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「赤崎にこれあげる!」

そう言って同期から手渡されたのは、
小さな白い花の形をしたキーホルダーだった。
これは同期の先輩から貰ったものらしく、願いが叶ったから今度は私に。と譲ってきたのだ。
大事なものではないのか?と尋ねてみれば
「幸せはお裾分けするに限る」
と笑顔で言われたので素直に受け取った。

「ありがとう!」
「おうよ!これをくれた先輩もね、願いが叶ったから私にくれたみたいでさ。赤崎も何か願い事があれば…叶うといいね」
「へぇ!幸運のキーホルダー、だね」

なんだかすごいキーホルダーを貰った感じだ。
願い事。叶えたいこと、かぁ。
改めて考えてみるとすぐには浮かばない。
とりあえず、カバンに付けてみることに。
派手すぎず大きすぎず、控えめな白い花がカバンを彩る。見ているだけで幸せな気分になった。

仕事を終えて、少し買い物をしようと店の方へ足を向ける。そろそろ歯磨き粉が無くなりそうだった。季節的に手ピカジェルも必要かな。
ドラッグストアからお惣菜屋さん、最後はコンビニへ寄り、袋を多めに抱えて帰宅した。
お惣菜の肉じゃがが良い匂いを放っている。
自分で作るよりこちらの方が手間も時間もかからず、合理的だ。いや、決して自炊が面倒とかそういう意味では…ゴニョゴニョ。

シャワーを先に浴びて部屋着に着替え、ゆっくりご飯を食べて。その後はまったりしよう。
時計を見るといつも電話がくる時間をとっくに過ぎていた。今日はエースくん、忙しいのかもしれないな。一人納得してスマホを充電器に繋げた。
早めに寝てしまうのもありかな。
ベッドに転がるとそのまま静かに目を閉じた。

『───リオ!!』

名前を呼ばれた気がして、目が覚める。
辺りを見渡すが変わり映えのない自分の部屋。
確かに呼ばれたと思うけど、まぁ、夢だろう。
時間は朝の5時前。早く起き過ぎた。
もう少し寝ようかな?それとも、早めに準備して某店で朝ご飯を食べるのも良いなぁ。
いつも朝は余裕が無いから、たまには早く出て同期を驚かせてやろう。うん、絶対驚くな!

出勤の準備を終え、コートを羽織る。
先日購入したオレンジ色のマフラーも巻いて。
歩きやすい、ヒールが低めのブーツを履き玄関のドアを開ける。外から冷たい空気が流れ込み、肩を上げてしまう。朝方は本当に寒い。

「行ってきまーす」

体を縮こませながら歩く。
残念ながら背筋をピンと伸ばせない。寒い。
駅までのいつもの道を歩くが、人はほとんどいない。犬を散歩してる人とすれ違ったくらいだ。
曲がり角に差し掛かり、内側を通った瞬間。
強く冷たい風が私を襲った。
思わず目を瞑ってしまうほどの強風に、足を止める。これはだいぶつらい。寒過ぎる。

風が止み、ふっと目を開けると。

「……え?」

目の前に、海が見えた。

「……は??」

いや、わけが分からない。
私は道路を歩いていたはずだ。コンクリートの道路。それがどうだ、足元は土と草。自然の道だ。
そして眼前には海。青い青い、海。
頭でも打ったのだろうか?と思えるほど周りの景色が変わっていて別の意味で体が震えた。

とりあえず、ここがどこなのか。
スマホを取り出し地図を…と、思ったのだが電波はなく圏外のマークが付いている。
圏外。なんて絶望的な文字なんだろう。
これでは検索も出来なければ電話も出来ない。
なんてこった。いきなりお手上げだ。

さくさく、と鮮やかな緑の道を歩く。
どうやらここは高台にあるようで振り返れば街…らしき集合住宅が見えた。そこに行き着くまでには小さな森?と川があるのも確認できた。
街の方を見るとどうやら港町っぽい雰囲気がある。大小様々な船が停まっているのを見るに、漁村…いや、港町で合っているはずだ。

歩いたことで暑くなり、マフラーとコートを脱いだ。先ほどまで空気に寒さを感じていたが、どうやらここは気候が違うようだ。
中は7分袖の薄めのセーター。下にはヒートテックを着ているため、段々暑くなってきた。
ヒートテックも脱ごう、とセーターの中でモゾモゾ。ここが外だろうが知ったことか。人がいないのを良いことにスポーン!と景気よく脱ぎ去った。
マフラーとヒートテックはカバンの中へ。
コートは腕にかけて。

さて、ここがどこかは知らないが。
じっとしてても何も起こらない。全くの見知らぬ土地で、もちろん恐怖心は強いけれど。
海を見つめ、グッと拳を握る。
泣くにはまだ早い。家に帰ってから、安心して「怖かった」と大泣きすればいい。
大丈夫、頑張れ私!がんばれ!!
涙の膜を拭い、自分を鼓舞して一歩踏み出す。

まずは、街へ行こう。
そして情報収集をしよう。きっと、帰れる。
海風に背を押されながら、私は歩き出した。

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