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ワタユキ島へ向かう、船の甲板。
乗りなれていない船の揺れに、嘔吐感がじわじわとせり上がってきたが、ベンチに座って空を見上げていたら徐々に良くなってきた。
青く澄み渡る空がとても綺麗だ。

島へ着いたのは、日が沈む頃。
カキツバタ島より空気がひんやりと冷たい。
しかし厚着をするほど寒いわけではない。
なるほど、これが冬島の夏…!わけわからん!

船を降りて周りを見渡すと。
少し大きい船に目がいった。その船には黒い帆が張られており、何かマークが描かれてある。
なんだろう…?白い、丸?違うな、あれは。

「…海賊船、とか?」
「旅人さん、あまり見るもんじゃないよ」

後ろにいたお婆さんが私の背をつつき、歩けと促された。そうか、そうだよね。本来海賊って危険な人たち…なんだよね。エースくんと接しているから忘れかけていたけれども。

お婆さんはこの島の住民とのこと。
星祭りの時期になると海賊船が何隻か来るらしい。といっても、暴れたり盗みを働くわけではないので実害は出ていない。だから野放しにしている…。そう話してくれた。
あまり刺激するな、とも、釘を刺された。
島外の人間が問題起こしちゃダメだもんね。
ちゃんと肝に銘じておこう。

カキツバタ島では腕時計とイヤリングを買い取ってもらった。紙幣を出すのを躊躇った結果だ。
この二つだけで2万ベリーで買い取ってもらえたのだから、だいぶありがたい。…イヤリングは、お安めのお店で買ったものだけど…まぁ、買取店の店主のご好意かな!と判断した。

星祭りの開催時期ということで、街はイルミネーションで彩られ、露店もたくさん出ている。
星型のわたあめに、星型の果物飴。果てには星型の…お肉…?どこを見ても、映えること間違いなし!な食べ物がたくさん並んでいた。
私も星型の人形焼きを買って食べながら歩く。
星祭りのマップが掲示板に張られているのを見つけて、現在地とどこへ行けばいいのかチェックする。メイン会場はもう少し先のようだ。
人の流れもあったので迷うことなく辿り着いた。大きな広場。ここで何が起こるのだろう?

夜の帳が降りて、周囲は薄暗い。
ひら、と目の前に何かが落ちてきた。
白い…雪?空を見上げて、息を呑んだ。

「う、わぁ…!!」

冬島という冬特有の気候のお陰で空気は澄み渡り、夜空に瞬く星たちは霞むことなくキラキラと眼前に拡がった。星がこの手で掴めそうなほど、近くに感じる。
広場の周辺は森があり、木々には雪が積もっていた。そこへ下から吹いてきた風が木々を、枝を揺らす。枝に積もった雪はその風で空中に舞い、私たちの元へ降りくる。

眩い星に、白い雪が舞う。
まるで星が降ってきているようで、思わず手を伸ばす。幻想的な光景に私は感動していた。
ここでスマホを取り出すのは無粋だろう。
この光景を目にしっかり焼き付けて行こう。
なんて素敵なお祭りなんだ。

広場の中央から音楽が聴こえ始める。
数名が楽器を弾いて景色に音を添えていた。
ここに、エースくんが居てくれたらな。なんて思った自分に笑ってしまう。会いたいなぁ。


***


「え、カキツバタへは戻らないんですか?」

幻想的な景色を存分に楽しんだ私は露店の通りを抜けて、船乗り場へと戻ってきた。
が!しかし。この島からは元の島へと戻れないらしい。次の島へ渡り、更にもうひとつ島を通らないとカキツバタへは帰れない。定期船だと聞いていたが、“3つの島を巡る、定期船”という意味だったようだ。
…なんてこった。では、ここで一泊する他ない。そうと分かれば街中へ戻る選択肢しかない。またあの景色を見に行こう。ホットワインが売っていた。飲みながら眺めるのもいいなぁ!

ルンルンで街へ。
ホテルも無事にとれたので、改めてコートを羽織ってマフラーを巻き再び露店街へ向かう。
ホットワインを片手にチーズ串なるものをもう片方に持ち、広場へ。座れそうな石を見つけて雪を払う。タオルを敷いてそこにお尻を乗せれば少し落ち着いた。

「はぁー…綺麗だなぁ…」
「あァ、こうして見れば雪も悪くねェなぁ」
「キラキラしてますしねぇ………うわっ!?」

自分以外の声が聞こえてそちらへ視線をやれば

「あ、青キジのお兄さん!」
「やあ。お嬢さんそれ美味しそうね」
「ホットワイン、ですか?チーズ串?」
「ワインの方。一口ちょーだい」
「えっ、ああ、どうぞ…?」
「ありがとー。んん〜〜甘い!」
「寒いですからね、この甘さが美味しいです」

いや。何を普通に会話しているんだ。
青キジさんが何故ここに!?

「星祭りがあるって思い出して足を運んでみた。それだけ。いやァ、また会ったねェお嬢さん」
「その節は本当にありがとうございました!」
「いぃーのいーの。ホラ頭上げてちょーだい。助けになったんなら僥倖ってモンよ」
「今さらですけど、私は…リオと申します」
「あららご丁寧にどうも」
「青キジのお兄さん、ここは不思議な所ですね」

春島の次は冬島。でも冬島の夏!
季節は島ごとに変わっちゃうし、食べ物も生き物も私が見たことのないものばかりで。
街の人たちや青キジのお兄さん、出会う方々はみんな優しくて。仕事ばかりしていた私には全てが新鮮で眩しくて、とても楽しいです。

少しアルコールが入ったからか、ペラペラと話す言葉が止まらない。青キジのお兄さんが何も言わずに聞いてくれるから、余計に語ってしまう。

「ここに、会いたい人がいるんです」
「?この島に、か?」
「いえ、この世界に…ですかね」
「へぇ、この世界」
「はい。私なんかの身を案じてくれて、会いたいって言ってくれて。好きって言うと好きと返してくれる、真っ直ぐで眩しい人なんです」
「おお、青春だねェ」
「でもたぶん。私は帰ってしまうんです」
「?帰る?」
「私は私の世界に。ここへ来られたのは…なんでですかね、偶然…。幸運の偶然、とかかなぁ」

なんだか体がぽかぽかして、頭もふわふわしてきた。思いのほか、度数が高かったのかな。
景色も目に焼きつけたし、チーズ串美味しかったし、青キジのお兄さんにもお礼を言えた。

あとは、あとは。

「会いたいなぁ」

エースくんに。

「!!ちょ、お嬢さ…リオちゃーん!?参ったなァ。こんな所で寝ちまう奴があるかい」
「むにゃ…」
「…仕方のねェ子だ。よっこいしょ…」

青雉が起こさないよう抱きかかえた時。
彼女のカバンから聞きなれない音が耳に届く。
心の中ですまんと断りを入れ、カバンの中へ手を伸ばす。触れたのは見たことのない…機械、らしきもの。薄長いそれは軽快な音を奏でている。
何か表示されているが残念なことに読めない。
唯一わかるのは、青と赤の丸いもの。
どちらを選ぶかと言えば、まぁ、赤はない。
必然的に青い方をつついてみる。と。

『よお、リオ!わかったぞ!』

どこかで聞いたことのある声。
なんと、この薄い機械は電伝虫だったか。
こりゃどこで喋るんだろうなァ。
そう首を捻りながら再び石に腰掛ける。
あら、この子タオル敷いてたの。女の子だねェ。
踏むわけにいかないので横にズレて座る。
膝にスヤスヤ眠る子を乗せて片手で機械を、片手でタオルを摘み取る。濡れてないのを確認してそのまま指で畳んでカバンの中へ入れてやった。

『おれたちの航路、その周辺を通るみてェだ!近くまで来たらおれがリオを迎えに…』
「迎えに来てどーすんのよ。こんなかわい子ちゃんを海賊に引き込もうってェの?」
『─…誰だ、テメェ』

青雉はこの声にピンときた。

「あ〜、ウン、はいはい」
『リオはどこにいる』
「おれの膝の上?」

向こう側でバキッ!!と何かが壊れる音が聞こえた。いやいや、若ェなァ。
いやでもこれ間違ってねェから。冷えねぇように俺なりの優しさ?まぁ俺自身が冷てぇからこの子的に温かく感じてるかは…わからんけど。

『それ以上、リオに触れるな』
「この子寝ちゃってるし、こぉんな冬島でしかも今は夜。海賊船も三隻は見かけたぜ?そんな危ない環境の中、お前が来るまで置き去りにしてけって言うの?そりゃあちょっと無いんじゃない?」

なぁ、“火拳のエース”さんよォ?

『…青雉か』
「お前とこの子がどういう関係なのかおれは知らねェよ。興味は…そうねぇ、興味は少し湧いちゃったかな。無垢で汚れがない。綺麗な瞳に、可愛いお手手しちゃってまぁ」
『マジで、今すぐお前をぶっ飛ばしてぇ』
「ははは、何言ってんの無理無理。お前さん不死鳥みたいに飛べないでしょ?来れない来れない」

煽りに煽りまくる青雉に、エースの怒りは爆発寸前だった。それでもなんとかギリギリで抑えられているのは、リオの存在があるからだろう。
青いねぇ、うんうん、青い青い。
5億ベリーの化け物もただの男なんだなぁ。

「今夜は安心してくれていいぜ。なんせおれァ、青キジのお兄さん、だからなぁ」
『…手ェ出してみろ、殺す』
「おー怖ェ怖ェ。い〜っぱい触っちゃお」

青雉テメェーーー!!!!!と
ここまで炎が届きそうな勢いでキレる火拳。
はー、楽しいなァ。なんて青雉は一人笑う。
これ以上話しても特に意味はねぇな、と踏んで画面に残る赤い丸を押してみようと指を伸ばす。

「ん、エース…くん」
『…リオ』
「おやおや」
「エースくんの、声が、する…どこ?」
『っ、リオ!』
「あいたい、会いたいよ……エースくん…」
「……眠っちゃった。ヒュー、色男ォ」

からかいの声をかければ、ブツッと途切れた。
どうやらあちらから切ったようで、何も聞こえては来なかった。ヤレヤレ、と肩を竦めながら立ち上がる。
この子、ホテルとってるのかね。ま、島のホテルの数は少ないし地道に聞いてあげようじゃないの。面白いもんを見れたお礼、ってやつだ。

青雉はリオを軽々と横抱きで抱え直し、星と雪が綺麗に舞う星祭りの広場を後にした。

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