手の甲に冷たいものが触れる。
意識が覚醒して瞼をゆっくり上げた。
薄らと潮の匂いも鼻に抜ける。
潮、ということは海が近くにあるのかもしれない。
起き上がり、何度か瞬きをする。
自分の目が届く範囲を見渡してみる限り、どうやら建物の内部のようだった。屋根や壁の一部が壊れていたり崩れていたり。床……地面?は、元々砂で出来ていたのか風化したのか、ザラザラしている。
何を象っているのかわからない像もあった。
一体どこなんだここは。廃墟?
壊れた屋根の隙間から光が届いているので、真っ暗ではない。それだけでも良しとしよう。
少し肌寒くなってきた。
腕を擦りながら立ち上がる。
黒魔法を扱えてたらなぁ。何かしら燃やして暖を取るんだけどなぁ。どうも黒魔法は私の体質に合っていないようで、炎の玉も氷の
静電気くらいなら出せるんだけどね!
まぁ私の手が痛くなるだけですわガハハ!
はぁ。
一人の謎コントほど虚しいものはない。
とりあえず誰か、この世界の人と出会いたい。
情報を!情報をください!!
天を仰いだって何も起こらない。当たり前だ。
崩れた建物内を歩いてみる。
横になっていた地面には誰かがいたであろう痕跡があった。焚き火をしていたかのような跡。
ギリギリ通れるような場所は大体行き止まり。
水が上から落ちているのも確認した。
匂い的に海水。なるほど、潮の香りはこれだな。
この建物は海の上に建つか、周りに海があるか、
それとも。海の中に沈んでいるのか。
海水が流れ落ちているし沈んでる線はない。はず。
さてお次は。
瓦礫を足場にして上へ行ってみよう。
エオルゼアで鍛えただけあって、身体能力は格段に向上しているのでね!なんなく登れるよっ、と。
高さにして三階くらいに相当するだろうか。
窓はなく、途中で岩や瓦礫に行く手を阻まれた。
壁にかけられた花瓶の中に枯れた花束があったくらいで、他にこれといった収穫は無し。残念!
ひょいと飛び降りて難なく着地。
すでに手詰まり感がすごい。
最終手段は天井、屋根をぶち破ってそこから出る!
……なんだけど、マジで使いたくない手段だ。
この建物、造りは古そうだし易々と壊せば文化的遺産を失うことになる。その道の人に怒られる。
焚き火跡の前で、どうしたもんかと腕を組んだ。
その時。
──ドォォォン!!
轟音が響き渡り、建物が揺れた。
ゴゴゴゴゴ……と地鳴りの低い音で鼓膜も揺れる。
なんだ、敵襲かなにかか?
ある一箇所から足音が耳に入った。
目を閉じて音に集中する。数は、一人。
弓を構え、音が聞こえてくる方へ矢を向けた。
岩の柱を押し退けて、足音の主が姿を現す。
「なんなんだよ、もう……!」
眩しい金髪、日に焼けた肌。
服がびっしょり濡れている。
その服装見たことがある、ような。ないような?
爽やかそうな外見の少年……青年?は、弓を構える私を視界に捉えた途端、顔色を明るくさせた。
「!ひ、人だ……!人がいる!!」
「人間を見るのは初めてですか?」
よく見るんだ青年。
私は弓を構えている。きみの眉間を狙っている。
敵と見なせば指を即離して、射抜く。
……まぁ、本当に敵ならすぐに攻撃してきただろうし、彼は悪意も害も無さそうにも見える。
軽い足取りで近くまで来た青年は、これまた眩しいほどの笑顔と明るい声で私に尋ねた。
「なぁ!ここはどこなんだ!?」
どうやら彼もここがどこか知らないらしい。
***
ずぶ濡れの青年は寒い寒いと震えていた。
とにかく手分けして火が着きそうなものを探す。
私は先の探索で見つけていた枯れた花束を持ってきて、青年は着火器具を見つけたようだった。
どこにそんなものがあったんだろう?
カチカチ、と石を叩き火花を散らせる。
黒魔法使えなくてごめんよ、青年。
申し訳ない気持ちで着火の様子を見ていたら上手くいったらしく、火が着いた。暖かい炎だ。
「はぁぁぁ、あったけー……疲れた……」
「お疲れ様!そして着火ありがとう!」
「どーいたしまして!それで、えーっと。あんたはなんでこんな所に一人でいるんすか?」
「私?ちょっと旅をしてるんだ。でもいきなり迷子というか見知らぬ場所に来ちゃったというか」
「迷子、見知らぬ場所……。オレと一緒っすね!」
確かにそうだ。
お互い顔を見合わせて笑ってしまう。
なんだか緊張感がなくなる笑顔だなぁ。
「自己紹介がまだだったよな!オレはティーダ!
ザナルカンド・エイブスのエースだ!!」
「私はナナシ。旅をしている……冒険者だよ」
「おお、冒険者!」
「絶賛迷子中だけどね!!」
「ぷ、ほんとっすね」
「あなたも迷子仲間でしょ」
好きで迷子になったわけじゃない!
力説されるが、残念ながら説得力はない。
私はエオルゼア、彼はザナルカンドという所から来たと話すがお互いがお互いの地名を知らなかった。
言葉が通じるだけでも良しとするべきか。
話をしていると、彼のお腹がぐぅと鳴いた。
「そういやなんも食べてない……」
腹減ったァー!
大の字に寝転がる彼を横目に見る。
……私も少しお腹減ってきたな。
何か食べれるような物、所持してたっけ?
所持品が入っているポーチを確認してみる。
エオルゼア製の四次元所持袋。
この中にはポーション、モンスターから剥ぎ取れる素材、クリスタル、食材等も入れられる。
最大所持数はあるんだけど、同じ種類なら999個まで収納が可能なのだ!だから四次元、と付けた。
っと、余談終了。
どんな食材があるのかを確認し終えて。
服を調理師のものに着替える。
材料とスキルを駆使してオニオングラタンスープの出来上がりー!調理で火を使うだろ?って?
ファイアクリスタルの使用なので火は出ません!
火が直接出るならとっくに使ってるってばよ!!
はいどうぞ!熱いから気をつけてね。
そう言って彼の目の前、地面に置く。
行儀悪いけどテーブルが無いんだ、致し方ない。
スプーンを手に取り、いただきまーす!と声に出してから気がついた。彼……ティーダ、くん?の反応がない。どうした。まさか玉ねぎが苦手とか言わないよね?それとも猫舌とか?
「ティーダくん?どうかした?」
「す、」
「す?」
「すっげぇ!!」
目をキラキラ輝かせ、私を見つめる。
ま、眩しいっ!
なんだそのウキウキワクワクしてる目は!
「そんで、美味しそう!本当に食べていいのか?」
「もちろん。どうぞ」
「いただきます!……うめぇぇぇぇ!」
幸せ〜!とでも言い出しそうなくらいの笑みで食べ進めるティーダくん。うんうん、たんとお食べ。
彼の食べっぷりを横目に私も食べ始めた。
そうしてじっくり食べ終えた後、お茶を片手にティーダくんの身に起きた話を真剣に聞いていると、
モンスターの気配を察知した。
食後の運動と行きましょうか。
「ナナシさん、戦えるのか!?」
「もちろん。きみに向けて矢を構えたでしょ」
「武器を持ってるフリかと思った……」
「失敬だなぁ!まぁいいよ。ティーダくんは片手剣か。それなら遠慮なくサポートしよう!」
弓を背中へ背負い、代わりに取り出したのは竪琴。
弦を優しく撫ぜれば建物内に旋律が響く。
雑魚っぽそうだし、一蹴しちゃおう!
「ティーダくん……ティーダ!このモンスターを倒したら、ここを出る手がかりを見つけよう!」
「……!ああ、よろしくっす!ナナシ!!」
「こちらこそよろしく!」
モンスターへ向かって駆け出すティーダ。
ここがどこか知らない二人だけど。
協力すればどうにかなるかもしれない。
一人より二人なら。道は拓けるはずだ。
何故かは分からないが、ティーダが一緒なら何が起きても大丈夫だろう。そう思える私だった。
あの眩しい笑顔にやられたんだよ、きっと。