13

海軍の大将、青キジさんと出会った日の夜。
街の中央にあったホテルへと足を運んだ。
住所や身分証がないから泊まれるかな?という不安は「旅人さんかぁ、しかも冬島から!そりゃ大変だったろう。はい、305号室ね」そんな軽い感じで名前以外は記入をスルーされ、無事に寝床を確保することが出来た。
自分で言うのもなんだが、怪しさしかない私を簡単に信用して大丈夫なの?人が良すぎない?
…でも、今はその優しさに甘えてしまおう。
部屋に入るとすぐさまベッドへダイブした。

なんだか、疲れた。
コロンと転がれば瞼が徐々に落ちてくる。
少しだけ寝よう。今後のことは起きた時に。
そうして私は眠りについた。


***


軽快な着信音が鳴り響いて、飛び起きた。
圏外で使えないはずの機械。
急いでスマホを取り出し画面を確認すると…そこには、見知った彼の名前が表示されていた。

『よぉ!リオ!おれだ、ポートガス・D、』
「エースくん!!」
『お、おお!なんだ、どうした?』
「エースくんんん!」

耳馴染みのある声に、心からホッとする。
私は一人じゃないんだと安心できる。
食い気味に名前を呼んだのは…仕方がない。

「エースくんに聞きたいことがあります」
『なんだ?…なぁ、声が震えてないか?』
「大丈夫です!エースくん、そちらのお金の単位をなんと呼んでいますか?」
『単位?お金のことだったら…ベリーだな』
「ベリー!」

それがどうかしたのか?
困惑した声のエースくんに、私は今9800ベリー持っています!と告げた。このホテルは一泊3000ベリーなので残りは6200ベリー、だけどね!
日本円と同じように計算できるのがありがたい。

『持っている?』
「そして、春島にいます!」
『はるじま、春夏秋冬の春の島?』
「はい、春島です!島の名前はまだ分からないんですが…。青キジのお兄さんが、ここは比較的穏やかな島だ・と仰っていました!」
『いやいやいや、突然の情報量についていけねェんだが!それに…青雉!?あの青雉か!?』
「身長が高くて、細身で、ダルッとした雰囲気で、おでこにアイマスクを掛けていました!」
『……青雉だな…』

エースくんも青キジのお兄さんを知っていた。
やはり相当、有名な人だったんだ。
早々会えないと思うが、もしも機会があるなら、もう一度きちんと感謝を伝えたい。

『他の海賊なら分からねぇが仮にも海軍大将だしな…乱暴はしないと思うが。なぁ、怪我はしてねぇか?本当に大丈夫か!?』
「大丈夫ですよ、ありがとうございます」
『っ、リオに会えるかもしれねェ嬉しさと会えなかったら・って不安と…!とにかくリオがすっげぇ心配だ!!』

春島、この辺で春島は、わからねぇな…。
マルコに聞いて!いや、詮索されるのは目に見えてる。しかもリオのことだろって速攻でバレる。
あー、とか。うーん、とか。
悩み声を上げているエースくん。
この島に名前があるのなら、せめてそれだけでも伝えたい。私も部屋の中をうろついてみる。
すると、ベッドサイドの…かたつむり?の側に紙が置いてあった。何故かたつむりがここに?
気になるがとりあえず今は置いといて。
紙を手に取り読んでみる。英字なのだが、スラスラ読める。というか、頭に入ってくる。
??どうなっているんだろう。私はあまり英語は得意じゃなかったはずだけど…?
これもまた、今は置いておこう。考えても分からないということしか、分からないから。

「エースくん。ここはカキツバタという島みたいです。港町で、とても活気がありました」
『カキツバタ、だな。わかった!おれはおれで調べてくる。…そういえば、なんで突然春島へ来たんだ?リオはニホンに居たんだよな?』
「それは、私にもよく分からなくて…」

ここへ来てしまった経緯を話すと、エースくんも驚いたようだった。分からないことが多くて頭を抱えそうになる。
しかし、グランドラインじゃそういうことも起こりうるのかもな。と納得もされてしまった。
起こるの?こういうことが!?こわいな。

『調べに行くから、一旦切るな』
「はい。お手数をおかけします…」
『おれがリオに会いてぇからやるんだよ!
リオはただ、無事でいてくれ。な?』
「…はい。ありがとうございます」
『おう!またな、リオ!』

プツリと通話が切れた。
画面を見ると圏外の文字はついたまま。
エースくんと連絡がとれたのは嬉しかったけれど。電波が繋がっていないのに、どうして着信出来たのか。謎が謎を呼びすぎである。

部屋の時計を確認したら、午前1時過ぎ。
スマホはカバンへ直し、再びベッドへ寝転ぶ。
ベッドサイドのかたつむりに目をやると、目を瞑って「ZZZ」と眠っているようだった。
私が知るかたつむりとは大きさが違う。それになんだか愛らしいフォルムをしている。
つんつんと殻をつついてみれば迷惑そうに眉間?にしわが寄った。なんだろう、可愛いな…。
不思議なかたつむりに少しだけ癒された私は、
もう一度静かに眠りについた。


***


「プルプルプルプル、プルプルプルプル」
「……?」

なんの音…音?いや、声?
聞き馴染みのない音に眠たい目を擦り、のっそりと起き上がる。周りを見ても誰もいない。外から聞こえたのかな?ボーッとしていたら、また同じ音が部屋に響いた。

「プルプルプルプル」
「……わっ、目が開いてる!えぇ!?まさかきみの声だったの?な、なに?プルプルプルって!そんな電話の着信音みたい、な…?」

この子の短い尻尾…?がペシペシと殻を叩いている。取れということか。取る…殻を?首を傾げれば、ウンウンと頷いてくれる。マジか、意思疎通できるの?すごい。かたつむりくんすごいな!

言われた通り殻を取ると、そこから声がした。

『305号室の旅人さんですか?おはようございます!昨晩はよく眠れましたでしょうか。さて、当ホテルは朝食バイキングが無料です!お時間がありましたら、いかがですか?』
「行きます!!」
『うふふ、かしこまりました!2階のエレベーターを降りましたら、隣に珊瑚の間がございます。そちらへお越しください!』

がちゃ、と渋い声で通話が切れる。
電話の相手は従業員さん。チェックインした時に女性はいなかったから、朝のシフトの方なのだろう。明るい声に私も気持ちが明るくなった。

ウキウキで行った朝食バイキング。
昨日から何も食べてなかったこともあり、涙が出るほど美味しく思えた。見たことの無い料理もたくさんあり、それがまた美味しくて。
お腹いっぱい食べてしまった。
帰りに入り口でスタッフの女性から
「とってもいい食べっぷりでした!」
眩しい笑顔でそう声をかけられたのは…うん。
この旅の良い思い出にしよう。美味しかった!

チェックアウトの準備を終えて、かたつむりくんの殻をひと撫でする。かたつむりくんは片目を開けてくれたが、すぐに閉じた。だが、しっぽ?がパタパタ動いていたので私は笑ってしまった。
可愛いなぁ。

フロントで手続きを終えて宿泊料金を払っていると、スタッフの方が一枚のチラシをくれた。
そこに書かれていたのは“ワタユキ島の星祭り”

「星祭り、ってなんですか?」
「冬島で夏の時期だけに見れる、とっても綺麗なお祭りのことですよ!内容は実際に見て感動してもらいたいのお伝えしませんが…。夜が特に綺麗なんです!」
「夏の夜ってことは…星や蛍、ですかね?」
「ご想像にお任せします!」
「ふふふ、わかりました。チラシ、頂いて行きますね。ありがとうございます!」

この島から定期船が出ているようで、チケットを購入する場所も教えてもらった。優しい。
…普通に流す所だったけど、冬島の夏ってなんだ?冬島は冬じゃないの?まさか、冬島にも春夏秋冬がある!とかじゃないよね。はは、まさか!頭こんがらがるわ。

おっと、チケットを購入する前に。
両替所なり買取店を探さなくては。さすがに今の手持ちでは心もとない。くるっと踵を返してホテルのフロントへ。まだまだ、お世話になります。

楽しみだなぁ、星祭り!

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