合ですか?
喧嘩腰ですねぇ、そっちがその気なら買うぞ。

「いいよね、みんな?」
「ええ、アーロンさん。歓迎致します」
「もちろんっす!不都合なんてあるわけ……」

みんなして私を!チラチラ!見るんじゃない!!

「ナナシはユウナのガードだ」
「「「えっ?」」」

声を上げたのはまさかのキマリさんだった。
私の後ろに立ち、アーロンさんを見つめている。
えっ、なん、どうしたんですかキマリさん!?

「キマリはナナシがいない方が不都合だと思う」

一人称、自分の名前なんですねー!!?
うわあああああ!びっくりした!驚いた!
なんですかそのギャップ!かわいい〜!!
そして私を庇ってくれているような発言。
キマリさん……キュンとしちゃうよ……!
ジッと見つめれば頭を掴まれ定位置に戻される。
庇ってくれている?……のか、これ??

「ほう?信頼に足り得るんだな?」
「ナナシはユウナを裏切らない」
「まぁ、キマリさん……!!ハグしても!?」

静かに首を振られる。くっ、フラれちまった。
ずっと警戒され続けていたキマリさんに断言されるほど、いつの間にやら信頼を得ていたとは。
何がきっかけなのか分からないが、嬉しい。
アーロンさんにメンチを切られてるのに、キマリさんの一言でとてつもなく気持ちが舞い上がる。

「ナナシ、と言ったな。オレはお前を知らない。だからこそお前を見ている。忘れるなよ」
「どうも、ご挨拶が遅れました。私はユウナちゃんのガードを務めさせて頂いているナナシと申します。私がどのような人間でどのような場所から来たのか、それは追い追い話をさせてもらいますね。ああ、もちろん私もあなたを観察しますので。それを忘れずに、どうぞよろしくお願いします」

ビキィ!と眉間に皺を寄せる。
こっっっわ。堅気の人だよね?
挨拶しただけでおこおこぷんぷんしちゃうの?
大丈夫ですか、あなたも私と同じく短気チャッカマンですか?

バチバチに火が着きそうな挨拶を交わした時、アーロンさんの後ろに暗い顔をした青年が佇んでいた。
……ティーダ?どうしたんだろう。
目は合わないが動揺を隠してるように見える。
一歩踏み出し手を取ろうとした所でアーロンさんが目の前にぐっと近づき耳打ちしてきた。

「お前、シンと接触したな?」

……は?
え?なに、……はい??
なんのことやらさっぱりだ。
確かに海上で戦闘はしたけど接触するほど近づいてはいない。純粋に意味がわからず首を傾げる。

「ふん、覚えがないならいい」
「説明してもらえないんですかアーロンさん!?」
「敬称はいらん」
「ええそういうことなら遠慮なく!そもそも!なんでそんなに喧嘩腰なんですか!ハッ!もしかして、おじさん呼びしたのを根に持ってるんですか!?」
「方向音痴らしいな?必ず隊列の真ん中にいろ」
「そうですけど今関係ありますぅ!?喧嘩売ってますね、買いますよ。覚悟しろやアーロォォン!」
「おーちつけナナシ!!穏便に!な!穏便に!」
「ワッカさん離してくださいぃぃ」
「どうどう!お前こそなんでそんなに喧嘩腰!?」
「アーロンおじさんに聞いてください!」
「おいおいおい!落ち着けっつーの!」

ワッカさんとキマリさんに抑えられ、アーロンから距離を取らされた。待ってください。いきなり斬りかかってきたことに対する謝罪を要求します!
頭下げてくれるまで根に持ちますからね!!

鼻息荒めな私とは対照的に、ルールーさんへ今後の予定を淡々と尋ねるアーロン。敬称?本人がいらんと言ったので使わない!!シャハハハと笑っちゃうデバフ付けられないかな!そんなスキルもアビリティもない!?無理か、そうか!ちくしょうめ!!

アーロンがユウナちゃんのガードとして加入。
そしてティーダもここで正式にガードとなった。
それなのに、浮かない顔。
かなり気になる。アーロンと二人で来たことを考えれば何かを話し合ったのは間違いない。それもティーダにとって衝撃を与えるような、何かを。
先にユウナちゃんが声をかけていたので彼女に任せることにした。若者同士の方が話しやすいはず。

……おや?
怒りや何やらで気づくのが遅れたが。
何故アーロンはティーダを知っていて、ティーダがアーロンを知ってるんだ?ティーダは千年前から、ここ、スピラへやってきた。
だが、アーロンはユウナちゃんの父親であるブラスカ大召喚士のガードだった。つまり彼もザナルカンドではなくスピラの人間。では何故“千年前から来たティーダと知り合い”なのか?
もしかして、千年前と今を行き来できたりする?

……もうひとつ気になるのは。
自身がユウナちゃんのガードを務めるのはブラスカ大召喚士の頼みであるから。それは納得だ。
だが、もう一人。
ティーダの父親であるというジェクトさん。
ジェクトさんの頼みでティーダもガードに入れる。
これの意味がよく分からない。
ジェクトさんはティーダの父親。
ティーダは千年前から来た。ということはジェクトさんも千年前からスピラへやって来た、ってこと。
そして現在はどこにいるか分からないらしい。
千年前と今を知るのはただ一人。

アーロンだけ、だ。

尋ねたいが恐らく当の本人は語らないだろう。
親子揃って千年後の今へ来たのには理由があるはずなのに。何故なのか、の糸口は見当たらない。

近くのベンチに腰掛けて考えていると、口笛の音が耳に届いた。口笛を吹いたのはユウナちゃん。
それに続いてティーダも口笛を吹く。
若者二人のやり取りを微笑ましく見つめる。

「いいなぁ……」

……いいなぁ?なにが??
口をついて零れた言葉に疑問を持つ。
目線の先はユウナちゃん。彼女は慌てて否定したがあれは恋してるよね!恋する乙女、可愛いなぁ。
恋、恋かぁ。
学生時代まで好きな人はいても告白は出来なかったし、なんなら年齢イコール彼氏いない歴だ。
エオルゼアへ行っても恋だのなんだのと言ってる暇は微塵もなかった。しなくても、充実していた。
……自分が経験してこなかった甘酸っぱい恋愛。
それを目の前で繰り広げられているから、いいなぁと口にしてしまったんだ……そう、思う。

口笛を吹いていた二人が今度は急に笑い始めた。
ティーダが笑い声を上げて、ユウナちゃんもそれに続く。作ったような笑い声が段々本物の笑い声へと変わっていく。ふと、側に気配を感じて見上げるとルールーさん、ワッカさんが心配そうに二人を見つめていた。ワッカさんに至っては「やべぇ」という表情。やばくないですよ。あれは青春です。

ひとしきり笑い終えた二人がこちらへ振り向くと。
なんとも言えない大人たちの顔に一瞬固まった。

「なに見てんだよ!」

見せもんじゃねぇぞ!
とばかりに腕を振るティーダ。
うんうん、元気になったようだ。よかった。

「ナナシも笑ってんなよな!」
「そりゃあ笑顔にもなるよ、微笑ましいじゃない」

笑い返せば、何故か俯く。
ベンチから立ち上がり肩をひとつ叩いた。

「試合、お疲れ様!活躍してたティーダも、プールから去っていくティーダもすごく格好良かったよ。本当にチームのエースだったんだな、って初見の私でさえわかったから。面白かったし熱い競技だね!ブリッツボールが好きになったよ!」
「好きになったのは、ブリッツだけ?」
「んー、ルカの街も好きかな。この高台からの景色も最高だし、まだ観光し足りないくらい!」
「……そういう意味じゃないんスけど」

まぁいいや!応援ありがとな!嬉しかった。
笑顔を見せるティーダに陰りは感じられない。

高台最後の長い階段下へユウナちゃんを筆頭とするガード全員が集まる。ガードの数は六人。
一人ひとり目を合わせしっかり頷くユウナちゃん。

「それでは、召喚士ユウナ。これより“ジョゼ寺院”目指して出発です!ガードの皆さん、よろしくお願いします!」

頭すら下げる彼女に「任せてちょうだい!」と声を上げたのは……お察しの通り、私だけでした。


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