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『突然だけど、恋人はいるのか?』

金曜の夜。
開口一番、そう尋ねられた。
変な声が出そうになったけど咄嗟に口を塞げた私、グッジョブだと思う。
本当に突然の質問だ。何故それを聞く必要が?

「今は、いませんよ」

我ながら見栄を張った感がすごい!今は、って。
でも事実だしなぁ。前の彼氏とは数年前に終わったし…。しかも二股かけられてね!ははは!
…はぁ。控えめに言ってクソ野郎だったわ。

遠い目をしていたら、エースくんが続ける。

『それってリオから告白したのか?』
「エースくん、それ本当に知りたい?」
『あー、参考にしようと思って…?』
「聞いてるのは私ですが」
『ええとだな、隊の新人が好きな子に告白しようか迷ってるらしくてよ。アドバイスしようにも何というか、おれはいまいち分からなくて』
「エースくんは恋人いないの?」
『いない。オヤジを海賊王にするまで、特定の女は作らねェ!って気持ちでいる』
「ということは特定以外の女性はいるんですね」
『……おれ、墓穴掘った?』
「ソウデスネー」

まぁ、それはね。事情があるでしょうし?
そういう関係でもいいんじゃないんですか。
エースくん、優しいし。明るいし。可愛いし。
世の女性が放っておくワケがないさ。わかる。

「告白は私からしました」
『えっ』
「駆け引きが出来るほど、私は要領良くないんです。直球で言いましたよ。好きです・って」
『男から告白されるのを待たなかったのか』
「待ってても、告白されるか分からないじゃないですか。好意を持ってくれてるなら、少しでも可能性があるなら。いえ、可能性が無くても好いた相手には私から言います。想いを伝えず後々、後悔しないように。自分から伝えますよ」
『へぇ、リオはかっこいいな』
「そうですか?」

思いのほか、語ってしまった。
恥ずかしいと思いつつ褒められて嬉しい。
恋人、かぁ…。

『リオが言ったことをそのまま言ってやろ』
「!?そ、それはやめてください…!」
『なんでだよ。おれの心に響いたから言う』
「うわぁぁぁ!恥ずかしい!」
『リオに想われる奴は幸せだな』

て、照れてしまう…!
そんな風に言われることが無いから余計に。
エースくんは告白される方だろうなぁ。
いや、でも。真っ直ぐな言葉を紡ぐ彼のことだ。きっと告白する時も直球なんだろう。
それこそ、エースくんに想われる人は幸せだ。

異性と恋話をする機会なんてないから、なんだか少し楽しくなってきた。
エースくんのタイプとか聞いてみようかな!

『今、好きな人はいるのか?』

出鼻をくじかれた。
なんてことを聞いてくるんだ。直球が過ぎない?
好きな人、最近で当てはまる人といえば。

「エースくん」
『…おれ?』
「!!違うんです!いえ、違うって言葉も語弊がありますね!えーと、その!エースくんは異性の中でも好感度が高くて、とても良い人だなぁ。と!そういう意味の好きです!」
『……』
「…あの、黙られると気まずいのですが」

好きな人はいるか?に対して
エースくん、って。
仕方がないでしょ、本当に好感度高いんだ…。
訂正すればするほど赤面してしまうこの状況よ。

『おれもリオが好きだ』

びゃ…っ!
ほほほほほ惚れてまうやろォー!!!
わ、分かってる分かってる。私の意図を汲んでそう返してくれたんだ。分かってるとも!
あー!でもかなりときめいた!この恋泥棒!!

落ち着け、私。

「ああありがとうございます…」
『…へへ、自分から伝えるのって照れるな!』

やめて、私のトキメキゲージはMAXよ…!
ひとつ、ふたつ。気づかれないように深呼吸。
こういう時に限ってマルコさんとかサッチさんとか他の人が乱入してこないのは何故なのか。

小さく咳払いして居住まいを正す。
よし、大丈夫。かなりときめいたけど大丈夫。
エースくんに新人さんが好きだという人のことを聞いてみる。すると、細かく教えてくれた。
うんうん、上手く話題を反らせたかな。

私はまだ恋人を必要としていない。
それはきっと、エースくんの存在があるから。
彼への“好き”も、恋愛のそれではない。
…ない、はず。たぶん。
恋をしなさすぎて感覚が分からなくなってる。
やはり友人にどなたか紹介してもらうべき…?

「難しいですね、好きって」
『だな。好きの種類も、あるみたいだしな?』
「これからその話でからかわれそうで嫌です」
『そんなことしねぇよ!…まぁ、照れてるリオの声を聞けるのは面白ェけどな!』
「おもしれぇって…!」
『ニホンって島がどこにあるのかまだ分からねェけど、海は繋がってんだ。リオに会える日もそう遠くねぇだろ!』
「…そうですね。会えたら、嬉しいです」
『ああ!おれも嬉しい!』

にっこり笑っているエースくんが浮かぶ。
それはきっと、眩しい笑顔。
…海は繋がってる・か。
空はよく聞くけれど、海も繋がってるんだね。

『野郎共!海王類が前方を塞いでんぞォ!!』
『狩るか?倒すのか?』
『狩ってもいいけどよ、あいつ食えるの?』
『食えるだろ、海王類って魚類だろ?』
『いや、海王類は海王類だと思うぞ』
『俺がアレ捌くのか〜!いやァ腕が鳴るな!』

電話の向こうから大きな叫び声。
そして仲間の皆さんの大きな声での会話。
なんだかザワザワしている。
そして、かいおうるい…とは?

『へぇ、海王類』
「何が現れたんです?」
『サメやシャチやクジラより大きい、多分リオは見たことがない生き物…だな!』
「想像がつかないです…!」
『あいつら、人間にも船にも容赦ねぇからよ。まぁ、この船のクルーは倒して食うことしか頭にないっぽいけどな!』

『エース!出番だ、焼いてこい!』

「あら、エースくん呼ばれてますね」
『…あいつらおれをバーナー扱いすんだよなァ』
「バーナー?」
『ほら、おれはなんだかすごい人!だぞ!』
「めらめらの実?の能力者?でしたね!」
『ほんと、かわいーなァリオは』

!?
今日のエースくんはどうしたんだ。
褒められても何も出せないんだけど。

「気をつけてくださいね」
『おう、行ってくる!またな、リオ!』


He lives in the sea.

彼は、海に住んでいる。
私の想像を遥かに超える、広大な、海に。

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