01



ミヘン街道。
コンクリートで舗装されているわけではなく普通に土の道だが、それなりに整備は行き届いていた。
獣道に比べれば歩きやすく視界も開けている。
行き交うのは人、行商の荷馬車……もとい荷チョコボ。いや、チョコボ・キャリッジと呼ぶべきか。
なかなか交通量があるようだ。

街道を少し進めば立派な像が見えてきた。
剣をモンスターの背中に突き刺し、雄々しい表情をしている。うん、この人は召喚士ではないな。
ルールーさんの解説が入ると思いきや、緑色の服を身にまとう独特な雰囲気の老人が話しかけてきた。
そのご老人曰く約八百年前、現討伐隊の元となった団体である“赤斬衆”を作ったミヘンという人物。
彼の人が自身に向けられた疑惑を払拭させるため、この道を歩み寺院へ向かったことからミヘン街道という名がついた……らしい。名前の由来と人物の背景を聞かせてもらったので素直にお礼を告げた。

さらに進めばモンスターが次々に飛び出してくる。
厄介な強さではないものの、他の人たちへ攻撃されては困るので倒していく。そうして歩みを進めていると道の端に苔や蔦、草木に覆われた古い機械や建物が目につくようになった。私とティーダがそれらを物珍しそうに見上げていると、先程の緑色の服の老人……メイチェンと名乗った方が話しかけてきた。
「語ってもよろしいですかな?」そう切り出されてノーとは言えない。長くなりそうな気配を感じたがこれも旅の醍醐味だろうと聞き耳を立てる。

メイチェンさんはスピラの歴史、真実の姿を知るために旅をしていると教えてくれた。
この先、遺跡や歴史的な場所でまた出会いそうだな、と思いながら私たち召喚士一行は北へ向かう。

「だだっ広い草原っスね」
「草原であり高原、って感じもするね」
「確かに。ルカより標高ありそうだもんな」
「草スキーとか出来そう!」

寝っ転がって坂を下るとか!?
それもいいねー!
緑の原っぱを見つめて話しているとワッカさんから呆れた声がかけられた。「このお気楽二人組」と。
解せぬけど否定も出来ぬ。

爽やかな風が街道を吹き抜けていく。
モンスターはいるものの、景色は実に綺麗だ。

道中、討伐隊のチョコボ騎兵隊の方々がやって来て街道でチョコボを狙う大型モンスターが目撃されている。という情報を教えてくれた。
彼らが去った後、元召喚士だったというベルゲミーネさんとユウナちゃんが互いの召喚獣で戦闘を行い、召喚士ならではの指導をしてくれる。
彼女と別れると、今度は散歩をしていた母娘が声をかけてきた。親子の娘さんがユウナちゃんに近き、
“ナギ節”を作ってくれる?と尋ねる。

討伐隊、元召喚士、平和を望み祈る人々。

誰も彼もが“シン”を警戒している。
必ず頭の隅にシンがいる。

「ナギ節……。ビサイド島でルールーさんに尋ねたことがあるような。……なんでしたっけ?」
「ナギ節を作る、ってどういうこと?」

母娘に手を振ってすぐお気楽二人組が疑問を投げかけると、全く仕方のない子たちね。とばかりに長い長いため息を吐いたルールーさん。
まだまだ常識がうろ覚えですみません!

“ナギ節”。
それはシンがいない期間のこと。召喚士がシンを倒してから次のシンが現れるまでの期間。

倒しても倒してもシンは現れる。
「それなら召喚士が戦うのは無駄……なのでは?」
最もなティーダの言葉はユウナちゃんが否定した。

例えどんなに短くてもシンに怯えることなく安心して眠れる日々。何ものにも代えられない大切な時間を生み出すこと。それを無駄だと言わないで。

自らの命より、人々の安寧のために戦う。

死なないために戦っている私とは大違いだ。
ユウナちゃんは確固たる意思がある。強い意思。
彼女の決意はきっと揺るがなく、揺さぶれない。

……まぁ、ね。だからといって私は諸手を挙げて
「さすがユウナちゃん!」とも言えないわけだ。
ビサイド島の子どもたちから頼まれたこともある。

“ユウナさまをよろしくね!”

この言葉を無下にするつもりはない。
任せて、とも言った。
ユウナちゃんの命と引き換えに手に入れる平和。
何度でも言うが、そんなのは平和とは呼べない。
呼びたくない。

「ユウナちゃんが作るナギ節は、永遠のものにしたいね。安心して眠れる夜を毎日迎える!」
「言葉ではなんとでも言えるな」
「はーいアーロンさァん!いちいち突っかかってくるのやめてもらえます?酒瓶かち割りますよ」
「理想論を振りかざすのもお得意のようだ」
「理想を現実にするんです。そのための旅です!」

平行線な会話にワッカさんが割って入る。
主に私を取り押さえていた。人を噛みつき亀のように扱わないでいただきたい!シャーッ!!

「平和な世界を得るため、明るく希望に満ちた未来を勝ち取るための旅。そうだよね、ナナシさん」
「おうとも!その未来に欠けていい人は誰もいない。もちろんアーロンも含まれてますよ!」
「……オレも、か」
「私の手が滑って矢を射らない限りは、ですけど」
「フッ、オレがお前にやられるとでも?」
「この場で叩き伏せてみましょうか?」
「やーめーれーっての!ほらナナシ、あっちの方にボムの群れ!!一撃で仕留めてみせれー!!」

あーん!?やってやろうじゃんよ!!ワッカさんは確定として、キマリさんも付き合ってくださいね!
なんでオレが確定ー!?
空中の敵はオレに任せろって言うじゃないですか!
……キマリを巻き込んでいる。
そんなこと言わずに!竜剣を見せてください!

わぁわぁ言い合いながらボムの群れに突撃。
そんな私たちを見守るユウナちゃんたち。

「永遠のナギ節、かぁ……」
「……ユウナ」
「あっ、アーロンさん。悲観してるわけじゃないです。楽観、しているわけでも。でもナナシさんを見ていると……話をしていると、未来が見えてくるんです。シンのいない世界が見えるんです。その未来のために戦いたいと……思ってます」
「ユウナの言うとーりっス!あとさぁ、アーロンはもうちょい笑えよ、明るい未来は明るい笑顔から!じゃねぇの!?ナナシもたぶんそう言うぞ!」
「ふふ、わかるなぁ。ナナシさん言いそう!」
「…………随分毒されているな」
「絆されてる、が正解っス!」
「ふふふ!」

戦闘終了!
ガッツポーズをして勝利のファンファーレ!!
ボムとの一戦でキマリさんが“自爆”というスキルを手に入れた。けど、使うことは無いでしょう。
切羽詰まった状況に追い込まれたとしても。
キマリさんは最後まで戦い抜く人だと思う。

無言でキマリさんを見つめていたら突然振りかぶりゴッ!!と風を裂いて耳元を掠めていく穂先。
飛んで行った先を確認すると二本の角が立派な割りと大きめのモンスター。槍はモンスターに突き刺さっている。投擲もなかなかお上手なようで。

「いや!!なにか言ってから投げてくださいよ!」
「こちらを狙っていた」
「それに関してはありがとうございます!でも急に槍が真横を飛んでくのは怖いです!」
「ナナシは避けられるだろう」
「どういう信頼を得ちゃったんですかね」

超至近距離だとさすがに避けられないのですが。
仰るほど回避能力は高くないよ、私。
モンスターを倒した後、地面に突き刺さった槍を引き抜いて笑いながら持ってくるワッカさん。
三人……主に私とワッカさんが話しながらみんなの元へ戻ると笑い合う若者達と仏頂面の赤い服の男。
おっ、なんだなんだ?楽しそうじゃん!

「ナナシ!」
「ナナシさん!」
「えっ!?なになに、どうしたの?」

右にティーダ。左にユウナちゃん。
二人に挟まれると腕を組まれた。
本当にどうした。なにごと?
再度尋ねようとするが駆け出す若者の二人。
二人に連れられて私も走る。

「ははは!なにこれ!青春?青春か??」
「そう!青春!オレたちは、キラめく若者っス!」
「そうっス!」
「ユウナちゃんまで!?そっかー、なるほどなー!
青春は楽しいけど、私は若者ではないでーす!」
「「今から若者でーす!!」」

なんて??今から若者です?
どうした二人とも。どこかのネジが外れたの?
走りながらティーダとユウナちゃんの表情を交互に確認すると、変わらず笑っている。
よく分かんないけど二人が楽しいならいいか。

ひたすら真っ直ぐ、一本道の街道を駆けて行く。
緑の布で覆われる荷物を運ぶチョコボ・キャリッジを見つけて三人でそちらへ足を向けた。
道の脇にルッツさんとガッタさんの姿を見つける。
どうやら彼らが何かを運んでいるようだ。
尋ねてみれば曖昧な返事が返ってきて首を傾げた。
……突っ込んで聞いてくれるな、という意味?

彼らと話をしているとチョコボ騎兵隊の方に急ぐようせっつかれ、二人は街道の先へと進んで行く。
召喚士一向もここで全員揃ったので再び北へ。
不穏な空気を感じるが進む以外の選択肢はない。

一度だけ来た道を振り返る。
大きな港町、ルカの姿はもう完全に見えなかった。


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