03



時は流れ、エオルゼアへ来て十年が過ぎた。

……え?
その十年間の話をしなくていいのか?って?
逆に聞きたい?基礎訓練や体力作り、能力を向上させる特訓その他諸々。少年漫画でよく見る修行編・みたいな話、本当に聞きたい!?
やめておこう。私の精神的ダメージ軽減のために。
メタい話、本編がミリも進まんのでやめておこう。
はい。

この十年で弓術のなんたるかを学んだ。
弓術の歴史から始まり、その作りや特徴。
攻撃する際の狙い所、技やスキルの詳細。
知れば知るほど奥が深い。

一度も挫けずに頑張った!風の説明をしているが、
ぶっちゃけ逃げ出した日は数え切れないほどある。
そこまで強靭なメンタルではないのでね。
根本はめんどくさいことを避けたい現代人なので。
だがしかし。逃げきれないのも当たり前だった。
なんせ、この世界の主人公&英雄であるエルム様が特訓時には必ず側にいたから!!
私に構わず冒険して!クエストへ行って来て!!
そう言っても頑として首を縦に振らない。

いつかその背中に一矢報いてやる。
文字通り、一矢ズドンと……!!

「おう、ナナシ!!ダンジョン行くぞ!」

勢いよくドアを開けて入ってきたエルム。
私は書いていた日記を素早く隠す。
こちらへ来て、毎夜日記をつけるようになった。
エルムの指示もあったからだけど、その日に何をしたか思い出せるので記録としても役立つ。
最近は日記というより、エルムへの恨み辛み満載な愚痴ノートとなっているのは秘密だ。

そして日記を書いている場所は私の部屋。
正確には、エルムの個人ハウスの一室。
ひと部屋譲ってもらった。ので、ここは私の空間。
いくら家主とはいえノックぐらいしてほしい。

「ダンジョン、こんな夜更けに?」
「初心者な冒険者が手助けを募ってたんでな!」
「初心者ってことは、サスタシャ?」
「大正解!はい準備!」

エルムの姿を一瞥。
鎧を身にまとっている。ナイトの装備だ。
なるほど、タンクで行くつもりだな。
ならば私は弓を─、

「ナナシは幻術士の練習な」

……いいえ、ヒーラーでした。
弓は基礎を学び終えたので、自身や仲間が怪我した時に困らないよう白魔法を覚えられる“幻術士”も習いはじめましたとさ。スパルタ過ぎるわ。

ちなみに、タンクというのはパーティの先導役で、
なおかつ敵のヘイトを集める盾役でもある。
ヒーラーは回復役。白魔法を扱う人をそう呼ぶ。
もうひとつの役割はDPSと言い、タンクが敵の目を引き付けている間に火力を出して敵を倒す攻撃役。
タンクが一人、ヒーラーが一人、DPSが二人。
パーティはこの四人編成が基本となる。
ダンジョンへはパーティを組まないと挑めない。

ダンジョン攻略はFF14の醍醐味だ。

「初見らしいからギミックも教えつつ進もう」
「お優しい先輩ですこと」
「古参は新参に手を差し伸べろ、だ!」

手を差し伸べて握ったら蹴落とすのがエルム流……。
いや、うん、これ以上は何も言うまい。
幻術士装備に身を包み、部屋を出る。

初々しい若葉な冒険者二人と合流するため、グリダニアのカーラインカフェへ足を向けた。



***



ダンジョンやクエスト、日々の鍛錬の合間。
チョコボに乗ってふらりと各地を巡る。

広大な海に面する“リムサ・ロミンサ”。
砂漠と商売、王宮を有する“ウルダハ”。
雪深く白銀の世界に覆われた“イシュガルド”。
エオルゼアより東の和洋が織り交ざる“クガネ”。
独自の文化と歴史を紡ぐ“アジムステップ”。

エオルゼアには様々な都市が存在する。
もちろん、小さな町や集落も数多い。
基本的に自然が豊かで、脅威なのも自然であった。
それはどんな世界でも変わらないんだろう。

グリダニア、北部森林。
フォールゴウトの湖畔を橋から静かに眺めていた。
あちこち忙しなく走り回る冒険者。
釣りに勤しむ麦わら帽子をかぶったおじいちゃん。
花壇の前で井戸端会議を繰り広げる奥様方。
冒険者の話を聞いて笑顔を見せる子どもたち。

たまには、こういうボーッとする日がほしい。
何も考えず揺蕩う水面を見つめるのも……。

「いたいた、ナナシ!エルムがお呼びだぞ」

……。
何も考えず揺蕩う水面を見つめるのも大事。
大事なんだよ!聞いてんのかエルム!!
多忙を極めるあなたに言ってるんですぅー!!!

私を呼びに来た人物に目をやる。

「英雄様の愛弟子は大変だなぁ、ナナシ?」

ニヤニヤと笑みを浮かべる長身痩躯のエレゼン男。
吟遊詩人の【ギドゥロ】。
弓術を修めると吟遊詩人にジョブを変えられる。
私も例に逸れること無く吟遊詩人になった。
その際、うたを師事してくれたのが彼だ。
彼以外にも吟遊詩人は存在しているが、残念ながらあちこちへ放浪……もとい、旅をしているため教えを乞うことは難しかった。その点、グリダニアに腰を据えているギドゥロはいつでも会えるから助かる。
自由奔放に見えて、なかなか面倒見も良い。

「ギドゥロを遣いに寄越してまで何の用かな」
「さぁなぁ、蛮神戦のサポートとかじゃねぇの」
「もっと愛弟子を可愛がるべきだと思わない?」
「充分可愛がられてるだろ。あっちこっち、果てにはそっちこっち。振り回すくらいには、な!」

振り回すのと可愛がるのをイコールで結びつけないでほしい。そんな愛情表現は嫌すぎる。
よっこいせぇ!と橋の欄干から手を離す。
呼ばれたからには、向かわないとね。

ギドゥロに場所を聞けば、【十二神大聖堂】と。

目ん玉が飛び出るかと思った。
十二神大聖堂、グリダニアの東部森林に位置した
エターナルバンドを行える神聖なる場所。

エターナルバンド。
それはFF14、ゲーム内における結婚を意味する。

「お前ら結婚でもすんの?」
「思ってもないこと聞かないでくれる!?」
「冷やかしに着いて行きたいが、そんな無粋な真似するわけにいかねぇ。報告だけよろしくな!」
「なんの報告!?ギドゥロも一緒に来てよ!」
「やだね、エルムを敵に回せねぇよ」

肩を竦め踵を返してギドゥロは去った。
去り際に竪琴で結婚式の曲弾いたの聞こえたな!?
許さない、許さないぞ!覚えてるからなぁ!!!
なーにが蛮神戦のサポートとかじゃねぇの、だ!!
そんな場所に蛮神が現れるなら目も当てられないレベルの凶悪なやつが出てきそうですわね!!
フラグになりそうだからこれ以上はお口チャック。

身体がぶるりと震えた。
それにしても、十二神大聖堂か。
どうしてそこを指定したんだろう?
とにかく行ってみるしかない。
マイチョコボを呼び出して、東部森林を目指した。


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