17

エースくんに抱えられ、海上を行く。
そう。抱えられて。いわゆるお姫様抱っこだ。
状況が状況だったので何も思わなかったけど。
船から離れて数分経つと…冷静になるわけで。

「あの、エースくん?」
「どうした?島までもう少しの辛抱だぞ」
「ありがとうございます、いえ!違うんです。
その…!腕大丈夫ですか、重くないですか?」

チラリ、エースくんを伺う。
すると彼はキョトンとした顔を向けていた。
直後、ニヤリと悪い笑み。

「リオは海、泳げるか?」
「うわぁぁあ泳ぎます!降ろしてください!」
「ぶ、ははは!!悪ィ悪ィ、降ろさねェって!
それにもう、離すつもりもねぇよ」

そう言った後、背中や足に回されているエースくんの腕の力が、強まった気がする。
ひぇぇえぇ!かっこいい…!
…エースくん、本当に上半身裸なんだな。
いやまっ、待って。胸板厚い…!うわわわ何か!なんかっ…!!急激に恥ずかしさがきた…!

「エースくん、エースくん」
「んー?」
「恥ずかしくなってきました…」

顔も見れずにいると、
「あぁー、やべぇ。かわいい…」
そんな声が届く。
嘘でしょ、やめてください干上がります。
何を言っても自分の顔が赤くなるだけだ・と、判断した私は島へ着くまで大人しくすることに。
この際、思いきって抱きついてしまおう。そうしよう。鎖骨綺麗だなぁ…邪な目で見ちゃう…!

ストライカー、と呼んでいたエースくん専用の船を降りてそのまま街中へ向かう。
島に着いてすぐに降ろしてもらったが、産まれたての子鹿のように足がプルプルと震え、立っていられず再び抱えられてしまった。
重ねてお手数をおかけします…!
ホテルの前まで来ると、島民の皆さんが集まってきた。子ども達やホテルのスタッフさん、若者達からご高齢の夫婦まで。

「大丈夫でしたか!?お怪我は!?」
「お姉ちゃん震えてる…」
「無事だったか!兄ちゃんこっち座らせて!」

近くのベンチに座らせてもらってエースくんにお礼を言う。そして島民の皆さんへ自分は大丈夫だと伝え、ありがとうございますと声をあげた。
すると、ご高齢の夫婦が近くにやって来た。

「お嬢さん、あの時庇ってくれたでしょう?」
「いえ、庇うだなんて。大それたことは…」
「大それたことよ。銃口は主人を捉えていたわ。あの目はそういう意味だったもの。お嬢さんのお陰でこうして生き永らえたのよ。ありがとう」
「ありがとう、お嬢さん」
「私はとにかく必死で…!私があの場所にいるせいで、誰かが傷つくのを見たくなかったんです。すみません、行動理由は自分のためなんです…」
「それでも、」

ギュッと奥さまが両手を握ってくれる。
旦那さまは優しく背中を摩ってくれた。

「それでも。私たちはあなたに救われたの。
本当に、ありがとうございました…!」

また、じんわりと涙が溢れる。
よかった、この人たちが傷つかなくてよかった。
傍にいたエースくんが頭を撫でてくれる。
よくやったな、と言ってくれているみたいだ。

「おれはもう一度さっきの海賊の元へ行ってくる。その間にうちの仲間が来るはずだ。それまで彼女を…リオのことを、頼んでもいいか」
「もちろんだ!任せておけよ!」
「あいつら、思いっきりやっつけちゃって!」
「ありがとう、火拳の兄ちゃん!」

エースくんが大きな声をあげると、島民の皆さんもそれに応えた。ナワバリというだけあって、信頼関係があるんだね。なんだか素敵だ。
ほっこりしていると、エースくんは私の目の前に片膝をついて座り両手を握った。

「リオ」
「は、はい!」
「すぐ戻る。必ず戻る。ここにいてくれるな?」
「帰って、くるんですね?」
「ああ、リオの元に帰ってくるよ」
「待ってます。…行ってらっしゃい」
「おう!行ってくる!」

再び、太陽のような眩しい笑顔で笑う。
背を向けて走って行くエースくんを目で追った。

その後、エースくんのお仲間の方々が現れた。
第一声が「みんな怪我はないか?」と、皆さんの無事を確認していて、やはり先ほどの海賊たちとは違うんだなと思った。小さく息を吐く。
微かに手が震える。心配しなくても大丈夫だと分かってはいるが、体はまだ怯えていた。

「あんたが、エースの探し人だな?」

そんな時、目の前に一人の男性が来た。
特徴的すぎる髪型に目が行ってしまう。
次いで、その格好。そして身長。
エースくんは完全に上半身裸だったけど、この人も…、この人も上半身はほぼ裸じゃないか。
目のやり場に困る。
質問をされたのを思い出し、なんとか頷く。

「おれは白ひげ海賊団一番隊隊長のマルコだ」
「マルコ、さん」
「おれの名を知ってるって顔だな」
「よく、エースくんのお話に出てこられました」
「あいつどんな話してんだよぃ…。いや、それは置いといて。テール島を縄張りに持つうちの船長、白ひげに変わり礼を言う。ありがとう」

スッ、と頭を下げられた。
礼儀正しいな。なんて思いつつポカンとする。
ナワバリ、縄張り。海賊にとってそれがどういう意味を持つのかまだ私は知らない。お礼を言われるほど大事なものだというのはなんとなく、分かるけれど。

「怪我はしていないか?」
「はい。手首を縛られたくらいです」
「お嬢さん、殴られていたじゃないか!」
「…えっ、私殴られてました?」
「なんで本人が覚えてねェんだよい」

殴られた衝撃で記憶が飛んだ?
…そんなわけないな、言われてみればそうだ。
連れて行かれる前に頭を殴られたっけ。
後頭部をさすってみる。たんこぶになってるかな?うーん、元からこんな形だったような。

「…患部を触っても?」
「え?」
「あんたはエースの女だろう。おれが勝手に触れてアイツに怒鳴られるのも癪だからな」
「エースくんの女!?」
「?違うのか?」

ぼふっ!!と顔が赤くなるのがわかる。
いや、いやいやいや、大事にしてくれたけど!
決してそんな関係ではない。
そう思われてるなんて。正直、嬉しいです!

…マルコさんの目が早くしろ、と言っている。
すみませんでした。

「ここだな、痛いか?」
「うっ、少し痛い、です。たんこぶ…ですね?」
「ああ。吐き気や目眩はどうだ」
「今のところ、大丈夫です」

お医者さんみたいだな。
テキパキと動くマルコさんを見ていたら、手から青い炎が現れた。…青い、炎?炎!?
驚いて身を引くが簡単に後頭部を掴まれる。
髪が燃えてしまいますが!?

ビビりながら目の前のマルコさんを見やれば、
僅かにだが肩を揺らしていた。

「…なんでちょっと笑ってるんですか」
「別に髪を燃やしてるわけじゃねェよい」
「な、何をしているのか、仰ってくれても良いと思うのですが!」
「ふ、はは、悪ィ。おれの能力で治癒してるんだよい。ま、微々たるモンだけどなァ。しないよりはマシ、そんな治療だ」

おれの能力。
…あ!あれだ。能力者は、なんだかすごい人!
マルコさんも能力者なのかぁ。
未だにそれがなんなのか首を傾げるけど。
青い炎は、温かくて優しい炎だった。
痛みも少しずつ無くなっている気がする。

「ありがとうございます」
「…自由に奪えるほど人の命は軽くない。
そう啖呵を切ったらしいな?」
「どなたから聞いたんですか…。はい、その時は私もだいぶ頭に血がのぼっていまして…」
「海賊相手に、よく言えたもんだ」
「だって、腹が立ったんですよ」

人の命を奪える銃を構えて。
抵抗していない人を無差別に選んで。
まるで自分が命を掌握しているかのように。
その神経が本当に信じられなかった。

「自分が撃たれる可能性もあっただろう」
「私ならいいんです。というか、私を狙わなかったのも腹が立った一因ですかね」
「死ぬかもしれねェのに?」
「私以外の誰かが狙われるよりはいいです。
今思い出しても、アイツには腹が立ちます!」

他人にこれほどの怒りを持ったのは初めてかもしれない。上司への感情はまだ可愛いレベルだ。
ハゲ散らかして欲しいとまだ思っているが。

マルコさんと話をしていたら、どこか遠くで
ドォォン!!と何かが壊れる音と煙が見えた。
派手にやったなァ。マルコさんが呟く。
もうもうと立ち上る煙に目が釘付けになった。

「なんでしょう、火事かな…?」
「ある意味、火の海だろうな」

疑問符しか浮かばない私を見て、マルコさんが再び肩を揺らした。くぅ、また笑われている!

青い炎での治癒?を終えた頃、ホテルのスタッフさんがやって来て、私が置いて行ったカバンやコート、マフラーを手渡してくれた。
助けられなくて申し訳ありませんでした…。と、頭を下げてきたので、身を案じてくれたことに感謝を伝えた。スタッフさんが罪悪感を覚える必要は全くない。悪いのはあの海賊たちだ。

こんな事が起こってしまいましたが、是非またテール島へ遊びにいらしてください。そう仰ってくれたので、もちろんです!と答えた。
エースくんに会わせてくれたテール様にも、
感謝しないとなぁ。なんて思う。
コートを羽織ってマフラーを巻き、立ち上がろうとベンチの手すりを掴む。足に力を入れると立つことが出来た。よし、子鹿回避したぞ!

「…大丈夫か?」
「はい!立ててます!」
「ふ、そうだな。ちゃんと立ててるぞ」
「マルコさん」
「よぃ」
「…すみませんが腕を貸していただけませんか」
「なんだ、歩けねェのか?」
「膝が笑ってます」

ダメだったー!!まだプルプルしてる!
ちくしょう、気を抜くと膝から崩れ落ちそう。
マルコさんはもう隠しもせず笑っている。
仕方ない、仕方がないんだよ!!

「手ェ引いてやろうか」
「もはや介護…。恐れ入ります、お願いします」
「お願いするのかよい。変わった奴だなァ」
「歩けないほどとは思ってませんでした…!」

両手を持ってもらい、少しずつ歩く。
地面に足が着く感覚が戻ってきた。
よし!もう、大丈夫!

マルコさんへ目をやれば、口元が笑っていた。
今さらながらだいぶ恥ずかしいことをしたな。
付き合ってくれたマルコさんには頭が下がる。
背筋を伸ばし、しっかり立つ。
ゆっくり大地を踏みしめ歩き出した…その時。

「リオ!!」

走ってくるエースくんの姿を見つけた。
エースくんだ。戻ってきてくれた。
ぐ、と膝に力を入れて一歩前へ。
もう一歩。もう一歩。
少しでもエースくんに近づきたくて歩く。

「エースく、」

カクン、と膝が折れる。
地面へ顔面からダイブを避けようと咄嗟に腕を伸ばしたら、その腕をグイッ!と引かれた。

「リオ!大丈夫か!?」
「…エースくん、」
「前から子鹿が歩いてきたかと思ったぞ!」
「エースくん」
「マルコに見てもらったか?怪我はねぇな?」
「エースくん、ありがとう」

強く引かれて倒れ込んだ先は、エースくんの腕の中だった。包み込むように抱きしめてくれるエースくんに、引っ込んでいた涙が溢れそうになる。
何故か胸がきゅっと締め付けられた。

「リオ、ただいま!」
「おかえりなさい、エースくん!」

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