02



空はまだ青く、高い。
日没まで歩き続けると思っていたが旅行公司と呼ばれる宿が街道の途中にあり、それを見つけたアーロンは「ここで休んでいく」そう短く告げた。
どうやらこの旅行公司という宿はアルベド族が経営しているらしく、当然のようにワッカさんが拒否を示したが「俺が疲れたんだ」と一蹴し宿泊決定。
……全ての圧が強いからね、仕方ないね。

女性と男性で部屋を分けて休憩に入る。
仮眠するにしてもすぐに寝付けないと判断し部屋を出た。ワッカさんを除くメンバーは各々自由行動。
ユウナちゃんが外へ出て行ったのを確認した。
追おうと思ったらすぐ後にアーロンが外へ。
伝説のガードである彼が護衛するらしい。一人ではないならまあ、心配はいらない……かな?
……うーん、どことなく不安なんだけど。
近接一人じゃ危ないよね。ここは私も行くべきか。

一歩踏み出した所でキマリさんが横を通り過ぎ外へ向かった。おお、キマリさんも行くなら安心だ。
ユウナちゃんの身の安全は守られた。

さて。となると、私はどうしようか。
受付があるロビーへ来てみたものの、何をするかは考えていなかった。周りを見渡すと壁に大量の本棚があったり何か未知の機械が置いてあったり。
奥には箱や荷物が積み重なっているのも見える。
宿泊施設にしては物が雑多にありすぎる気が……?

「お嬢さん。弓を携えた、そこのお嬢さん」
「……私、ですか?」
「はい。もしお手隙であれば、こちらへどうぞ」

声をかけてきたのは受付に立っているお兄さん。
この度は当宿をご利用いただき誠にありがとうございます。恭しく頭を下げ、にこりと微笑んだ。
お兄さんの隣には何故かビキニ姿のお姉さんがいる。なんだここは。宿、……普通の宿だよね?
大胆な服装のお姉さんに魅かれてしまったが、声をかけてきたお兄さんの方へ足を向ける。どうやらこの宿の説明をしてくれるらしい。“旅行公司”という施設は世界各地にあり、召喚士とガードの一行はかなりの頻度で利用している……と教えてくれた。

そして宿だけではなく各種アイテム、武器等も取り扱っている。各種アイテム。つまり!食材も!?
期待を大いに込めて尋ねれば良い笑顔で返された。

「もちろん、取り揃えてございます」
「やったー!!一覧があれば見せてください!」

手渡された食材一覧表。
まさか本当に一覧表までもがあるとは。
旅行公司、侮れない……!

真剣に吟味していたら左隣にルールーさんが。
右隣にはティーダがやって来て一覧表を覗き込む。
二人へ何を食べたいか、オススメの食材はあるかを聞いてみた。各々答えてくれたので迷わず購入。
お金はね、ほどほどに持っているんですよ。
通貨がエオルゼアと共通のギルで助かってます!

買い物を終え、外の空気でも吸おうと出入口へ。
その出入口の隅にティーダが座り込んでいる。
何をしているのか尋ねると「アルベド語翻訳機ってのがあったから登録してる」そう教えてくれた。
アルベド語翻訳機。なにそれ便利そう!
私もティーダの横に座って、青く光る機械?スフィア?を覗いた。すでにいくつか登録されている。
ここまでの道中で翻訳本を見つけていたらしい。

「少しでもあっちの話してる内容が分かれば、リュックのことを聞けるかもしれないだろ?」
「なるほど、そうだね。……リュック、無事かな」
「……無事だよ。きっと」

船は相当大きかったし、頑丈そうでもあった。
どうか無事でいてほしい。
あ、ついでにゼオンも。

「……ところでナナシ。聞きそびれてたんだけど、
……その、ゼオン?って奴と何があったんだ?」
「何が?何ってなにが?」
「いや……ほら、シンに襲われた時、ナナシはそいつを見てから攻撃しただろ?オレがいなかった短時間で、どうやって仲良くなったんだろ……っ、て」

突然歯切れ悪く話すティーダに疑問符を浮かべる。
仲良くなった?あの言葉遣いの悪い人と?
……仲良くはなってないけどな。
リュック以外で私と会話出来るのがゼオンだけだったから、意思疎通係として話をしたんだと思う。

そのことを話せば小さく息を吐くティーダ。

「よく分かんないけど、私と仲が良いのはティーダだよ。ティーダが一番話しやすいし気を抜ける」
「……オレが一番、っスか?」
「うん、一番!」

笑ってみせると顔を逸らされた。
おいおいナナシちゃんのスマイルから目を背けるんじゃないよ。笑い合うところでしょうよ!
ティーダの行動を不思議に思いつつ立ち上がる。
外へ出ることを伝えると、オレも後で行くっス!と大きめの声が返ってきた。それにまた笑って頷く。

宿から出ると太陽は少しずつ傾いていた。
茜空に染まっていくのも時間の問題だろう。
周りを見渡せば遠くにユウナちゃんが座っている。
声をかけにいこうと踏み出せば右肩を掴まれた。

「ユウナを一人にする時間」
「うおお、キマリさんですか!ビックリしました。
……ええと。声をかけない方がいいんです?」
「今は、ユウナの時間」
「ういっす」

首を振り拒否られては向かうことなど出来ない。
確かに、これだけ旅の仲間が多いと自分一人の時間は少ない。荷物を背負いすぎているユウナちゃんは特に、自分だけの時間も必要……だよね。
流石キマリさん、わかっている。

ユウナちゃんへの声かけは断念して、宿の周りを確認しておこう。歩き出してすぐ、木の柵が現れた。
そして柵の向こうから聞き慣れた鳴き声。
思わず柵へ駆け寄り、鳴き声の主を探す。

「チョコボだ!」

ふわふわした体毛、艶のある羽。
逞しい脚と、愛らしく輝く丸い瞳。
数羽のチョコボが広い柵の中を走り回っている。
間違いなく癒しの光景だ。
エオルゼアで一緒に旅をしてくれた私のチョコボは元気に過ごしているかな。走るのも飛ぶのも好きな子だったから、私がいなくなった後はチョコボタクシーとして活躍させてほしい……と、エルムに頼んである。だからきっと、元気に駆け回ってるはず。

「……会いたいなぁ」

そっと呟いた一言は

「どこの誰に会いたいんだ」

低音で強面な赤い人によって拾われた。

「盗み聞きとは趣味が悪いですね」
「独り言なら一人の時にするんだな」
「でっかい独り言でしたか」
「ああ。……それでどこの誰に会いたいんだ」
「ええ?見た目に違わずしつこいですね」

咄嗟に出た軽口も睨みに怯んでキュッと噤んだ。
別に隠す必要もないし、自分のチョコボのことを話した。ふわっふわでもふもふで、ギサールの野菜が大好きだった私のチョコボ。

「一般人に限りなく近い、騎兵隊ですらないお前がチョコボを飼っていたのか?」
「はい。広い世界を一緒に冒険した相棒です」

興味が無いのか返事は返ってこない。
でも、視線の先にいるチョコボを見つめる様子は思っていたより穏やかなものだった。アーロンでさえこうなんだ。チョコボは癒される存在だよね。

しばらく距離を置いたままアーロンと二人でチョコボを見つめる。はは、スピラのチョコボも元気だ。
ニコニコで見つめていると柵の内側で世話をしているスタッフさんらしき人が声をかけてくれた。

乗ってみますか?と。

この子たちはこの先の道を快適に進むためのレンタルチョコボなんだそう。先へ進むならお代が必要になるけど、敷地内なら乗っても構わない。そう言ってくれたのでご厚意に甘えることにする。

「こんにちは。少しだけ背中に乗せて貰えるかな」
「ピュイ!!」
「いいの?ありがとう」

構わんよ!と言っているかのような鳴き声に笑う。
何度か撫でさせてもらい、鞍を付けて背に跨る。

自分の身長より遥かに大きいチョコボ。
背に乗り、そこから見える景色は広く高く感じた。
柵に沿って歩き少しずつ速度を上げていく。
グッと手綱を引けばピョーン!と飛び跳ねる。
さすがに飛べはしないか。そりゃそうだ。

ピュイ!ピューイ!!
嬉しそうに鳴くチョコボがとても可愛い。

「ナナシ、お前チョコボに乗れるのか!」

柵の外から届いた声の主に目をやる。
ワッカさんだ。
不貞腐れるのは終わったのかな?
ワッカさんの方へ近づいて私も声をかけた。

「気が済むまで怒りましたか?」
「まぁだ納得はしてねぇよ!」
「人種差別レベルで毛嫌ってますね」
「差別、じゃない!……嫌いなだけだ」
「度を越した嫌悪感だと思うんですけど。……まぁ、それはひとまず置いといて。ワッカさんもチョコボに乗ります?敷地内なら構わないそうですよ」

ひらりと降りてチョコボを撫でる。
よしよし、乗せてくれてありがとう。
柵を跨いで乗り越えようとしたワッカさんを制止して、入口を指し示す。どっから入って来ようとしてるんですか!全身ソワソワさせているし、心なしか目もキラキラしているような。
……もしやワッカさん、チョコボ好きだな!?

入口からチョコボの元へ真っ直ぐ来ると、羽根の流れに沿って優しく撫でる。お前綺麗だなぁ、可愛いなぁ。いやいや、凛々しくもあるなぁ!
撫でながら褒めちぎるワッカさん。
ははは。気分の高低差が激しすぎますねぇ。

チョコボに乗り、駆け回るワッカさんを見つめる。
褒めちぎられたチョコボは気分良く走っているように見えた。なるほど、ワッカさんのチョコボ好きは伊達じゃなかったようだ。手綱捌きもお見事。
そうしていると今度はティーダがやって来た。
間近で見るのは初めてらしいので、触り方やどこを撫でてあげれば喜ぶかというのを教える。

チョコボを中心に三人で戯れていたら、先程のスタッフさんがこちらへ近づいて来た。
私たちがガードだと知り、相談があるそうだ。
話を聞けば、チョコボを狙う“チョコボイーター”というモンスターが現れて襲ってくる。時たま街道にも出現して野生のチョコボも襲われてしまう。
良ければそのモンスターを倒してくれないか?
……と、いうのが相談内容だった。

「「もちろん引き受けます!!」」

ティーダとハモってしまった。
飼育スタッフさんはアルベド族の方なので案の定、ワッカさんは顔……いや、体ごと背けているが恐らく私たちと同じ気持ちであるはず。チョコボ好きとして、チョコボを襲うモンスターは討伐したい。

モンスターが現れるのは日が昇ってから。
夜は出現しないんですって。
それなら、きちんと休んで明日に備えなければ。
許さん。チョコボを襲うなんて許さないぞ!

スタッフさんにチョコボを触り、乗せてもらったお礼を伝えて宿へ戻ろうと踵を返す。すると、海に沈んでいく太陽が視界に入った。大きくて眩しい。
ユウナちゃんは、未だに座り込んでいる。
ティーダも何かを思ったようで彼女を見つめた。
見つめるだけでいいのかい?話しかけておいでよ。
とん、とティーダの背中を押してユウナちゃんの元へ向かうよう促す。キマリさんも止めに入らないなら大丈夫さ。彼女の所へ行っといで!

一歩踏み出したティーダが振り返って私を見た。
何も言わずに、静かに見つめてくる。
……どうしたんだろう?

「えっと……?ティーダ、どうしたの?」
「ナナシにはオレとユウナがどう見えてんの」
「どう……とは?」
「……んー、うん、やっぱなんでもないっス!!」

なんでもないわけがないでしょ!?
もう一度尋ねようにも「ちょっと声をかけてくる」そう言って背を向け歩いて行った。

オレとユウナがどう見えてんの。
私から見た二人、ってことだよね?
境遇が違うとしても感性はそう変わらない同じ歳の若者……に、見えてる。後は、そうだねぇ。
隣に並ぶとお似合いな二人……かな。
私よりはユウナちゃんとの方がしっくりくる。
甘酸っぱい恋の予感も、起こりそうだと思う。

ティーダとユウナちゃん、二人の背を見つめていたら先ほど一緒にチョコボを眺めていた人の声が背後から聞こえた。

「お前、鈍いな」
「……なんです藪から棒に。喧嘩なら買いますよ」
「売ってはいない。思ったことを言ったまでだ」
「思ったことを?それで私が鈍いと?大剣担いでる人よりは速く動けていると思うのですが!が!!」
「そういう意味じゃない。フ、まだまだだな」

は!?なんで私、鼻で笑われてるの?
肩を竦めながら宿へ入って行くアーロンを追いかける。どういうことかもう少し問い詰めてみよう。

茜色に染まった空。それを背に歩き出す。
目まぐるしい怒涛の一日はこうして過ぎていった。


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