チョコボイーター。
名前の通り、チョコボを喰らうもの。
その見た目はモンスターに相応しく凶悪な面構えで長い手足が顔から直接生えていた。
……なんだか既視感があり戦いながら考えていたがつい先程、思い出した。まんまるピンクでなんでも吸い込んでしまう某ゲームのキャラクター。
全然可愛くはないけど、姿形が同じだと思う。
「ナナシ!!来るぞ、構えろ!」
ティーダの声で意識を現実に戻す。
いけない、戦闘に集中しないと。
このモンスターは定期的に長い腕を広げてこちらに突進してくる。地味に強力で後退せざるを得ない。ただ下がるだけなら構わないが、私たちの後ろには高さのある崖があり、このまま突進を受け続けると落ちることになる。そうならない為にこちらも攻撃を繰り返せば今度はモンスターが後退する。幸い、反対側にも崖があるからそこへ落とすのも手だ。
うん、確かにそれもひとつの手……だけど。
崖に落としただけで戦闘不能になるとは限らない。
傷を癒したら、またチョコボを襲うかもしれない。
つまり、モンスターを崖から落とすという選択肢は根本的な解決にならないわけだ。
突進してくるモンスター。
両腕を広げて……突進。
……ダブルラリアットですねわかります。今から振り回しますので離れていてください、ってか!
このネタ通じる人いるのかな!?いるといいな!
受身を取った後、すぐに弦を引き絞り矢を放つ。
毒と風の継続ダメージを更新させた。
次いでティーダの必殺技が決まり、怯んだのを見逃さなかったアーロンが重い一撃を入れる。
頃合いを見計らって振り返るとユウナちゃんと目が合った。強く頷いたので、彼女と交代だ。
「──イフリート!!」
炎を纏って現れた召喚獣・イフリート。
凶暴さで比べるなら、このイフリートもなかなかの面構えな気がする。ヴァルファーレは温厚だけど、イフリートは獰猛。そういうイメージだ。
でも、ユウナちゃんの祈りに応えてくれたということはシンを倒したい意思があるわけで、仲間としてかなり心強い存在だと思う。
イフリートを召喚したことで私たちガードは後方へ移動する。主に巻き込まれないために、かな。
ユウナちゃん指示の元、イフリートが炎を溜める。
炎が溜まるとすぐさま攻撃態勢に入った。
イフリートが放つのは、“地獄の火炎”。
大きな炎の塊がチョコボイーターに直撃して上空へ吹き飛ぶ。そこへもう一度炎の弾をぶつけ、さらにトドメとばかりに地面を爪で抉り取り、チョコボイーター目がけてぶん投げた。豪快で恐怖だわ。
どう考えても獰猛を体現してますわこれ。
当然の事ながら、オーバーキルで倒れた。
チョコボイーターからふわふわと現れるエーテルがなんだか切なく見える。割と結構……本気でボッコボコにしたからなぁ。いやそもそも!チョコボを食べなければ倒されることもなかったんだぞ!?
自業自得なのだよ、チョコボイーターくん。
倒したことを旅行公司のオーナー、リンさんへ報告すると感謝の言葉と共に、今回に限り・という条件付きだがチョコボを無料で貸し出してくれた。
チョコボイーターの脅威がなくなったから今回限りではなく永久に無料……とはならないらしい。
旅行公司、なかなか商売上手である。
一羽につき二人乗れるので、分かれることに。
ワッカさんはルールーさんと。
キマリさんはユウナちゃんと。
……ということは、私はティーダかアーロンと一緒に乗るわけだが。先にティーダへ視線を送る。
はい、ばっちり目が合いました。
一応アーロンにも視線を移せば首を振られる。
「俺は一人で乗れる。お前は隊列の真ん中にいろ」
「さすがにチョコボに乗れば迷いませんよ」
「チョコボは賢いからな」
「いちいち棘を付けないと喋れないんです?」
どうせ私は賢くありませんよ!ちくしょう!
「ティーダ、同乗者は私……でいいかな?ええと、ほら、ユウナちゃんが良ければ代わってくるよ!」
「よっしゃ!オレが手綱とってみたいっス!」
「……ねぇ、その、後ろは私でいいの?」
「なに言ってんの。ナナシがいい!」
「う"っ……!!」
にっこり眩しい笑顔……!
無理やり言わせてしまった感が半端ないんだけど、アーロンと会話した後のきみの笑顔は心に染みる!
何度か瞼を瞬かせ、チョコボへ近づく。
ふわふわな羽に指を滑らせた。柔らかな羽毛。
ティーダがチョコボへ向けて「よろしくな!」と声をかけている。本当に彼は好青年だと思う。
後ろに乗った瞬間、飛び跳ねたチョコボ。
振り落とされないよう咄嗟にティーダの服を掴む。
視線を上げれば目の前に現れた背中。
口を開いて……閉じる。何故か言葉が出てこない。
「悪い、ナナシ!大丈夫だったか?」
「だいじょうぶ」
「二人乗って驚いたのかも。ごめんなチョコボ!
皆は先に行ったみたいだしオレたちも行こう!」
「うん」
どうしたの、私。
返事が簡潔すぎない?
ティーダの服を握っている手をそっと離す。
……ここに乗るのは、やっぱり私じゃない。
ユウナちゃんと交代すべきだった。
彼女を応援したいし二人には良い感じになってほしい。この旅で愛を育む、的な!そういう感じに!
走り出したチョコボは少しずつ速度を上げて、狭い崖の上の道を飛ぶように駆ける。
すると突然、ガクン!と縦に強く揺れた。
「う、わあっ!?」
「ナナシ!!」
思いがけない振動にバランスを崩してしまう。
落馬ならぬ落チョコボですねわかりますー!!
襲い来る落下の衝撃に身構えたけれどそれは起こらなかった。片手で手綱を、もう片方で私の腕を取るティーダ。チョコボに乗るの上手くなったなぁ。
昨日の今日で片手操作。すごい。
決して軽くない私を腕一本で捕まえるなんて。
そこでようやく、我に返った。
捕まえてくれている自分の腕と下半身に力を入れて崩れた上体を起こす。その勢いを殺せずティーダの背中へ抱き着くようにぶつかる。
「ティーダ、ごめん!腕は大丈夫!?」
「腕?大丈夫っスよ。ナナシこそ平気か?」
「ティーダのお陰で命拾いした!ありがとう……!」
「どういたしまして!急な段差とか、飛び跳ねたりとかチョコボの動きって予想つかないだろ?落ちると危ないし、……このままオレに抱き着いてて」
「ええ!?あ、あー、……わかった」
「ほら、腕はどっちも腹んとこまで回す!」
「ちょっ、と!ティーダ!」
「んで!ぎゅっと体引っ付けて抱き着くの!」
ぎゅっとからだひっつけてだきつくの!?
どういう状況ですかこれは!
いやいやいや、どういうも何も落ちないために安全対策として提案しただけだよねそうに決まってる!
他意はないし私が照れるのは間違ってんだよ!
落ち着こう。冷静に冷静に!
大きく深呼吸。
意を決して恐る恐るティーダの背中に体を寄せた。
腕を前に回して……どこを、掴めば??
「ティーダ、」
「ん?」
「回した手はどうしたらいいかな……?」
「……っ、服!服を握っててほしいっス!」
「お、おっす」
言われるがまま服に手をあてる。
レザー素材なので掴みづらい。
しかも、だ。チョコボに足を広げて跨いで乗っているから、体が背中にぴったりと引っ付いてしまう。
そう!意図せずに、引っ付いてしまうわけ!
他意はない。私にも!他意は!ないんだよ!!
うわあああああ!ごめんねユウナちゃんんん!!
頭を抱えたいけど出来ない。
もはや観念するしかなかった。
エオルゼアでもエルムと二人乗りのマウントで進むことがあった。その時はちゃんと鞍が二つあり、今みたいに密着して騎乗というのはなかったと思う。
……自転車の二人乗りも、こんな感じなのかな。
確かになんだかときめきそうになるし青春ですわ。
貴重な体験をありがとう……。
「チョコボに乗って旅出来たらいいのにな!」
「そう、だね。人の足より速いもんね」
「速さもそうだけど、こうやってナナシが抱き着いてくれるだろ!頼られてるみたいで嬉しい!」
「ティーダは私をオーバーキルするつもりなの?」
恥ずかしさが天元突破して倒れる自信があるぞ?
頼られてるみたい、というか、頼ってますが!?
ダメだ、今日の思考はポンコツだ。
精神面では私の方が一回り、二回り大人でしょ!
若造の言葉に動揺するんじゃない!
本日何度目かの深呼吸。
操作はティーダに任せて景色を楽しもう。
遠くを見ると野生らしきチョコボの姿を視認。
この辺りが繁殖地なのかな。
駆け抜けていることでモンスターとのエンカウントも避けられた。さすがチョコボ。有能だ。
街道を走ること数分。
前を走っていたワッカさんたちに追いついたと思えば、何やら足止めをされている。私とティーダもすぐにチョコボから降りて皆の元へ急ぐ。
足止め……通行止めを行っているのは討伐隊。
この先で大規模な討伐戦を展開するようで、召喚士でさえも通行は許可しない。とのことだった。
ドナと名乗る召喚士の女性も諦めて元の道へ戻って行く。キーリカ寺院で投げ飛ばしてきたのはあいつらだ、とティーダが教えてくれた。なるほど。
申し訳ないが、それはさて置き。
私たちも戻るかこのまま待機するか話し合うところで、何かを運んでいたルッツさんとガッタさんの姿を見つけた。思わずティーダと共に近づけば、緑の布は覆われてなくて、そこにいた“何か”。
─シンの、コケラ。
目を見開いて絶句する。
キーリカ島でルールーさんとワッカさんがコケラについて話してくれたことを思い出した。
“それはシンの体から剥がれて置き去りにされた魔物のことを指す。倒さないとシンが戻ってくる。”
つまり、だ。
討伐隊はシンのコケラを使ってシンを呼び寄せ、
自分たちで倒そうとしている。
「っ、ルッツさん!!正気ですか!?」
「……正気も正気さ。シンは討伐隊が倒すよ」
「召喚士しか倒せないと言われているのに?」
「ああ。だからこそ、だろう?」
「討伐隊に倒せる策があるんですか!」
「騒ぐな、小娘」
詰め寄ろうとする私をアーロンが止めた。
腕を掴む手の力はなかなか強い。
反射的にアーロンを睨んでしまう。
「それはこいつらの戦いだ」
「だから邪魔するなと?はっ、片腹痛いですね!」
「お前が口出ししていい問題ではない」
「“シン”はスピラ全体の問題でしょう!?」
「……それだけは、頷いてやる」
ルッツさん、わかってますか。
キーリカ島で大きめのオチューにさえ手こずっていた討伐隊が、災害級のモンスターであるシンを倒せるはずがないんですよ。
本当の本当にしっかりと倒せる計画で、なおかつ、いつでも逃げられる体制でなければ……シンと戦うということは、死にに行くようなものだ。
そこでまた、ハッとする。
ルカでルッツさん、ガッタさんと話したことを思い出したから。「戦うのが怖くないんですか?」と、確かにガッタさんは問うてきた。
私は「死なないために戦う」そう応え、ルッツさんも「死ぬために戦うわけないよな」と呟いていた。
……もしかしたら、ルッツさんは。
“死ぬことを前提に”戦うつもりなんじゃないの?
もう一度口を開こうとしたら、アーロンが目の前に立ち塞がった。掴まれた腕へ更に力が込められる。
「お前は戦う者の心を折るつもりか」
「死にに行く人を見過ごせないだけです」
「討伐隊はシンと戦うことを選んだ。お前が口を挟める余地はない。黙って行かせてやれ」
反論しようとしたところで、後方へ強く突き飛ばされた。私をキャッチしてくれたのはキマリさん。
すみません、と謝れば首を振る。
気にするな……って意味かな。
討伐隊の荷車が動き出し、先へと向かって行く。
ルッツさんとガッタさんも歩き出した。
……ここでアーロンと言い争うより、討伐隊がどう戦おうとしているのか自分の目で見て知る方がいいかもしれない。だが、討伐隊以外はこの先へ向かうことは出来ない。私一人なら押し通っただろうけど、今はユウナちゃんのガードだ。
私のその行動でユウナちゃんが批難される可能性が出てきてしまうのも本意じゃない。
全くもって、もどかしい。
一旦その場から離れようと全員が動き出した時。
特徴的な髪色と髪型をしたエボンの老師が現れた。
「これは召喚士御一行。いかがなさいましたか?」