ふ、と意識が浮上した。
腕は後ろに回され手首は縄で縛られている。
足は片方に鎖が付いていて柱に繋がれていた。
辺りを見渡せば薄暗い部屋、のようだ。波の揺れを感じるので恐らくここは船の一角だろう。
船、まだ持ってんじゃん。と頭の片隅で思う。
「頭ァ、女が目を覚ましたようですぜ」
見張りの男が、外にいるであろう船長へ声をかける。見張りの男はたぶん、最初に腕を掴んだ男だ。…まぁ、手下の海賊は皆同じような服装で見分けがつかないので断定は出来ないけど。
腕を掴んで立たされ、外へ出る。
足についた鎖がジャラジャラと邪魔くさい。
「おう、起きたか」
船長の男を一瞥した後、甲板を見渡す。
…この船、乗ってきた定期船では?
奪ったわけね。海賊ってのはほんと腹が立つ!
「海軍へ連絡する前に、そうだなァ…。お綺麗な姿で返すっつーのも面白くねェよなァ?」
下卑た笑いでこちらを見る海賊たち。
気持ち悪い。自分でいうのもなんだけど、私ノーナイスバディだからな。標準も標準の日本人体型だぞ!…この笑い方は女なら誰でもいいのか。
海の藻屑になってくれ。
私に近づいてきたのは、先ほど島民に銃を向けた馬鹿野郎だった。かー!嫌悪感!!
「よォ、死にたがりの女ァ。死んだ方がマシに思えるくらい、可愛がってやるからな?」
あんたが死ねばいいのに。
おっ、と。本音が出ちゃうとこだったわ。
首筋を無遠慮に触られ鳥肌が立つ。
だめだ。こいつダメだ、いやまぁどいつでもダメなんだけど、ほんと、生理的にこいつ無理。
ドン、と肩を強めに押されて尻もちをついた。
「船長、おれからでいーんスよね」
「あァ。おれぁ嫌がる顔を拝ませてもらうぜ」
「船長悪趣味〜!」
「船長最高〜!」
最低、最悪。
こんな奴らに犯されてしまうのか。
後ろに回された手首を動かすが外せそうもない。
少しでも遠ざかりたくて尻もちをついたまま、鎖を引きずり下がろうと試みる。
しかし、ドン!とスカートの裾を踏まれた。
泣いてたまるか。震える唇を噛み締める。
こんな奴の前で、涙は流したくない。
「あの威勢の良さはどこいったんだ?」
声さえ、出したくない。
こんな奴に。こんな、汚い人たちに。
「一枚ずつ、服を切り裂いていきまァーす」
「「「フゥゥー!!ヤッちまえ!!」」」
「泣き叫んでみろよ!」
「なァ、聞きてェんだが」
わぁっ!と馬鹿みたいに盛り上がる海賊たちの声をかき消したのは、一人の男性の声。
船長を含めた全員が一斉にそちらを向く。
もちろん、私も。
「この辺で青雉が出たって話、知ってるか」
「なんだテメェ、どっから現れた!?」
「まぁまぁ落ち着けよ。お前ら青雉にやられたんだろ?おれもアイツを探してんだ」
「ほォ?テメェも海賊か。そりゃいい。おれ達はワタユキで船を沈められてなァ…。その原因の女を捕まえたからよォ!これから海軍を、青雉を出し抜いてやろうとしてんだ」
再び笑う海賊たち。
船の手すりに乗って話すその人は、オレンジ色のテンガロンハットを被る、上半身裸の男性。
逆光で、その顔も表情も見えない。
「へー。で、もいっこ聞きてェんだが。テール島が誰のナワバリか、お前ら知ってるか?」
「ナワバリィ?この辺は特にいねェだろ?」
「お前ら島の像見たことねェの?」
そう言われて思い出すのは、クジラの像。
何か関係しているんだろうか。
というか、この人はなんなのだろうか。
「クジラがいたろ。これでもわからねぇ?」
「ま、まさか。そんなはずはねェ!あんな小せェ島を縄張りにしてるわけがねェよ!!」
「そこの島民、撃とうとしたんだって?」
「撃ちはしたが、当たってねぇ!」
「当たったかどうかは関係ない。撃った・って事実があんだろ。そんで、一人攫ってやがる」
私への視線を感じる。
…私はこの人の声を知っている。
それはずっと会いたいと思っている人のもの。
でも、まさか。どうしてここに?
今、私がどこにいるのか知らないはず。
本人かな、わからない。だけど、この声は。
「エースくん…?」
ぽつり、名前を零してしまった。
するとその人は弾かれたように手すりから降り、ざわつく海賊たちの間を無言で通り抜けて、一直線に私の元へやってくる。
違ったのかな、似てただけかな。
伸びてきた腕に驚いて目を瞑れば、優しく頭を撫でられた。恐る恐る瞼を開けるとにっこり、眩しい太陽のような笑顔がそこにあった。
「待たせてごめんな、リオ」
私の名前が紡がれた瞬間、涙が溢れた。
「おい、あいつの、背中…」
「嘘だろ…ま、まさか、」
エースくんの背中を見て震え出す海賊たち。
ぐい、とエースくんの両手が頬を包んでくる。
温かい手のひらが心地良い。
こんな状況なのに、へらりと笑ってしまう。
エースくんに触られるのは…怖くない。
「リオ、おれだ。ポートガス・D・エースだ」
「うん、」
「リオに会いたかった」
「私も、エースくんに会いたかったよ」
涙を親指で拭ってくれる。
優しく、とても優しく。
手首を縛っていた縄が外され、ジュウゥ…という溶ける音と共に足の鎖も外れた。
私の腕はエースくんの首へ回されて、抱き抱えられる。そしてしっかり捕まってろよ、という声と共に空へ飛んだ。
見事に手すりへ降り立つと海賊たちへ一言。
「テメェら、逃げきれると思うなよ」
彼の放った一言で、ドサドサ!と倒れる音が耳に届いたが、今の私には瑣末なことだった。