朝、目を覚ますとそこはホテルのベッドの中だった。昨夜、青キジのお兄さんと話をしている途中で寝てしまったのを思い出す。
ということは、だ。ここへ連れて来たのは確実に青キジのお兄さん。またもや世話をかけてしまって面目ないというかこれは土下座ものなのでは?と額に手を宛てて猛省する。
ベッドサイドに目をやると、白い紙が無造作に置いてあったので手に取って読んでみる。
『次の島は秋島のテール島。次いで夏島のエクス島まで行けば、その次がカキツバタだ。夜に外出するのは控えなさい、って言ったでしょ。ちゃんと自分で気をつけるんだよ。そうそう、背後に炎が迫ってるから充分気をつけて。そんじゃあまたね、リオちゃん。 青キジのオニーサンより。』
し、心配させてる。
ちゃんと自分で気をつけるんだよ、って…!
真剣に怒られてる感がある!ごめんなさい。
…背後に炎が迫ってる?どういう意味だろう。
この置き手紙も、大事に取っておこう。小さく折り畳みカバンの中の小さなポケットへ。
次の島へのチケットを購入して、船へ乗り込む。港に停泊していた海賊船はすでになく。
海面がキラキラ輝いていたので目をやると氷の塊が浮かんでいた。さすが冬島と呼ぶだけある。
船が動き出して港を眺めていれば下船時に声をかけてくれたお婆さんの姿を見つけた。
気づかないかなぁ、と思いつつ大きく手を振れば「用心するんだよォ!」と思いのほか大きな声が届いた。笑ってお礼の言葉を大声で返す。
本当に、みんな優しい。
***
秋島、テール島。
その名の通り、島の人はみんな尻尾があった。
獣人!?とワクワクしたが獣耳はない。
分からない時は、ホテルのコンシェルジュさんへ聞くに限る。とにかく島のことに詳しいし、現地の人より声をかけやすい。部屋が空いているかも聞いてみよう。
「この島は、テール様という土地神様を祀っています。土地神様は動物の神様なので、我々島民はそのお姿を模して、飾りの尻尾を付けています」
「テール様!その、一種類では無いんですね?」
このホテルのスタッフさんでさえ、犬、猫、狐、うさぎ…などなど。様々な尻尾を付けている。
「あはは、そうですね。そこは各個人の自由と言いますか。尻尾があれば神様。そんな思考で皆さん好きな尻尾にしています。神様は寛大ですね」
「なるほどなるほど!」
売店にも様々な尻尾が並んでいますので、旅人さんもお好きな尻尾を付けてはどうでしょう?
笑顔で詳しく話してくれたコンシェルジュさんにお礼を言い、オススメされた売店へ。
狸、鳥、馬や牛。さらには魚や蛇まである。
品揃えが豊富すぎではないだろうか。
土地神様が何の動物なのか…気になってくる。
結局、私は白い狐の尻尾を選んだ。
白い狐。心をくすぐられる存在だよね…!
歩く度にピョコピョコ動いているのがわかる。
こ、これは某夢の国のカチューシャ的な効果があるかもしれない。テンション上がるわ。
秋島というだけあり、吹く風は涼しく空が高く感じた。木々も緑や紅色や黄色、色とりどり。落ち葉も多く、どこからかお芋の匂いが漂ってくる。
テール様の像があると聞いたので、手を合わせに行こうと周辺の地図が載る掲示板を見た。
近い所にあるのを確認し途中で焼き芋の匂いに釣られて一本購入。それを食べながら向かう。
「おお、テール様…テール様大きいな!?」
着いた先にはとても大きな銅像が。
なんと、テール様の正体はクジラだった。
まさかクジラとは想像していなかったよ…!
銅像の前にある石碑には、白いクジラと記されていた。“島を守るもの”という一文も共に。
当たり前だけど、ここは日本ではないのでお賽銭箱は無いし社務所もない。周りにいる人たちも各々像を見上げていたり、スケッチをしている人がいたり柵から海を眺めていたり…過ごし方も様々だ。
テール様は神様ではなく“テール様”という存在なんだろうなぁ、と推察する。
私は両手を合わせて頭を下げた。
「何事もなく、エースくんと会えますように」
祈るだけなら、いいよね。
テール様の像から離れて、街中へと戻る。
ここの洋服や雑貨、本も見てみたいな。
道中すれ違う子ども達は楽しそうに笑っていて。
手を繋いで歩いている老齢のご夫婦。
路上で歌ったり、踊っている若者もいる。
ああ、平和だなぁ。なんて和んでいた。
「海賊だァー!!!」
…和んでいたんですけどね。
港側から男性が数名、叫びながら走ってきた。
子ども達は家へと急ぎ、賑わっていた商店街も各店舗ドアを閉めてCLOSEの札に変える。
やはり危ないんだな。私もホテルへ戻ろう。
足早にホテルへ戻るとすぐに正面のドアが閉まる。海賊、海賊か。やっぱり怖い…のかな。
バァン…!
初めて聴く音に肩が上がる。
今のは何だろう、もしかして銃声?
スタッフさんが手招きするので、近寄ればフロントの裏側へ案内された。いつ踏み込まれるか分からないので、ここに身を隠してほしい、と。あなただって、危ないのに。同じ命でしょう。
それでもお客様を優先してくれるのか。
…うん、こういう海賊行為は許されないぞ…!
ホテルのエントランスはガラス張りなので、その海賊の姿を確認することが出来た。
かなり大柄な男を先頭に、ぞろぞろと連れ立って道の真ん中を歩いている。15人くらいかな…。
銃だったり、腰に剣も差している奴もいる。
本物だ。…本物とは何だ?って気持ちもあるが。
「この島にィ!ワタユキ島で青雉と一緒にいた女がいるはずだァ!今すぐここへ出て来い!匿っても無駄だ!逃げられるとも思うな!!」
わぁ、私のことだ。
ワタユキ島で一緒にいたもんなぁ。
でもなんで私なんかを探しているんだろう?
スッ、と立ち上がればスタッフさんが腕を引いた。あなたなの?と目が聞いているので頷く。
もしかしたら、殺されるかもしれない。
…怖い。怖いよ。でも、私はこの世界の人たちに優しくしてもらった。良くしてもらった。
出ていかなければ、誰かが犠牲になりそうで…私はそれが嫌だった。私が出ていけば、誰も傷つかないかもしれない。
スタッフさんに笑いかけて、手を離してもらう。
「!よォ、大人しく出てきたな」
「私になんの用ですか?」
「なんの用!?用は大ありだ!!青雉はおれたちの船を壊し!クルーが何人も海軍へしょっぴかれた!テメェを攫って海軍へ連絡すりゃア、青雉が出てくるだろう!テメェはそん時の交渉材料になってもらうんだよ!!」
「…なるほど。ですが、私なんかを人質にしても意味はないと思いますよ。私一人のために青キジさんが出てくるとも限りませんし」
ズドォン!!!
空に向けて銃弾を放つ海賊。
目を瞑り、拳をギュッと握る。
そして銃口が私に向けられた。怖い。怖い。
「テメェなめた口たたくじゃねェか。おれたちが怖くねェのか?あ?野郎共、おれは誰だ!?」
「「「キャプテン・アックス!」」」
「おれたちは、誰だ!?」
「「「アイアンアックス海賊団!!」」」
手にしてんの銃じゃん。斧はどこよ。
とは言うまい。斧も怖いが銃はもっと怖い。
ウオオォォオ!!!と叫んでいる海賊たち。
ビリビリと鼓膜が揺れる。グッと眉間に皺が寄るのがわかった。怖い、でも、不快だなとも思う。
「…いい目をするじゃねェか。おい、その女を連れて戻るぞ!痛い目見せてやるぜ青雉ィ…」
手下の男に腕を掴まれた。
もう一人、私の反対に来て何故か銃を構えている。何故?振り返った先に老齢のご夫婦が。
狙っているのか。抵抗していない人を。
自由に命を奪える権利でも持ってるのか。
その下衆い笑みは何。海賊って、なんなんだ。
引き金を引く直前に、私は両手で男の手を思い切り下へ叩き落とした。どうして動けたのか…と聞かれたら、この男への純粋な怒りで、だ。
「邪魔すんじゃねェ、女ァ!」
「人の命を奪う権利があんたにあると思ってんの!自由に奪えるほど人の命は軽くない!!」
「自由に奪えるのが海賊なんだよ!」
「人を狙うのは、自由じゃない!!」
「何言ってんだテメェ!!」
ガツッ!!と頭に衝撃が走る。
何か固いもので殴られたらしい。
鈍い痛みで視界がぼやけていく。
「今ここで殺されねェことをありがたく思え!」
「くそ、くらえよ…」
その言葉を最後に、私は意識を手放した。